📝 この記事のポイント
- 休日の昼下がり、銀行のATMで操作を間違えて、後ろに並んでいる人のプレッシャーを感じた。
- 普段ならチャチャッと終わるはずなのに、なぜかボタンを押し間違え、確認画面で固まる。
- ああ、こういう時に限って、機械はなぜか動作が遅い。
休日の昼下がり、銀行のATMで操作を間違えて、後ろに並んでいる人のプレッシャーを感じた。
普段ならチャチャッと終わるはずなのに、なぜかボタンを押し間違え、確認画面で固まる。
背中に突き刺さる視線。
焦る。
額にじんわり汗が浮かんできた。
ああ、こういう時に限って、機械はなぜか動作が遅い。
単身赴任から帰ってきて、もう半年。
家族との暮らしは、思ったよりもバタバタしている。
特に、週末のルーティンがまだ掴めない。
平日は会社員として働いているのに、土日もなんだかんだと忙しい。
自分のペースを取り戻せないまま、いつの間にか夕方になっている。
昨日もそうだった。
子どもたちと公園で泥だらけになって、帰ってきて風呂に入れて、洗濯機を回す。
妻は妻で、溜まった家事に追われている。
リビングのソファに倒れ込んだ瞬間、「あー、少し横になりたい」と呟いた。
すると妻が、「少し寝たら?
15分くらいで」と、すかさずスマホを差し出してきた。
僕は半信半疑で、言われるがままソファに横になった。
意識して15分で起きるなんて、そんな器用な真似、僕には無理だ。
昔から寝始めると止まらないタイプ。
一度ベッドに入ったら、よほどのことがない限り3時間は起きない。
それはもはや昼寝ではない。
完全な夜の部突入だ。
以前、職場の同僚が「昼休みは必ず15分寝るんですよ。
アラームセットして、パッと起きて、午後からバリバリ働けるんです」と自慢げに話していたのを思い出す。
彼曰く、「寝たっていうより、ウトウトしただけ」らしい。
ウトウト。
その響きが、すでに僕には理解不能だった。
ウトウトって、何?
睡眠に含めるの?
僕はウトウトなんてできない。
瞼を閉じたら最後、そこはもう夢の世界。
夢の中ではいつも、なぜか会社の会議室で、資料が全部白紙になっている夢を見る。
焦って飛び起きると、頭はガンガンするし、むしろ午前中より疲れている。
これが僕の昼寝だ。
だから、妻の「15分くらいで」というアドバイスは、僕にとっては拷問に近い。
だって、ちょうどいいところで夢が中断されることになる。
白紙の資料を前に、絶望の淵に立たされた瞬間に叩き起こされるなんて、想像しただけでゾッとする。
でも、妻の昼寝は違う。
彼女は本当に、15分でシャキッと起きる。
しかも、ちゃんと「ああ、寝た寝た」という顔をしている。
ソファに座ったまま、頭を少し傾けて目を閉じ、タイマーが鳴ると同時にパッと目を開ける。
その姿はまるで、充電器からスマホを抜くかのようにスマートだ。
「え、もう終わり?
」「うん、スッキリした」なんて会話が、単身赴任から帰ってきてから何度かあった。
そのたびに僕は、自分の睡眠システムが、いかに効率の悪いアナログ式かと思い知らされる。
僕の体は、一度スリープモードに入ったら、再起動にやたら時間がかかる、古いパソコンみたいなものだ。
春が終わり、梅雨の湿気が肌にまとわりつく季節になった。
寝苦しい夜も増えてきて、日中の眠気は募るばかりだ。
朝、子どもたちを送り出して、妻を見送った後、リビングのソファに座り、ぼんやりと窓の外を眺める。
灰色の空。
じめっとした空気。
ああ、こんな日は、きっと誰もがウトウトしたいはずだ。
ある日、スーパーに買い物に行った時だった。
レジに並んでいると、前の奥さんが、カゴいっぱいにパンを詰め込んでいる。
食パン3斤、菓子パン5個、惣菜パンも。
すごい量だ。
大家族なのかな、なんてぼんやり考えていると、奥さんがスマホを取り出し、店員さんに「これ、ポイントカードで」と提示した。
そのスマホケースが、ものすごくフカフカした素材だった。
まるで、低反発枕をそのまま貼り付けたような分厚さ。
しかも、猫の耳が付いている。
そのケースを見ていると、なんだか癒される。
ああ、この人、きっと疲れているんだろうな。
フカフカのスマホケースで、少しでも心が休まるなら、それでいい。
僕もそういうの、ちょっと欲しいな。
いや、スマホケースで癒されたいんじゃない。僕はただ、心ゆくまで昼寝がしたいだけなんだ。でも、妻曰く「昼寝は贅沢品。短くても、深くても、寝られるだけマシ」とのこと。うーん、なるほど。それは一理ある。
先週、子どもと公園に行った時、ベンチで寝ているおじいさんを見た。
完全に爆睡だ。
口は半開きで、いびきが聞こえてきそう。
横には、新聞がクシャッと丸まって落ちている。
きっと、新聞を読みながらウトウトして、そのまま夢の世界へ旅立ったのだろう。
羨ましい。
僕も、あんな風に眠ってみたい。場所を選ばず、時間も気にせず。でも、僕はまだ40代。公園のベンチで、口を開けて寝ているわけにはいかない。妻と子どもに「お父さん、だらしない」と言われるのがオチだ。
それに、単身赴任中だったら、誰にも咎められず好き放題昼寝ができた。
休日の昼間から、カーテンを閉め切って、電気を消して、エアコンをガンガン効かせて。
アラームなんてかけずに、目が覚めるまで寝ていたものだ。
目が覚めたら、もう夕暮れ時。
ベランダに出ると、夕焼け空が妙に心に沁みたりして。
あれはあれで、悪くなかった。
でも今は、家族がいる。子どもたちが「お父さん、遊ぼう!」と飛びかかってくる。妻が「ねえ、これ手伝って」と声をかけてくる。そんな中で、自分だけ爆睡するわけにはいかない。
先日、会社帰りに本屋に立ち寄った。
ビジネス書コーナーで、「最高のパフォーマンスを引き出す昼寝術」みたいなタイトルの本が平積みになっていた。
思わず手に取ってしまった。
パラパラとめくると、「午後の眠気を解消し、集中力を高める『パワーナップ』とは?
」と書いてある。
パワーナップ。響きがカッコいい。いかにも意識高い系が好みそうな言葉だ。僕がやっているのは「パワーナップ」ではない。完全に「パワーオフ」だ。しかも、復旧に時間がかかる。
本には、カフェインナップなるものも紹介されていた。
コーヒーを飲んでから昼寝すると、カフェインが効き始める頃に目覚めて、スッキリするという。
ほう、そんな技があるのか。
でも、僕の場合、コーヒーを飲んだところで、爆睡の勢いは止められないだろう。
むしろ、カフェインの作用で、夢の中の会議室がさらにカオスになる気がする。
資料が白紙なだけでなく、なぜか社長がウクレレを弾いていたりするかもしれない。
最近、少しずつ暑くなってきた。夏の気配を感じる。半袖のシャツを出して、衣替えも済ませた。でも、まだ朝晩は肌寒い日もある。気温の変化についていけないのか、体がだるい。余計に眠くなる。
会社で、新入社員の若い男の子と話す機会があった。
彼は週末の過ごし方について、「僕、休日もだいたい15時には起きてるんですよ。
午前中にしっかり寝て、午後から活動するんです」と言っていた。
彼は「寝たっていうより、ウトウトしただけ」派ではないらしい。
「しっかり寝る」派のようだ。
僕と同じだ。
なんだか親近感が湧いた。
「すごいね。午前中って何時くらいまで寝てるの?」と聞くと、彼は笑顔で答えた。「だいたい午前9時くらいには目が覚めますね!」
……午前9時。
僕が単身赴任中、午前9時はまだ夢の入り口だった。
いや、もっと言うと、午前9時なんて、まだ深い深い夢の底だった。
土日なら、昼過ぎまで寝ていたって普通だった。
いや、むしろ午前中に起きている方が珍しかった。
それを考えると、僕は彼の何倍も「しっかり寝ている」ことになる。
なんだ、僕の睡眠システムも、捨てたもんじゃないじゃないか。
単身赴任から帰って、家族と暮らすようになってから、睡眠時間が短くなったのは事実だ。
でも、それでもまだ、午前9時に起きられる彼よりは、深く長く眠れている。
まあ、彼とは体力も違うし、年代も違う。彼が午前中にしっかり寝て、午後から活動するのなら、それはそれでいい。僕が昼過ぎまで寝て、午後から「今日何しようかな」とぼんやり考えるのも、それはそれでいい。
先日、近所のショッピングモールで、家族でウィンドーショッピングをしていた時のこと。
妻が「ねえ、ちょっと見て」と、僕の腕を引っ張った。
雑貨屋さんの店頭に、面白い商品が並んでいた。
首元に装着するタイプの、小型の扇風機だった。
「これ、昼寝する時にいいんじゃない? 涼しくて、快適にウトウトできるかも」と妻が言う。
僕は苦笑いした。ウトウト。やっぱり妻は「ウトウト」派なんだな。
僕にとっての理想の昼寝は、むしろ、少し暑いくらいの部屋で、扇風機の音を聞きながら、いつの間にか深い眠りに落ちていく、あの感じだ。
体が少し熱くなり、汗ばむことで、より深く、長い夢の中へ誘われる。
そして、目が覚めた時には、全身の力が抜けて、ぐにゃぐにゃになっている。
それが僕の「昼寝」だ。
妻の「15分ウトウト」と、僕の「3時間爆睡」。どちらが良いかなんて、優劣をつけられるものではない。人は人、自分は自分。それぞれの昼寝があって、それぞれの「寝た!」という満足感がある。
結局のところ、僕は今日もまた、ソファに横たわりながら、果たしてウトウトできるのか、それともがっつり夢の世界へダイブしてしまうのか、自分でもわからないまま、目を閉じるのだろう。
そして、もし15分で目が覚めたら、それはそれで、自分を褒めてあげたい。
もし3時間寝てしまっても、それはそれで、自分を許してあげたい。
どちらにせよ、体が少しでも休まれば、それでいいのだ。
まあ、妻には「また爆睡してたでしょ」って笑われるんだろうけど。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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