📝 この記事のポイント
- 自販機で買ったコーヒーが想像と違う味で、一口で後悔した。
- 求めていたのは、もっとこう、胃の腑に染み渡るような優しい苦味だったのに。
- 冒険はやめて、いつものブラックにすればよかったと、春の陽気でちょっとぼんやりした頭で考える。
自販機で買ったコーヒーが想像と違う味で、一口で後悔した。
ああ、これじゃない。
求めていたのは、もっとこう、胃の腑に染み渡るような優しい苦味だったのに。
なんでいつもこうなんだろう。
冒険はやめて、いつものブラックにすればよかったと、春の陽気でちょっとぼんやりした頭で考える。
こういう日って、なんか変なことに出くわしがち、なんだよね。
案の定、その日は変なものを目にした。
スーパーへ向かう道の途中、いつもは何も停まっていない広い駐車場の一角に、見慣れないトラックが。
しかも、荷台の横っちょに「いちご」って手書きの看板が掲げられてる。
え、何あれ。
露店?
トラックの横に、赤いプラスチックのケースがずらりと並んでいて、その中には真っ赤ないちごがぎっしり。
しかも、値段がべらぼうに安い。
普段スーパーで買ういちごの、半分くらいの値段じゃない?
思わず二度見しちゃった。
トラックの周りには、すでに数人の主婦らしき人たちが集まっていた。
みんな、なんかちょっとソワソワしてる。
私も思わず足を止めて、遠巻きに様子を伺う。
あのいちご、本当に大丈夫なのかな?
あまりにも安すぎる。
旬だからって、ここまで値段が下がるものだろうか。
頭の中で、疑念と食欲がぐるぐる渦を巻く。
中学生の息子がいちご大好きなんだよね。
この値段なら、山ほど買ってあげられる。
そう思うと、心がざわつく。
でも、同時に「これ、もしかして…」という嫌な予感もよぎる。
なんか、ちょっと怪しくない?
もしかして、どこかから「流れてきた」ものだったりする?
いや、まさかね。
でも、トラックから直売っていうのが、どうにもこうにも、普段の買い物とは違う空気を醸し出している。
農家さんが直接売りに来てるのかもしれないし、卸売市場で余ったやつとか?
いやいや、そんなことある?
私の頭の中は、もう完全に名探偵コナン状態。
動機は安さ、凶器はいちご、みたいな。
「あら、奥さん、今日はいちご安いわよー!
」と、トラックの運転席から出てきたおじさんが、人懐っこい笑顔で声をかけてきた。
ああ、もう。
「奥さん」って言われると、なんか身構えちゃうんだよね、この歳になると。
でも、その声はなんだか朗らかで、妙に安心感がある。
おじさんの顔は日焼けしてて、なんか農業をやってそうな雰囲気。
「とれたてだよ!
」って言われて、ますます心が揺れる。
私も昔、そういう衝動買いをしたことがあったっけ。
デパートの催事場で、普段は絶対買わないような高級そうな化粧品を、勢いで買ってしまったことが。
あの時も「今だけ!
」「限定!
」みたいな言葉に踊らされたんだっけ。
結局、一度使ったきり、洗面所の奥で埃をかぶっていたような。
今回のいちごも、もしかしたらそういう衝動的な買い物になるのかもしれない。
見た目はすごく美味しそうだけど、味がイマイチだったらどうしよう。
いや、きっと美味しいはず。
あんなに真っ赤なんだもの。
隣で見ていたおばあさんが、「あら、これ、とっても甘くて美味しいのよ。
いつも買うの」なんて言って、慣れた手つきで三パックも買っていくのを見た時、私の警戒心は一気に緩んだ。
常連さんまでいるのか!
じゃあ、大丈夫なんじゃない?
おばあちゃんが言うなら、間違いない。
おばあちゃんの言葉って、なんであんなに説得力があるんだろう。
人生経験の重み、みたいなものかな。
私なんて、息子の「ゲーム買って」攻撃にさえ、まともに反論できないのに。
おばあちゃんの言葉に背中を押されて、私も一歩、トラックに近づいた。
すると、いちごの甘酸っぱい香りがふわっと漂ってきて、もう抗えない。
春の匂いだ。
甘くて、ちょっと切なくて、なんか、昔を思い出すような。
小学校の遠足で、いちご狩りに行った時のこと。
あの時も、夢中になって食べすぎて、お腹がパンパンになったんだっけ。
そんな懐かしい記憶まで蘇らせるなんて、いちご、恐るべし。
結局、私も二パック購入。
一パックは息子のおやつに、もう一パックは明日の朝食に。
レジのおばちゃんみたいにバーコードをピッとするわけでもなく、おじさんが手書きの伝票にサラサラと書いていく姿も、なんだか新鮮だった。
お金を払って、ずっしり重いいちごのパックを受け取ると、もうすっかり「怪しい」なんて感情はどこかへ吹き飛んでいた。
むしろ、なんか得した気分。
家に帰って、早速息子に「見て、これ!
」とドヤ顔でいちごを見せたら、「うわ、すっげー!
どこで買ったの?
」と目をキラキラさせていた。
よし、作戦成功。
息子が喜んでくれる顔を見るのが、パート主婦の一番のご褒美、なんだよね。
夕食後、デザートにそのいちごを出してみた。
息子は「うまっ!
めっちゃ甘い!
」と、すごい勢いで食べている。
私も一つ口にしてみる。
確かに、甘い!
そして、なんだか懐かしい味がする。
スーパーで買う、綺麗にパックされたいちごとは、ちょっと違う。
粒は不揃いだけど、その分、素朴な味わいがある。
この「怪しい」かもしれないいちごを買ったことと、スーパーで吟味して買うこと。
どっちがいい、悪い、なんてないんだよね。
スーパーは品揃え豊富で、いつでも同じ品質のものが手に入る安心感がある。
でも、たまにこういう「一期一会」みたいな出会いも、悪くない。
むしろ、そっちの方が記憶に残ったりする。
最近、なんだか季節の変わり目で、体調も気分もゆらぎがち。
朝起きて、今日は何を着ようかなってクローゼットを漁りながら、「もう長袖は暑いかな、いやでも朝晩は冷えるし…」なんて、毎日小さな葛藤を繰り返している。
衣替えって、毎年してるはずなのに、なんでこんなに難しいんだろうね。
気分が上がったり下がったり、まるでジェットコースターみたい。
今回のいちごも、そんな私の気分の波に乗って、ふらりと買ってしまったものなのかもしれない。
最初は疑って、でも結局は流されて、結果的に満足。
なんか、私の人生そのものみたいだ。
優柔不断で、でも好奇心は旺盛で。
食べ終わった後、息子が満足そうに「また買ってきてね!
」って言った。
うーん、あれ、いつ出てるか分からないんだよね。
まさに一期一会。
「また見かけたらね」って濁しておいたけど、正直、またあのトラックを見かけるのが、ちょっと楽しみだったりする。
季節は春から初夏へ。
そろそろ衣替えも本格化させなきゃ。
半袖の準備も必要だし、そろそろ扇風機の埃も拭かなきゃね。
あのトラックのいちごは、そんな季節の移り変わりを告げる、ちょっとしたお祭り騒ぎだったのかもしれない。
またどこかで、あの「いちご」の看板と、人懐っこいおじさんの笑顔に出会える日が来ることを、密かに期待している。
その時は、今度こそ、迷わず一番大きいパックを買っちゃうかもしれないな。
だって、人生、たまには衝動も大事、なんだよね。
あのコーヒーだって、たまには違う味を試してみるのも、悪くなかったのかもしれないし。
一口で後悔したけど。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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