返品服と世界滅亡の予兆、あるいは週末の散財について

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📝 この記事のポイント

  • ネットで注文した服のサイズが合わなくて、返品の手続きが面倒で放置している。
  • 正確に言うと、もう返品期限をとうに過ぎてしまった。
  • どう考えても僕の腹囲には無理がある細身のシャツが、段ボール箱に押し込められたままリビングの片隅で存在感を放っている。

ネットで注文した服のサイズが合わなくて、返品の手続きが面倒で放置している。

正確に言うと、もう返品期限をとうに過ぎてしまった。

どう考えても僕の腹囲には無理がある細身のシャツが、段ボール箱に押し込められたままリビングの片隅で存在感を放っている。

「今夜、文明がまるごと滅び、二度とよみがえることはないだろう」。

テレビから流れてきたニュースキャスターの声が、トランプ大統領の物騒な警告を伝えていた。

イランが合意に応じない場合、激しい攻撃を行うことを示唆している、と。

いやいや、文明が滅びる前に、まずは僕のこの無駄遣いの歴史をどうにかしてほしい。

このシャツ、たしかセールで3,800円だったはずだ。

それが今や、タンスの肥やしになるか、このままゴミになるか、という瀬戸際で僕の良心とせめぎ合っている。

返品手続きのサイトを開いては、氏名、住所、商品番号、返品理由、振込先口座……と並ぶ文字を眺めてはそっと閉じる。

ああ、この作業にかかる5分くらいの労力で文明が救われるなら、僕も一肌脱ぐのに。

いや、たった5分の労力を惜しむ僕に文明は救えない。

これはもう、僕という存在自体が文明の終焉を告げる序曲なのかもしれない。

週末、息子が家に来る日だった。

小学三年生の蓮は、最近めっきり背が伸びて、去年買ったズボンがどれもこれも丈が短くなっている。

「パパ、これツンツルテンじゃん」と、僕がはかせてやったズボンを指さして蓮が笑う。

ああ、ごめん。

僕のシャツと一緒で、これもサイズを間違えた親の責任だ。

いや、蓮が成長したのが悪い。

いや、親の責任だ。

蓮の成長を目の当たりにするたびに、自分の時間の流れの速さに驚く。

たった一年で、シャツ一枚分の成長がある。

僕の腹囲も一年でシャツ一枚分、いや、それ以上成長している気がするけど、そっちは聞かないでほしい。

蓮が僕の返品放置シャツの段ボール箱を見つけて、「パパ、これ何?

」と尋ねる。

「ああ、それはな、パパがちょっとサイズを間違えて買ってしまった、いわば文明の残骸だよ」と、意味不明なことを言ってみる。

「ふーん」と蓮は興味なさげに答えて、リビングの絨毯の上で飼い猫のミミを追いかけ回し始めた。

ミミは、蓮が来るといつもはしゃぎすぎて、しまいには僕の足元に隠れてしまう。

その様子がなんとも可愛らしくて、僕もミミと一緒に蓮から逃げ回るふりをした。

ミミは蓮が大好きで、蓮が僕の家に来るたびに、まるで自分の子どもが帰ってきたかのようにミャーミャー鳴いて駆け寄る。

そのくせ、蓮が少しでも手荒に触ろうとすると、サッと逃げ出す。

その駆け引きが面白いんだよな。

蓮がリビングでミミを追いかけ回している横で、僕は僕で、朝食に焼いたホットケーキの焦げ付きをフライパンから剥がすことに苦戦していた。

昨日、油を引くのを忘れて焦がしてしまったのだ。

これもまた、僕の日常における小さな「文明の滅亡」と言えるだろう。

蓮には「パパ、今日のホットケーキは炭の味がする!

」と、とんでもない評価を頂戴してしまった。

僕の失敗談は枚挙にいとまがない。

洗濯機に洗剤を入れ忘れて、洗い終わった洗濯物が全然綺麗になっていなかったり、スーパーで買った卵を、家に帰る途中でアスファルトに落としてしまったり。

最近だと、休日に公園で蓮とボール遊びをしていて、僕が投げたボールが思いっきり電柱に当たって跳ね返り、そのまま近くを通りかかったおじさんの頭に直撃してしまった、なんてこともあった。

幸い、おじさんは無事で「お兄ちゃん、気をつけなさいよ」と笑ってくれたけど、僕はその日一日、生きた心地がしなかった。

あの瞬間、僕の人生の文明は滅びたと思ったね。

なんでこうも僕はドジなんだろう。

言い訳をさせてもらうなら、たぶん、僕の脳みそは常に別のことを考えているんだと思う。

例えば、この返品の服をどうするか、とか。

いや、違うな。

別のことを考えているようで、実は何も考えていないのかもしれない。

ただただ、目の前のことに集中できていないだけだ。

それは、もはや才能と言ってもいいんじゃないか。

いや、褒めてない。

僕が唯一集中できるのは、きっと蓮が僕の家に来た時に、どんなおもちゃで遊ぼうかとか、どんなおやつを用意しようかとか、そういうことくらいだ。

あとはミミが僕の布団に入り込んできたときに、どれだけ邪魔をせずに寝返りを打てるか、とか。

でも、こんな僕でも、蓮は僕を「パパ」と呼んでくれるし、ミミは僕の足元でゴロゴロと喉を鳴らしてくれる。

それだけで、僕の人生はまあ、なんとかなるかな、って思えるんだ。

文明が滅びても、この小さな幸福があれば、きっと僕はしぶとく生き残るだろう。

もちろん、反省はしている。

返品手続きは面倒がらずにさっさとやるべきだったし、ホットケーキを焼くときは油を引くべきだったし、ボールを投げる時は周りをよく見るべきだった。

そして何よりも、蓮のズボンをちゃんと新しいサイズで買ってやるべきだった。

次の週末、蓮と買い物に行く約束をした。

今度こそ、ちゃんとサイズを測って、ツンツルテンじゃないズボンを買ってやるんだ。

僕のシャツのことは、まあ、その、また今度考えるとして。

いや、次の週末までには、せめてこの返品放置シャツをどうにかしよう。

段ボール箱の底に眠らせたままじゃ、僕の人生のどこかで、また別の文明が滅びてしまう気がするんだ。

例えば、その服がカビてしまって、ミミがその匂いを嗅ぎつけて、とんでもないことになる、とか。

まあ、たぶん無理だろうけど、一応、そう決意だけはしておく。

僕の人生における小さな「世界滅亡」は、今日もどこかでひっそりと進行中なのだ。

さて、今日の夕食は何にしようかな。

冷蔵庫の野菜がそろそろ期限切れだぞ、これもまた滅亡の危機だな。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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