欠けたフェンダーと鳥獣戯画、そして私のこだわり

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📝 この記事のポイント

  • 電車で隣に座った人の香水が強烈で、途中下車して車両を変えた。
  • なんだろう、あれは香水というより「香りの暴力」とでも言うべきか。
  • 頭がキーンとするような、鼻の奥がツンとするような、とにかく攻撃的な香りでね。

電車で隣に座った人の香水が強烈で、途中下車して車両を変えた。

あれは参った。

なんだろう、あれは香水というより「香りの暴力」とでも言うべきか。

頭がキーンとするような、鼻の奥がツンとするような、とにかく攻撃的な香りでね。

一駅手前で降りて、次の電車を待つ間、ホームのベンチで深呼吸を3回した。

単身赴任先のこの街では、週末になると、こうやって地元に戻るんだけど、行き帰りの電車ってのが、なかなかドラマチックだったりするんだよね。

いや、ドラマチックというよりは、些細なストレスの宝庫、って感じかな。

まあ、今回は車両を変えるだけで済んだから良しとしよう。

家に帰って、久しぶりに自分のスクーターを見た。

原付二種の、通勤にも使ってる相棒だ。

見るたびに思うんだけど、俺のスクーターの右後ろのフェンダー、あれ、どうにかならないものか。

いつだったか、駐輪場で隣の自転車が倒れてきて、見事に欠けてしまったんだ。

いや、正確に言うと、ちょっとヒビが入ったところから、駐輪場から出すときに引っかかって、パキッと。

まあ、欠けたというか、もぎ取られたというか。

最初は気にしてなかったんだけど、これが結構目立つんだ。

特に、雨上がりの朝なんかは、泥跳ねが背中まで飛んできて、ああ、これ、フェンダーってちゃんと意味があったんだな、と改めて気づかされる。

修理しようかと思ったんだけど、バイク屋に聞いたら「部品取り寄せで工賃込みで1万円ちょっとですね」と。

1万円かぁ。

ちょっと悩む金額だ。

もちろん、安全とか機能性を考えたら出すべきなんだろうけど、なんかこう、納得がいかないというか。

だって、ただのプラスチックの部品だろ?

しかも、もう5年乗ってるし、あちこちガタも来てる。

この1万円を出すなら、もう少し貯めて、次のバイクの頭金にする方が建設的じゃないか?

とか、いや、むしろ、週末の家族での外食に回す方が、よっぽど心が満たされるんじゃないか?

とか、ぐるぐる考えちゃって、結局、そのまま放置。

でも、やっぱり気になるんだ、あの欠けたフェンダーが。

なんかこう、自分だけが気にしてる、みたいな。

いや、妻も子供たちも、俺のスクーターなんて、まじまじと見たことないだろうけどさ。

いや、子供たちは見てるか。

たまに「お父さんのバイク、なんか変な形ー」とか言われたりする。

そのたびに「いや、これはこれで味があるんだよ」とか、苦し紛れの言い訳をしたりして。

でも、やっぱり、なんかこう、みっともないというか、だらしないというか。

そんなある日、ふと、雑誌で見たんだ。

「鳥獣戯画のラクガキアート」みたいな記事を。

いや、正確にはラクガキじゃなくて、もっとちゃんとしたアート作品なんだけどね。

美術館で展示されてるような、すごく精巧な絵巻物風のイラストを、現代のいろんなものに描いてるっていう特集だった。

なんか、古い民家の壁とか、錆びたブリキのバケツとか、そんなものにウサギとカエルが相撲を取ってる絵が描かれてて、それがもう、めちゃくちゃオシャレなんだよ。

なんていうか、古めかしいんだけど、現代的でもある。

朽ちてるんだけど、生命力がある。

そのギャップがたまらない、って記事だった。

それを見て、ピンときた。

これだ、と。

俺の欠けたフェンダーに、鳥獣戯画を描いてみたらどうだろう?

なんかこう、この欠損を逆手に取って、新たな価値を生み出す、みたいな。

いや、大げさな話じゃなくて、単純に、ただの欠けたフェンダーじゃなくて、ちょっと面白いフェンダーにしたい、っていう、ただそれだけの思いなんだけどさ。

そこからが、俺の「鳥獣戯画フェンダー計画」の始まりだった。

まずは、どんな絵にするか。

鳥獣戯画って言っても、いろんな場面があるからね。

ウサギとカエルが相撲を取ってるのが有名だけど、他にも弓を引いてるカエルとか、水浴びしてるカエルとか、たくさんある。

俺のフェンダーは右後ろが欠けてるから、そこに繋がるような絵がいいな、とか、妙なこだわりが出てくる。

ネットで鳥獣戯画の画像を漁りまくった。

いや、漁るって言っても、ただ「鳥獣戯画 フリー素材」とかで検索するだけなんだけどね。

でも、これが面白いんだ。

改めて見ると、ウサギもカエルも、表情が豊かで、動きがコミカルで、なんだか愛着が湧いてくる。

俺、昔から歴史の教科書に載ってる絵とか、なんか好きだったんだよな。

なんか、文字とは違う情報量があるというか、当時の人の暮らしとか、考え方とかが、絵を通して伝わってくる感じがして。

結局、選んだのは、欠けた部分にちょうど、カエルが水に飛び込むような構図の絵。

水しぶきが、欠けたフェンダーのギザギザの部分と、なんとなく重なるように見えたんだ。

いや、もう、こういうのって、完全に自己満足の世界だよね。

誰かに「お、鳥獣戯画じゃん!

」なんて言われたいわけじゃない。

いや、言われたらちょっと嬉しいかもしれないけど、基本的には、俺自身が、あの欠損を見て、うんざりしないための、ささやかな工夫なんだ。

次に、どうやって描くか。

油性ペンで直描き?

いやいや、俺の絵心は、画伯とは程遠い、ただの落書きレベルだ。

それに、雨風にさらされるから、すぐに消えちゃうだろうし。

そこで、また調べた。

「バイク 塗装 イラスト」とか、「防水 ステッカー 自作」とか。

結局、良さそうな素材を見つけたんだ。

耐水性のあるインクジェットプリンター用のフィルムシート。

これなら、自宅のプリンターで印刷して、ハサミで切り抜いて貼るだけ。

もちろん、上からクリアのスプレーを吹けば、さらに耐久性も上がるだろう。

単身赴任先の週末、一人でちまちま作業した。

まずは、欠けたフェンダーを綺麗に拭いて、脱脂する。

ホームセンターで買ってきたパーツクリーナーをシュッと吹き付けて、ウエスでゴシゴシ。

普段、洗車なんてめったにしないのに、こういう時だけ、妙に几帳面になるんだよな。

プリンターで印刷した鳥獣戯画の画像を、カッターで丁寧に切り抜く。

この作業が、なかなか集中力を要するんだ。

ちょっとでも手が滑ると、カエルの足がちぎれたり、ウサギの耳が短くなったりするからね。

で、いざ、貼り付け。これがまた、難しい。シートの裏紙を剥がして、フェンダーの曲面に沿わせて、空気が入らないように慎重に。貼り終わって、上からクリアスプレーをシューッ。なんか、妙に達成感があった。

完成したスクーターのフェンダーを見て、思わず「おぉ…」と声が出た。

いや、我ながら、悪くない。

悪くないどころか、めちゃくちゃオシャレじゃないか?

いや、もちろん、プロの仕上がりには程遠いし、近くで見れば、切り口のガタつきとか、スプレーのムラとか、アラは見え見えなんだけどさ。

でも、遠目に見れば、なんだか趣があるというか、もともとこういうデザインだったんじゃないか、とさえ思える。

欠けた部分に、ぴょこんとカエルが飛び跳ねていて、その向こうには、ちょっとだけ欠けたウサギの耳が見える。

まるで、欠損を隠すんじゃなくて、欠損そのものが、絵の一部であるかのように。

雅、だ。

あまりにも雅すぎる。

これはもう、修理するよりも、こっちの方が断然いいじゃないか。

その週末、子供たちが遊びに来た時に「お父さんのバイク、なんか絵が描いてあるー!

」と、やっぱり気づいてくれた。

娘が「可愛い!

」と言ってくれて、息子は「なんか、歴史の教科書に出てくるやつみたい!

」と。

うんうん、そうだろ、歴史の教科書だろ。

俺のこだわり、わかってくれるか、お前たち。

もちろん、この「鳥獣戯画フェンダー」にしたからと言って、俺の生活が劇的に変わったわけじゃない。

相変わらず、週末だけ家族と過ごす単身赴任生活だし、平日は、通勤ラッシュの電車でストレスを感じることもある。

いや、むしろ、このフェンダーのせいで、駐輪場で隣の自転車が倒れてきたらどうしよう、とか、変な心配が増えたりもする。

雨上がりの泥跳ねも、完全に防げているわけじゃない。

だって、あくまで、欠けた部分を隠してるだけで、完全に元に戻したわけじゃないからね。

でも、なんだろう。

朝、スクーターに乗って、あのフェンダーが視界に入ると、ちょっとだけ気分が上がるんだ。

なんかこう、自分だけの、ささやかな「秘密基地」みたいな感覚というか。

誰にも理解されなくても、自分だけが納得している、そういう「こだわり」って、実は人生において、結構大事なスパイスなのかもしれない。

香水攻撃にあった電車の中から、まさか鳥獣戯画のフェンダーに辿り着くとは、人生って不思議だ。

いや、全然関係ないだろ、って?

まあ、そうなんだけどさ。

でも、電車の中で不快な思いをした分、どこかで帳尻を合わせたかったのかもしれない。

人生、何かを失ったら、何かで埋めたくなるものなんだろうな。

たとえそれが、欠けたフェンダーと、数時間の手作業で描かれたカエルの絵だったとしても。

さて、そろそろ夕飯の支度でもするか。

今日は、冷蔵庫の残り物で、なんか工夫して作るか。

これもまた、ささやかなこだわり、ってやつかな。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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