SHEINと、たぶんトコジラミじゃない虫の三日間

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📝 この記事のポイント

  • 休日の昼下がり、ソファで寝転んでいたら猫に顔を踏まれて目が覚めた。
  • 額に食い込む爪の感触、とろんとした黒い瞳。
  • まだ昼休憩に入ったばかりというのに、猫は食事という概念には一切の妥協を許さない。

休日の昼下がり、ソファで寝転んでいたら猫に顔を踏まれて目が覚めた。

額に食い込む爪の感触、とろんとした黒い瞳。

これは「ごはんまだ?

」の合図である。

まだ昼休憩に入ったばかりというのに、猫は食事という概念には一切の妥協を許さない。

仕方なく重い体を起こして、空っぽのフード皿にカリカリを補充する。

その間もずっと、足元で「ニャー、ニャー」と訴えかけてくる。

腹ペコの猫は恐ろしい。

食欲を満たした猫が満足げに日当たりの良い窓辺で丸くなるのを確認して、再びソファに戻ろうとした。

その時、視界の端を何かがふわりと横切った。

白い壁に目を凝らすと、そこには半透明で、羽が薄く、まるで舞い落ちたタンポポの綿毛のような、か細い虫が張り付いている。

体長はたぶん3ミリくらい。

触覚も細くてよく見えない。

とにかく、頼りない生命体だった。

「ん?」

その虫を見た瞬間、私は直感した。これは、先日届いたSHEINの荷物から発生した「例の虫」ではないかと。

そもそも、私がSHEINで買い物をするのは、いつも衝動的な欲求からだ。

夜中の二時、夫が隣で静かに寝息を立てている隣で、私は薄明かりのスマホ画面を凝視する。

「トップス900円」「ワンピース1200円」「ピアス300円」。

普段、百貨店でニット一枚買うのにも数日悩む私が、この時ばかりは財布の紐が宇宙の彼方へ飛んでいってしまう。

気がつけば、カートには「え、私こんな服着るの?

」というような、フリル満載のブラウスや、やたら丈の短いスカートが詰め込まれている。

それでも、合計金額は五千円にも満たない。

「まあ、失敗してもこの値段ならね」。

これは魔法の呪文だ。

そして数日後、自宅に届く巨大な段ボール。

開封の儀はいつも、まるで宝箱を開けるかのようなワクワク感と、ちょっとした罪悪感が混じり合っている。

今回は、春に向けてオフィスで着られそうなブラウスを数枚と、家でくつろぐ用のスウェット、それに面白そうなピアスをいくつか。

段ボールのガムテープを剥がし、カッターで蓋を開けた瞬間、まず独特の匂いが鼻をつく。

なんというか、海を越えてきたんだな、という匂い。

化学繊維と、段ボールと、遠い国の空気が混ざったような、そんな匂い。

その匂いとともに、部屋に放出されたのが、この「謎の虫」だったのだ。

最初に発見したのは、段ボールから服を取り出し、ベッドの上に広げていた時。

ひらひらと、頼りなく、空気の対流に乗って舞い上がった。

夫も隣でスマホを見ていたが、「なんか飛んでるね」と、特段気にする様子もなかった。

私もその時は「まあ、部屋に虫が一匹くらいいるか」と、あまり気に留めなかった。

その日は、届いた服を洗濯機に放り込み、夜には乾燥まで済ませて、満足して寝た。

翌日、朝食の準備をしていると、キッチンカウンターの上に、あの半透明の虫が止まっているのを見つけた。

しかも、一匹じゃない。

よく見ると、シンクの縁にも、壁にも、二、三匹。

最初は「まさか、トコジラミ!

」と肝を冷やしたが、トコジラミはもっと黒くて、楕円形で、カメムシっぽい見た目だったはず。

これはもっと、か細くて、ふわふわ飛ぶ。

調べてみると、よく分からないが、「チャタテムシ」という可能性もゼロではないらしい。

しかし、チャタテムシはもっと小さいし、こんなにひらひら飛ぶだろうか。

いや、飛んでいるように見えるだけで、実は風に乗っているだけなのかもしれない。

結局、正体は不明のままだ。

その日以降、私の仕事は、部屋に発生する「謎の虫」を潰すことになった。

朝起きて、まずカーテンの裏をチェック。

いる。

キッチンでコーヒーを淹れていると、ふわりと視界を横切る。

いる。

夜、お風呂から上がって、リビングに戻ると、白い壁に数匹。

いる。

潰す。

また潰す。

潰すたびに、夫に「またいたよ」と報告するが、「へえ」の一言で済まされる。

どうやら、この虫との戦いは、私の個人的なミッションらしい。

潰す作業は、実に地味だ。

ティッシュを一枚取り、そっと近づく。

素早く、かつ優しく、潰す。

指の感触で、命が消える瞬間が分かる。

罪悪感がないわけではないが、このまま放置したら、私の部屋は、謎のふわふわ虫たちの楽園になってしまう。

それは困る。

だって、私の部屋なんだから。

三日目には、だいぶ数が減った。

最初の日に洗濯機に放り込んだことが功を奏したのか、それとも私が地道に駆除した成果なのか。

今日、ふと気づくと、ダイニングテーブルの上に、あの半透明の羽根が落ちていた。

もう、力尽きたのか。

ちょっとだけ、哀愁を感じる。

SHEINで買った服は、結局、数枚がタンスの肥やしになっている。

やっぱりフリル満載のブラウスは、私のオフィスには馴染まなかった。

いや、馴染むように努力してみたけど、鏡に映る自分を見て「違う」と呟いてしまった。

でも、スウェットは着心地が良くて、週末の家着として大活躍している。

ピアスも、意外と派手すぎず、お気に入りの仲間入りだ。

謎の虫の発生源が本当にSHEINの荷物だったのかは、誰にも証明できない。もしかしたら、ただの偶然かもしれない。けれど、私の頭の中では、SHEINと謎の虫は、切っても切り離せない関係になっている。

今日も、私はソファで本を読んでいる。猫は私の膝の上で丸まり、時折ゴロゴロと喉を鳴らしている。部屋は、三日前よりもずっと静かだ。視界を横切るものは何もない。ふと、白い壁に目をやる。いない。

でも、また来月あたり、私は夜中にSHEINのサイトを開いてしまうんだろうな。

そして、また数日後には巨大な段ボールが届き、そのまた数日後には、部屋のどこかで、か細い虫がふわりと舞い上がっているのかもしれない。

そんなことを考えながら、私は再び本に目を落とした。これでいいのだ。多分。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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