📝 この記事のポイント
- 銀行のATMで操作を間違えて、後ろに並んでいる人のプレッシャーを感じた。
- なんでこんな単純なことができないんだろう、と自分に軽く腹が立つ。
- ようやくキャッシュカードが出てきた時には、背中に汗が滲んでいた。
銀行のATMで操作を間違えて、後ろに並んでいる人のプレッシャーを感じた。
一瞬、心臓が「ドキン」と鳴る。
なんでこんな単純なことができないんだろう、と自分に軽く腹が立つ。
焦って再操作。
ようやくキャッシュカードが出てきた時には、背中に汗が滲んでいた。
最近、こういう小さな「あれ?」が増えた気がする。
春先に単身赴任から帰ってきて、家族との生活が再スタート。
僕の暮らしのリズムは、まだ微妙にズレたままなんだろう。
季節はすっかり夏めいてきた。
長袖のシャツはほとんどしまい込んだ。
代わりに半袖Tシャツがクローゼットの主役。
朝、目覚まし時計を止めても、体が重い日がある。
まだこの暑さに慣れないせいか。
それとも、単身赴任中の「自分だけのペース」が染み付いているのか。
先日、妻の誕生日があった。
何かサプライズを、と意気込んだはいいが、何にしようか迷った。
花束なんてどうだろう。
久しぶりに、ちゃんとした花を贈るのも良いかもしれない。
スマホで近所の花屋さんを検索。
「アトリエ・フルール」という、ちょっとお洒落な店を見つけた。
事前に電話で予算を伝えて、お願いすることにした。
「7,000円くらいで、明るくて季節感のあるお花をお願いします」
我ながら、良い旦那ぶりを発揮している気分だった。
当日、仕事帰りに花屋へ寄った。
店のドアを開けると、ふわっと甘い花の香りが漂う。
白い壁に、色とりどりの花が映えて美しい。
店員さんも感じが良い。
「○○様、お待ちしておりました」と、すぐに僕の顔を認識してくれた。
用意された花束は、期待以上に素敵だった。
鮮やかなオレンジのガーベラを中心に、白いトルコギキョウ、緑の葉物。
まさに「明るくて季節感のある」仕上がり。
これなら妻も喜んでくれるだろう。
「お会計は7,700円になります」
店員さんの言葉に、僕は一瞬固まった。
「え?
7,000円でお願いしたんですが……」
思わず聞き返してしまった。
店員さんは笑顔で答える。
「はい、7,000円で承りました。
それに消費税がかかりますので、合計で7,700円になります」
……ああ。
そうか。
税込か。
頭の中を「税込」という言葉がぐるぐる回る。
いや、わかってる。
わかってるんだよ。
消費税がかかるのは当たり前だ。
でも、なぜか少しだけ、肩透かしを食らったような気分になった。
予算7,000円、と言った時に、僕は「7,000円”まで”」というニュアンスを含ませていた。
お店側は「7,000円分の花+税」と解釈したのだろう。
僕の感覚と、お店の感覚。
このズレが、なんだか面白かった。
なんだか妙に納得して、僕は7,700円を支払った。
花束を抱えて家路につく。
なんだか少しだけ、損したような、でも別に損はしていないような。
不思議な気持ちだった。
この話、後日、職場の同期に話したら、彼は大笑いしていた。
「それ、あるあるだよね!
俺も同じ経験あるよ。
予算1万円って言ったら、1万1千円請求されたことあるもん」
なるほど、僕だけじゃなかったんだ。
なんだか少しホッとした。
世の中には、僕と同じように「税込」の壁にぶち当たっている人が、意外と多いのかもしれない。
僕の妻は、スーパーのチラシに載っている値段を指差して、「このカゴ、1,000円で収まったよ!
」と自慢げに話す。
僕が「すごいね」と答えると、彼女は少し得意げに「消費税込みで、だよ!
」と付け加える。
そうか、彼女は常に「税込」を意識しているんだな。
僕が予算を言う時、頭の中で税抜きの数字をイメージしているのとは対照的だ。
妻は、買い物の天才だ。
僕には、真似できない感覚だ。
僕がスーパーで「これ、安っ!
」と思ってカゴに入れた商品が、レジで合計金額を見た時に「あれ?
意外と高かったな」となるのは、大抵「税抜き価格」に惑わされているせいだ。
単身赴任中は、僕の買い物はもっとシンプルだった。
スーパーに行けば、だいたい買うものは決まっている。
週末にちょっと贅沢をするくらいで、あとは普段通りの生活。
何となく、物差しが「自分」だけだった。
でも今は違う。
家族がいる。
妻や子供たちのこと。
彼らの視点や感覚に、僕も少しずつ合わせていかなければならない。
花束の金額一つとっても、そういう小さなズレが、あちこちに見え隠れする。
ある日、妻が「ねえ、これ、どっちが良いと思う?
」と、洋服の画像を見せてきた。
「うーん、右かな」と答えると、「え、私、左だと思ってた」と、ちょっと残念そうな顔をする。
またある時は、洗濯物を畳んでいると、子供が「僕のTシャツ、裏返しになってる!
」と訴えてきた。
ああ、そうだった。
単身赴任中は、自分の洗濯物しか畳まなかったから、裏返しのまま畳んでしまっていた。
これも、僕のリズムと家族のリズムのズレ。
どれもこれも、本当に些細なことなんだけど。
でも、そういう小さなズレに気づくたび、なんだか少しずつ、家族の生活に溶け込んでいるような気がする。
春先に感じていた、どこか体調が優れないような、心が落ち着かないような感覚も、だんだんと薄れてきた。
梅雨のじめじめした空気のせいか、気分が上がらない日もあったけれど。
最近は、朝の光がまぶしいと感じる日が増えた。
きっと、体がこの新しい環境に、ようやく慣れてきた証拠なんだろう。
花屋での出来事も、妻の買い物の話も、子供の洗濯物の話も。
きっと、どっちが正しいとか、どっちが間違っているとか、そういうことじゃない。
僕が「7,000円まで」と心の中で思っていても、店側が「7,000円の商品」と捉える。
妻が「税込」を強く意識する一方で、僕が「税抜き」で考えてしまう。
裏返しのTシャツも、僕にとっては「あとで着る時に直せばいいか」だけど、子供にとっては「今すぐ着たい!
」だったりする。
結局のところ、みんなそれぞれ、自分なりの物差しを持っているんだ。
単身赴任中、僕の物差しは「僕」だけだった。
でも今は、家族の物差しも隣にある。
その物差しが、たまにちょっとズレて、面白い化学反応を起こす。
そのズレが、なんだか愛おしい。
きっと、そういうものなんだろう。
7,700円の花束を抱えて帰った夜、妻は「わあ、きれい!
」と満面の笑みを見せてくれた。
その笑顔を見たら、700円のモヤモヤなんて、あっという間に消えてしまった。
どっちもどっち。
いや、やっぱり、笑顔が一番だ。
そう思いながら、僕は冷蔵庫からビールを取り出した。
今日も一日、お疲れ様。
小さなズレと、大きな幸せ。
明日は、どんな発見があるだろうか。
そんなことを考えながら、僕はグラスにビールを注いだ。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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