ヘルメットが飛んできた日の、なんとも言えない話と、私の小さなこだわり

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📝 この記事のポイント

  • 図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。
  • 手に取った瞬間の、あの本の重みとこれから始まる物語への期待感は、返却期限という現実の前には脆くも崩れ去る。
  • 今回は、猫の毛をくっつけたまま返却してしまったのが、何よりも心残りだった。

図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。

いつもそうだ。

手に取った瞬間の、あの本の重みとこれから始まる物語への期待感は、返却期限という現実の前には脆くも崩れ去る。

今回は、猫の毛をくっつけたまま返却してしまったのが、何よりも心残りだった。

カウンターのお姉さんが、一瞬、眉をひそめたように見えたのは、きっと私の気のせいではない。

心の中で「ごめんなさい、うちの子が毛玉吐いてるわけじゃないんです」と謝りながら、千円札を出した。

こんな小さな出費が、なぜこうも心に響くのだろう。

日頃から、カフェラテのサイズアップは躊躇しないくせに、こういう出費は妙に重く感じる。

そういえば、最近、もっと理解不能な出費というか、損害を被ったのだ。

あれは、初夏の日差しがアスファルトをじりじりと焼き付ける、とある午後のこと。

私は愛車の白い軽自動車、通称「シロちゃん」を運転して、スーパーへの道をのんびり走っていた。

猫たちのカリカリが残り少なくなっていたのと、人間用のビールもそろそろ底をつきそうだったからだ。

スーパーのレジで「ビールはもう一本いかがですか?

」と聞かれた時、迷わずもう一本カゴに入れる自分を想像して、ちょっとフフッと笑ってしまったりなんかして。

そういう、なんでもない日常の延長線上に、それは唐突に現れた。

前を走っていたのは、若い男女が二人乗りしているスクーターだった。

男の子が運転していて、後ろの女の子は少し身を乗り出すようにして、背中に括り付けたリュックを気にしている。

二人とも、少しサイズが大きめに見えるヘルメットを被っていた。

その時、風がふわっと吹いた。

いや、風というよりも、何かもっと強烈な、まるで目に見えない手が背後から突き飛ばしたかのような、そんな衝撃がバイクを襲った。

次の瞬間、視界の端で、ふわっと宙を舞う黒い塊。

え、何?

鳥?

いや、違う。

それは、後ろに乗っていた女の子のヘルメットだった。

時速40キロくらいで走っていたシロちゃんのフロントガラスに、それは吸い込まれるように直撃した。

ガツン!

という鈍い音。

まるで、漫画でよくある「どーんと爆発!

」みたいな効果音が聞こえたような気がした。

反射的にブレーキを踏み、間一髪、追突は免れたものの、心臓はバクバク。

胃のあたりが、キュッと締め付けられるような感覚。

幸い、ヘルメットは割れずに、フロントガラスの下にコロンと転がった。

女の子は、突然ヘルメットを失ったことに気づかず、きょとんとした顔で振り返り、ようやく事態を把握したようだった。

ハザードランプを点けて、路肩に車を寄せた。

バイクの二人も、少し先の開けた場所に停車する。

慌てて車を降りると、フロントガラスの下に転がる黒いヘルメットが、まるで「やあ」とでも言いたげに私を見つめているように見えた。

いや、見えなかったけど。

なんか、すごいシュールな光景だな、と他人事のように思った。

自分の車にヘルメットが飛んできて直撃するなんて、一体、何がどうなったら起こるんだろう?

とりあえず、状況確認だ。

フロントガラスには、目立つようなヒビはない。

よかった、と思ったのも束の間、よく見ると、小さな凹みと、そこからうっすらと放射状に広がるような、ごくごく細い線が見えた。

これは、きっと後からジワジワくるやつだ。

そう直感した。

バイクの二人組が、恐る恐る近づいてきた。

男の子は、ごめんなさい、ごめんなさいと何度も頭を下げている。

女の子は、ヘルメットの顎紐をちゃんと締めていなかったらしく、風に煽られて脱げてしまったのだと、消え入りそうな声で説明した。

若い子たちだ。

きっと、私も昔はこんな風に、うっかりドジを踏んでいたのかもしれない。

でも、だからといって、このフロントガラスの凹みは見て見ぬふりはできない。

猫のカリカリ代とビール代を稼ぐために、日々パソコンと格闘している身としては、この修理代は痛すぎる。

「とりあえず、警察を呼びましょう」私がそう言うと、二人は一層顔色を悪くした。

電話をして、状況を説明する。

すると、しばらくしてパトカーが到着した。

白黒の車体を見るだけで、なぜか身が引き締まる。

別に悪いことしているわけじゃないのに。

おまわりさんが、現場の状況を淡々と確認していく。

フロントガラスの傷、転がっているヘルメット。

バイクの二人からも話を聞いて、私からも話を聞いて。

全部で30分くらいはかかっただろうか。

その間、私は何度も「これは事故ですよね?

」と確認した。

もちろん、事故だ。

どう考えても事故だ。

ところが、おまわりさんの口から出た言葉に、私は耳を疑った。

「うーん、これはですねぇ、ちょっと微妙なところなんですよねぇ」。

微妙?

何が?

「ヘルメットの脱落自体は、交通違反ではあるんですけど、それが飛んできて車に当たった、というのは、故意ではないですし、いわゆる『交通事故』として処理するのはちょっと難しいんですよ」。

は?

私は混乱した。

いや、でも、私の車は傷ついたんですよ?

「若い子だし、ワザとじゃないんだから、大目に見てあげてくれませんかねぇ」。

そんなこと言われても!

私の心の中で、小さな私が「猫たちのカリカリ代が!

」と叫んでいる。

結局、おまわりさんは、警察として事故証明は出せない、という結論を下した。

いわく、「物の落下による損傷」であって、「車両同士の接触事故」ではない、と。

だから、保険会社も使えない、と。

え、どういうこと?

私の頭の中は、ハテナマークでいっぱいになった。

まさかの展開だ。

じゃあ、このフロントガラスの修理代は、私が自腹を切るしかないということなのか?

二人乗りの若いカップルは、平謝りするばかりで、どうしていいか分からない様子。

私だって、どうしていいか分からない。

とりあえず、連絡先だけ交換して、その日は解散した。

家に帰って、猫たちに今日の出来事を話した。

ミケは「ニャー」と相槌を打つように鳴き、茶トラは私の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしている。

彼らの無邪気さに癒されつつも、釈然としない気持ちが渦巻く。

こんなことって、ある?

小さな疑問が、心の奥底でざわめいた。

「本当に、保険は使えないのか?

」。

早速、調べてみることにした。

ネットで「ヘルメット 飛来物 事故 保険」と検索窓に打ち込む。

すると、意外な情報が次々と出てきた。

どうやら、警察が事故として処理しない場合でも、保険会社に相談する余地はあるらしい。

ただし、その場合の保険の種類が重要で、私の入っている車両保険が「無過失事故」や「飛来物による損害」をカバーしているかどうかにかかっている、と。

そして、多くの場合、警察の事故証明がなくても、当事者同士の合意や、現場の写真、状況説明などで保険会社が判断してくれることもある、とのこと。

なんだ、そうだったのか!

警察のおまわりさんの言葉を鵜呑みにして、諦めかけていた自分が恥ずかしい。

さらに調べていくと、もっと面白い(?

)というか、なんとも言えない情報も出てきた。

例えば、走行中に他人の車から飛び石が飛んできてフロントガラスにヒビが入った場合。

これは、飛来物による損害として車両保険が適用されることが多いらしい。

でも、その飛び石の出元が特定できたとしても、相手に請求するのは難しい場合が多い、と。

なぜなら、石が跳ねたのは偶発的なもので、故意ではないから。

この「故意ではない」という部分が、今回のヘルメットの件と酷似している。

つまり、私が今回経験したことは、ある意味「車の走行につきまとう、避けがたいリスク」の一つだったのだ。

いやいや、そんな簡単に納得できるか!

と心の中で叫んだ。

でも、たしかに、道端に落ちている小石を踏んで、それが跳ねて他の車に当たったとしても、そのドライバーが責任を負うかと言われると、ちょっと違うような気もする。

うーん、このモヤモヤはなんだろう。

結局のところ、私は保険会社に電話をして、詳細を説明した。

すると、やはり警察の事故証明がなくても、状況を詳しく聞かれ、最終的には「車両保険の飛来物による損害」として処理できる可能性がある、と言われた。

ただし、自己負担額(免責金額)が発生するので、修理代と比べてどちらが得か、ということになる、と。

修理の見積もりを取ってから、もう一度連絡してください、とのことだった。

まさかの展開に、少しばかり安堵した。

いや、安堵したんだけど、この一件を通じて、私の心に新たな小さなこだわりが芽生えてしまった。

それは、「バイクに乗っている人を見ると、ヘルメットの顎紐がちゃんと締まっているか、無意識にチェックしてしまう」というものだ。

それも、ガン見するわけではなく、あくまでも視界の端っこで、チラッと確認する程度。

まるで、猫が物陰からじーっと獲物を狙うように。

いや、獲物じゃないんだけど。

きっと、顎紐が緩んでいるバイクを見ると、私の脳裏には、あの黒いヘルメットが宙を舞い、シロちゃんのフロントガラスに「ガツン!

」とぶつかる幻がフラッシュバックするのだろう。

そういえば、先日、近所のコンビニの前で、若いお兄さんがヘルメットを被ったまま、顎紐をブラブラさせているのを見た。

私は思わず、猫のミケに話しかけるような優しい声で、「お兄さん、顎紐、締めた方がいいよ」と言いそうになった。

いや、言わなかったけど。

この些細なこだわりは、私の日常に静かに溶け込んでいる。

以前は気にしなかった、バイクのヘルメットの顎紐。

それが今では、信号待ちのたびに、私の視線を引きつけてやまない。

まさか、自分がそんなことを気にする人間になるなんて。

人生って、どこで何がきっかけで、小さな変化が生まれるか分からないものだ。

結局、シロちゃんのフロントガラスは、プロの職人さんによって、凹みもヒビもない状態に完璧に修復された。

修理代は数万円。

保険を使おうかどうしようか、免責金額と悩みながらも、結局は、わずかな出費を惜しんで、自腹を切ることにした。

なぜなら、あのヘルメットの思い出を、保険金の申請書という形で残したくなかったからだ。

いや、嘘。

単純に、保険を使うと翌年の保険料が上がるかもしれない、というセコい考えが頭をよぎっただけだ。

でも、それもまた、私の日常の一部。

図書館の延滞金から始まり、ヘルメット飛来事件を経て、最終的にはフロントガラスが元通りになり、そして私の心には「顎紐チェック」という新たな習慣が生まれた。

猫たちは今日も元気にカリカリを食べているし、私のビールは冷蔵庫で冷えている。

生活は、何事もなかったかのように続いていく。

この、なんとも言えない日常の連続こそが、きっと一番面白いのかもしれないな、と猫の毛だらけのソファに座って、ぼんやりと空を見上げた。

あ、そういえば、今日の晩御飯、何にしようかな。

レトルトカレーでもいいかな。

いや、やっぱり何か作ろう。

でも、何にしよう。

この小さな悩みが、私の生活を彩る、一番大切なスパイスなのかもしれない。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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