📝 この記事のポイント
- 久々に会った友人が激やせしていて、「大丈夫? 」と聞いたらダイエット成功とのこと。
- 聞けば、結婚式に向けてストイックに糖質制限と週5のジム通いを半年続けたらしい。
- まるで別人のように引き締まった顎のラインを見て、僕もそろそろ本気出すか、なんて一瞬だけ思った。
久々に会った友人が激やせしていて、「大丈夫?
」と聞いたらダイエット成功とのこと。
聞けば、結婚式に向けてストイックに糖質制限と週5のジム通いを半年続けたらしい。
意志の強さたるや。
まるで別人のように引き締まった顎のラインを見て、僕もそろそろ本気出すか、なんて一瞬だけ思った。
もちろん、思っただけだ。
「痩せたねー」と感心しつつ、帰り道にコンビニで新作のメロンパンを買ってしまった。
しかも2つ。
一つは明日の朝食用、もう一つは夕食後のデザート。
だって、こんなに頑張っている自分へのご褒美だもの。
何に頑張っているのかは自分でもよく分からないけれど、とりあえず今日も一日生きて、こうしてメロンパンを手にしている。
それだけで偉い。
同棲している彼女が「また無駄遣いして」と呆れる顔が目に浮かぶが、まあいい。
人生はメロンパンだ。
最近、僕らの休日はもっぱら外食が多い。
というか、ほぼ外食だ。
同棲を始めて一年、最初の頃は意気込んで手料理を振る舞ったりもしたけれど、結局、二人とも仕事で疲れて帰ってきて、洗い物のことを考えると「外で食べるか」「デリバリーにするか」となる。
休日の昼なんて、目が覚めて「何食べる?
」から一日が始まる。
今日の朝食はコンビニのメロンパンだったけれど、昼にはきっとラーメンかパスタを食べるだろう。
そして夜には、居酒屋で唐揚げとハイボール。
もうすっかりルーティンだ。
そんな僕が最近ハマっているのが、YouTubeで水の音だけで演奏された「IRIS OUT」という曲を聴くことだ。
水の音、と一口に言っても、川のせせらぎや雨音といった環境音とは少し違う。
グラスに注ぐ音、水滴が弾ける音、水面を指でなぞる音、波の音、シャボン玉が割れる音。
それらの音がまるで楽器のように組み合わされて、ひとつの楽曲になっているのだ。
初めて聴いた時、「え、これ、本当に水の音だけ?
」と驚いた。
目を閉じれば、まるで水の底にいるような、あるいは水に包まれているような感覚になる。
耳障りな音は一切なく、ただひたすらに心地よい。
特に感動したのは、その動画編集のクオリティだ。
水の動きや光の反射が、まるで計算され尽くしたアート作品のよう。
音と映像が完璧にシンクロしていて、五感を刺激される。
僕が普段見ている動画は、再生中に広告が挟まったり、画面の端にコメントが流れてきたりするものばかりだから、余計にその完成度の高さに惹きつけられたのかもしれない。
無駄な情報が一切ない、ただただ美しい世界。
それにしても、こんなに繊細な音をどうやって録音しているのだろう。
マイクが水に濡れたりしないのか。
いや、きっと特殊な機材を使っているに違いない。
プロの仕事というのは、こういうものなのだなと、ただただ感心するばかりだ。
この「IRIS OUT」を聴いていると、心が落ち着く。
日々のちょっとしたイライラや、仕事で溜まったモヤモヤも、水の音に溶けていくような気がするのだ。
だから、僕は毎晩、寝る前にこの曲を聴くようになった。
イヤホンをつけて、目を閉じて、水の音に身を委ねる。
すると、不思議と深い眠りにつけるような気がする。
実際、彼女に「最近、いびきかいてないね」と言われた。
いや、元々かいてないんだけど、そういうことにしておこう。
で、この「IRIS OUT」に影響されて、僕はまたしても衝動買いをしてしまった。
ある日、いつものようにネットサーフィンをしていたら、ガラス製のコップを見つけたのだ。
ただのコップではない。
光の当たり方によって七色に輝く、まるで虹が閉じ込められているかのようなデザイン。
しかも、耐熱ガラスで二重構造になっているから、熱い飲み物を入れても外側は熱くならないという優れもの。
商品説明には「飲むたびに心が躍る」「日常に彩りを」なんてキャッチコピーが踊っていた。
価格は一つ2,800円。
コップにしてはちょっと高い。
いや、かなり高い。
冷静に考えれば、普段使いのコップなんて、百均で十分なのだ。
そもそも、僕の家の食器棚には、二人暮らしにしては多すぎるくらいのコップがぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
旅行先で記念に買ったもの、景品でもらったもの、なぜか家にあったもの。
色も形もバラバラで、統一感なんて皆無だ。
それでも、みんなそれぞれの役割を果たしている。
でも、その時の僕は、完全に「IRIS OUT」の世界に浸っていた。
このコップで水を飲んだら、きっと、あの動画のような美しい音がするに違いない。
キラキラと輝く水面を眺めながら、ゆったりと過ごす。
そんな理想の日常が、たった2,800円で手に入るなら安いものだ。
そう思い込んで、僕は勢いよく「カートに入れる」ボタンを押していた。
もちろん、彼女には内緒だ。
彼女はよく「また要らないもの買って」と僕の衝動買いを咎めるから。
数日後、自宅に届いたコップを開封し、ワクワクしながら水道水を注いでみた。
想像していた通り、光を反射してキラキラと輝く。
なるほど、これがおしゃれコップの実力か。
そして、ゆっくりと口に運ぶ。
……うん、味はいつもの水道水だ。
そして、グラス同士がぶつかる音は、もちろん「チーン」という普通のガラスの音。
あの「IRIS OUT」のような神秘的な音ではない。
当たり前だ。
あれはプロが特殊なマイクと編集技術を駆使して作り上げた、まさに芸術作品なのだから。
僕がコップを一つ買ったところで、日常が急にアートになるわけではない。
「結局、ただのおしゃれなコップじゃん」と、少しばかりの落胆と、買い物の失敗談リストに新たなページが加わった事実を噛みしめる。
2,800円。
ラーメン二杯分。
ちょっと良いビールなら4本買えた。
後悔がないといえば嘘になる。
でも、不思議と嫌な気分にはならなかった。
むしろ、ちょっと面白かった。
自分がいかに単純で、目先のキラキラに弱い人間であるかを再認識できたのだから。
彼女が帰宅し、新しいコップを見つけた。
「あれ、新しいコップ?
」と訝しげな顔をする。
「うん、ちょっと前から欲しかったやつでさ」と適当にごまかす。
「へえ、綺麗だね」と、意外にも彼女は褒めてくれた。
彼女が僕の衝動買いを許容することは滅多にないから、これは珍しい。
それ以来、僕は毎朝、このキラキラコップで水を飲むようになった。
あの「IRIS OUT」のような音はしないけれど、確かに、いつもの水道水がちょっとだけ美味しく感じるような気がする。
二重構造だから結露しにくいのも地味に嬉しい。
テーブルが濡れないから、コースターを敷く手間も省ける。
これは意外なメリットだった。
衝動買いをしたこと自体は、まあ、いつもの僕らしいといえば僕らしい。
結局、キラキラコップが僕の日常に劇的な変化をもたらしたわけではないし、僕の人生が豊かになったとも言い切れない。
ただ、水の音を聴いて、ちょっと良いコップを買って、少しだけ気分が上がった。
それだけだ。
そして、たぶんこれからも、僕はまた何か衝動的に買ってしまうだろう。
別に、それでもいいか。
メロンパンを片手に、そう思った。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

