歯医者の冷や汗と、犬と赤子の師弟関係

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📝 この記事のポイント

  • 歯医者の予約をすっぽかして、受付から確認電話がきて冷や汗をかいた。
  • カレンダーにはデカデカと「歯医者! 」って書いてあるのに、どうしてこうも抜け落ちるんだろう。
  • 子どもの予防接種とか、ゴミ出しの日とか、妻の誕生日とか、大事なことは意外と覚えられているのに、自分のこととなると途端に記憶の精度がガタ落ちする。

歯医者の予約をすっぽかして、受付から確認電話がきて冷や汗をかいた。

あ、やべ、今日だった。

カレンダーにはデカデカと「歯医者!

」って書いてあるのに、どうしてこうも抜け落ちるんだろう。

子どもの予防接種とか、ゴミ出しの日とか、妻の誕生日とか、大事なことは意外と覚えられているのに、自分のこととなると途端に記憶の精度がガタ落ちする。

受付のお姉さんの声は終始丁寧だったけれど、僕の脳内には「またかこいつ」という心の声が響き渡っていて、思わず平謝りしてしまった。

結局、改めて予約を取ったのは三週間後。

それまで歯が痛まないことを祈るばかりだ。

まぁ、僕はちょっとくらい歯が痛くても、三日くらいは放置するタイプの人間だから、きっと大丈夫だろう。

きっと。

そうやって自己暗示をかけるのが得意なのも、僕の長所であり短所だったりする。

そんな僕の日常で、最近の癒しであり、ある種の課題でもあるのが、生後六ヶ月になる一人息子と、我が家の愛犬、柴犬のハルだ。

ハルはもう七歳になるベテラン犬で、見た目は凛々しいけれど、中身はかなりの甘えん坊。

しかし、息子が生まれてからは、その甘えん坊ぶりを封印し、まるで「お前は俺が守る」と言わんばかりの威厳を漂わせている。

特に最近のハルは、息子の成長を見守る師匠のようだ。

息子が寝返りをうつ練習をしているときも、ハルは必ず隣にちょこんと座って、ジーッと息子を観察している。

息子が「うーん!

」と唸りながら体をよじらせ、ようやく「ゴロン!

」と寝返りを成功させた瞬間、ハルは「フン」と鼻を鳴らすのだ。

僕にはそれが「よし、よくやったな、小僧」と言っているように聞こえて仕方がない。

もちろん、ハルは何も言わない。

ただ、僕の勝手な妄想がそうさせるだけだ。

つい先日、息子が初めてうつ伏せで頭を持ち上げたときも、ハルは同じように隣にいた。

息子がプルプルと震える腕で懸命に顔を上げ、周りを見回した瞬間、ハルはゆっくりと立ち上がり、息子の顔をクンクンと嗅いだ。

そして、僕の方を振り返って、まるで「おい、見たか?

コイツ、やったぞ」と言いたげな顔をしたのだ。

僕も思わず「すごいね、ハルも見てた?

」と話しかけていた。

妻は「ほんと、二人とも可愛いわねぇ」と笑っていたけれど、僕はハルのその師匠然とした面構えに、ちょっと感動すら覚えていた。

近所のスーパーで買い物をしていたときのこと。

レジで会計を済ませていたら、後ろに並んでいた見知らぬおばあさんに話しかけられた。

「あら、可愛いわねぇ。

いくつになったの?

」と、僕が持っていたエコバッグから覗く息子の足を見て。

僕が「六ヶ月です」と答えると、「あらあら、うちの孫もね、その頃はねぇ、もう大変だったのよ〜」と、突然おばあさんの昔話が始まった。

最初はちょっと気まずいというか、急なことで戸惑ったんだけど、話を聞いているうちに、なんだか心が和んできた。

おばあさんの話に出てくる孫は、とんでもないやんちゃ坊主だったらしく、家中の壁にクレヨンで落書きをするわ、飼っていた猫を追いかけ回すわで、毎日が戦場だったらしい。

「でもねぇ、元気なのが一番よ。

大変だけど、あっという間だからねぇ」と、最後に優しい笑顔で言ってくれた。

お会計を待つ数分の間に、僕もおばあさんも、お互いの人生のほんの一部を共有したような、不思議な感覚だった。

家に戻って、ハルと息子の様子を改めて眺める。

息子はリビングのプレイマットの上で、今度は足をバタバタさせている。

寝返りの次はハイハイかな?

ハルは少し離れた場所から、相変わらずジーッと見守っている。

その様子を見ていると、僕の頭の中で勝手にアテレコが始まる。

「よし、次はおすわりだ。

焦るな、ゆっくりでいい」と、ハルが息子に語りかけているような気がする。

もちろん、ハルは「ぐぅ」とか「はぁ」とか、犬らしい息遣いをしているだけなんだけど。

妻の実家が歩いて五分くらいの距離にあるから、僕たちは週末によく遊びに行く。

義母も義父も、孫の顔を見るのを心待ちにしていてくれるから、こちらも嬉しい。

この間も、庭でバーベキューをすることになって、僕が炭火を起こしていたら、義父が「おい、そのやり方じゃダメだ。

こうやるんだ」と、慣れた手つきでテキパキと炭を組んでくれた。

僕は「あ、ありがとうございます!

」と、素直に助けられた。

自分でやろうと意気込んでいたのに、あっさり裏切られた形だ。

でも、あっという間に火がつき、美味しそうな匂いが漂い始めたのを見て、「まぁ、いいか」とすぐに前向きになった。

自分で苦労して火をつけるのも、それはそれで達成感があるんだろうけど、美味しい肉にありつけるなら、過程なんてどうでもいい。

そう、人生なんてそんなもんだったりする。

義父が焼いてくれた豚肉を頬張りながら、僕はふと、ハルと息子の関係も、僕と義父の関係に似ているのかもしれないな、と思った。

僕が何か新しいことに挑戦しようとすると、ハルがそっと隣で見守ってくれるように。

そして、僕が困っていると、義父がさりげなく手助けしてくれるように。

互いに干渉しすぎず、でも見守り、いざという時には手を差し伸べる。

そんな微妙な距離感が、心地よかったりする。

スーパーのおばあさんの話もそうだし、歯医者の受付のお姉さんもそう。

みんなそれぞれ自分の日常を生きていて、僕の日常とほんの少しだけ交差する。

そこで生まれる、ちょっとした会話や、さりげない気遣いが、日々の生活に彩りを与えているんだな、と改めて思う。

息子は最近、喃語を話すようになった。

「あー、うー」と意味不明な言葉を発しながら、寝返りを繰り返している。

ハルはまだその隣で、じっと息子を見守っている。

その眼差しは、僕が歯医者の予約をすっぽかしたことを知ってか知らずか、いつも通り穏やかだ。

「おまえ、うつ伏せできるようになったんだな」と、ハルが心の中でつぶやいているような気がする。

「よし、次はおすわりだ」と。

僕も早く歯医者に行って、次こそはちゃんと治療を済ませてこよう。

それも、人生の次なるステップだ。

きっと。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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