📝 この記事のポイント
- 宅配便の再配達を3回も逃して、ついに営業所まで取りに行った。
- 平日の昼間、閑散としたカウンターで免許証を提示し、巨大な荷物の山から自分のものを見つけ出したとき、「なぜ私はこんな手間をかけているのだろう」と、一瞬、深い哲学的な問いにぶつかったような錯覚に陥った。
- たかが通販で買った、どうでもいい卓上カレンダーひとつなのに。
宅配便の再配達を3回も逃して、ついに営業所まで取りに行った。
平日の昼間、閑散としたカウンターで免許証を提示し、巨大な荷物の山から自分のものを見つけ出したとき、「なぜ私はこんな手間をかけているのだろう」と、一瞬、深い哲学的な問いにぶつかったような錯覚に陥った。
たかが通販で買った、どうでもいい卓上カレンダーひとつなのに。
家に帰って、妻にその顛末を話すと、「あなたって本当に学習しないわね」と、まるで子を諭すような優しい口調でたしなめられた。
でも、その声の端々には、私のドタバタ劇をどこか楽しんでいるような響きがあった。
私は「ははは」と乾いた笑いを返し、冷蔵庫からキンキンに冷えた缶ビールを取り出し、プシュッと音を立てて開けた。
今日の夕食は妻が買ってきたデパ地下の惣菜だ。
チキンとキノコのアヒージョと、生ハムとルッコラのサラダ。
私は皿に移しながら、ふと、もっと根深い「繋がらない」問題が残っていたことを思い出した。
それは、もう大学生になった息子が、中学時代から惰性で続けていた「進研ゼミ」のことだ。
本人曰く「もうほとんどやってないから解約してくれ」とのこと。
毎月届く教材は、郵便受けに溢れんばかりに詰め込まれ、時には数ヶ月分がまとめて部屋の片隅に積み上げられている。
その山を見るたびに、私の中で「モッタイナイ」と「ソノウチヤロウ」がせめぎ合っていた。
私は重い腰を上げ、進研ゼミの公式サイトを開いた。
解約方法は、まあ、想像通りというか、お約束というか、「お電話のみ」と書かれていた。
なるほど、そう来るか。
私は表示されたフリーダイヤルに電話を掛けた。
ガイダンスが流れる。
「ただいま、お電話が大変混み合っております。
そのままお待ちいただくか、時間をおいてお掛け直しください」。
この手のメッセージは、世の中の「繋がりにくい」サービス界隈ではもはや挨拶のようなものだ。
私はスピーカーホンにして、待つことにした。
しかし、待てども待てども「プルルルル」という呼び出し音は鳴らず、ただひたすらに「混み合っています」の繰り返し。
そして数分後、無慈悲にも「このままお待ちいただいても、お繋ぎできません。
恐れ入りますが、時間をおいてお掛け直しください」と告げられ、自動的に通話が切れた。
まるで、見えない壁に阻まれているような気分だ。
その日は諦めた。
翌日、午前中なら空いているだろうと、朝食を済ませてすぐに電話を掛けた。
妻は隣で、朝の連続ドラマを見ながら「あらあら」だの「まあまあ」だの、ひとりごとのような相槌を打っている。
私はまたしても同じガイダンスに遭遇し、しばらく粘ったが、やはり自動切断。
これは何かおかしい。
私は時間帯を変え、昼、夕方、夜と、都合4回も電話を試みたが、結果は全て同じ。
まるで、進研ゼミ側が「解約はさせないぞ」とでも言っているかのようだ。
この執念、いや、この壁の厚さは、かつて私がラーメン二郎の行列に並んだときの「あと少しで食べられる」という期待感と、並んだ時間の「無駄にしたくない」という意地が入り混じった複雑な感情によく似ていた。
あの時も結局、途中で心が折れて、近くの立ち食い蕎麦で天ぷら蕎麦を掻き込んだっけ。
さすがに腹が立ってきた。
いや、腹が立つというよりは、この「繋がらない」状況に、むしろ一種の滑稽さを感じ始めていた。
まるで、現代社会のコミュニケーションの断絶を、進研ゼミのフリーダイヤルが象徴しているかのようだ。
いや、大げさなことを言うつもりはない。
ただ、どうしてこんなにも繋がらないのか、純粋な好奇心が湧いてきたのだ。
私はもう一度、公式サイトを隅々までチェックした。
すると、解約専用のフリーダイヤルの他に、小さな文字で「その他のご相談」と書かれた別の電話番号があるのを見つけた。
まさか、とは思ったが、藁にもすがる思いで、そちらに電話を掛けてみた。
すると、どうだろう。
呼び出し音が一回鳴ったか鳴らないかのうちに、「お電話ありがとうございます、進研ゼミでございます」と、若い女性の明るい声が聞こえてきたではないか。
え、嘘でしょ?
繋がった。
あっさり、あまりにもあっさりと。
拍子抜けするほどスムーズに。
私は思わず「あ、あの、解約の件で電話したのですが…」と、どもってしまった。
女性は「かしこまりました。
解約のお手続きですね。
少々お待ちください」と落ち着いた声で答え、ものの数分で解約手続きは完了した。
まるで、これまで私が経験してきた「繋がらない」地獄は、全て幻だったかのように。
私は受話器を置き、呆然とした。
なぜ、「その他のご相談」にはすぐに繋がるのに、「解約専用」は何度掛けても繋がらないのか。
これは偶然なのか、それとも意図的なものなのか。
いや、進研ゼミほどの優良企業が、そんな姑息な真似をするはずがない。
きっと、解約の時期が重なって、たまたま回線がパンクしていただけなのだ、と自分に言い聞かせた。
でも、この手の「その他」の窓口って、意外と何でも解決できたりするんだよね。
役所の問い合わせ窓口も、「担当部署が分かりません」とたらい回しにされそうになった時、「一般的なご質問」の窓口に電話したら、意外と的確なアドバイスをもらえたりする。
ある種の抜け道というか、秘密の通路というか。
その日の夕食は、妻が腕によりをかけた回鍋肉だった。
豚バラ肉とキャベツ、ピーマンが甜麺醤の甘辛いタレと絡み合い、ご飯が進む。
私はビールを片手に、この進研ゼミ解約騒動の一部始終を妻に話した。
「ふうん、やっぱりね」と妻は笑った。
「あなた、いつも回り道ばかりしてるもの」。
私は「いやいや、これは回り道じゃなくて、むしろショートカットを見つけたんだよ」と反論したが、結局は「まあ、無事に解約できてよかったわね」と、呆れたような笑顔で締めくくられた。
全くもって、世の中は不思議で満ちている。
目的の場所へたどり着く道は、一本だけではない。
時には、一見遠回りや無関係に見える道筋が、実は一番の近道だったりする。
私たちは日々の生活の中で、そんな小さな「謎」や「からくり」に遭遇し、時には怒り、時には笑い、そして時には、意外な発見に喜びを感じる。
宅配便の再配達も、進研ゼミの解約電話も、結局は、そんな日常のささやかな冒険の一部なのかもしれない。
ねえ、みんなもそういうこと、あるよね?
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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