歯医者の予約をすっぽかした日に、就活の早すぎる話を聞いて思ったこと

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📝 この記事のポイント

  • 歯医者の予約をすっぽかして、受付から確認電話がきて冷や汗をかいた。
  • いつものことながら、妻には「またやったの? 」と呆れられる。
  • 妻が冷蔵庫に貼ってくれる予定表を、僕はなぜかいつも見逃すのだ。

歯医者の予約をすっぽかして、受付から確認電話がきて冷や汗をかいた。

いつものことながら、妻には「またやったの?

」と呆れられる。

妻が冷蔵庫に貼ってくれる予定表を、僕はなぜかいつも見逃すのだ。

目線よりちょっと高い位置に貼られているのが敗因かもしれない。

もっとこう、コーヒーを淹れる時に必ず見る、電気ケトルの隣とかどうだろう。

次回の予約は、さすがにその場で次の日時をしっかり確認した。

たしか来週の火曜の午後。

帰宅したら妻に報告して、貼り付け位置の相談だ。

そんな感じで、僕の日常は小さな抜け漏れと、それを繕うための工夫(大抵は僕ではなく妻の工夫)で成り立っている。

今日は平日、僕はフリーランスなので曜日感覚がどうもぼやけがちで、それが歯医者の予約すっぽかしにも繋がる。

仕事は家のダイニングテーブルでしているから、着替えもそこそこに、朝食のパンを頬張りながらパソコンを開く毎日。

妻はパートで近くのスーパーで働いているから、朝8時半には家を出ていく。

静まり返ったリビングで、僕は食パンの耳を齧りながら、ぼんやりと今日のタスクを頭の中で組み立てる。

近所のおばあちゃんが、毎朝決まった時間に玄関前の植木に水をやっている。

シュッシュッと霧吹きで葉っぱを濡らす音が心地いい。

彼女は僕が外に出ると、いつも「あら、ご出勤?

」と声をかけてくれる。

いや、家で仕事してるんで、と答えると「あらあら、いいわねぇ」と笑う。

僕の仕事内容については、いまだにふわっとした認識のようだ。

まあ、別にいいか。

この「ふわっとした認識」こそが、近所付き合いの妙なのだと、この街に引っ越してきてからなんとなく理解した。

深く突っ込まない、でも気にはかけてるよ、という絶妙な距離感。

そんなご近所さんの一人、町内会長を務める田中さんが、先日、庭の手入れをしている僕に声をかけてきた。

「いやぁ、最近の学生さんはすごいね」と田中さん。

何事かと聞けば、彼の孫の話だった。

その孫、春から大学に入学したばかりなのに、もう就職先が決まったというのだ。

「大学1年で内定だなんて、ガチで意味わからんよなぁ」と、田中さんは少し興奮気味に言った。

ガチで意味わからん、という若者言葉を、田中さんが使うのが面白くて、思わず笑ってしまった。

大学1年生で内定。

僕が大学に入った頃は、就職活動なんて、3年生の秋から本格的に始まって、内定は4年生の夏とか秋に出るのが普通だった。

いや、むしろ、僕の周りには卒業間際まで粘っていた人もたくさんいた気がする。

それが今や、大学に入ったばかりの子がもう内定をもらっているなんて。

確かに「ガチで意味わからん」。

なんだか、期待と裏切りが混在する、複雑な気持ちになった。

大学生活って、もっとこう、サークル活動に明け暮れたり、バイトでお金を稼いで旅行に行ったり、恋をしたり、悩んだり、挫折したり、そういう時間なんじゃないのか。

早々に就職先が決まってしまうと、残りの3年間はどう過ごすんだろう。

僕の大学時代は、正直、そこまで真面目な学生ではなかった。

朝まで麻雀したり、夏休みにはバックパッカーごっこで北海道を一周したり、居酒屋でのバイトでは、店長に「君はもうちょっと客と話せ」と怒られたり。

そんな、いわば「寄り道」の時間こそが、僕という人間を形作ったような気がする。

もちろん、勉強もそれなりにはしたけれど、教科書から得られる知識よりも、人との出会いや、失敗から学ぶことの方が圧倒的に多かった。

だから、大学1年で内定、と聞くと、なんだか「寄り道」の機会が奪われてしまうようで、ちょっと寂しい気持ちになったのだ。

あれ、この展開、ちょっと期待が裏切られた気分だな。

でも、田中さんの孫の話をよく聞くと、どうやらその会社は、大学生活の間にインターンシップを義務付けていて、それも単なる作業ではなく、実際のプロジェクトに参加させるらしい。

そして、卒業までの間も、大学での学びを深めつつ、会社の研修やOJTも並行して進めていくとのことだった。

なるほど。

それはそれで、すごく合理的で、もしかしたら僕の大学時代よりも、よっぽど充実した4年間になるのかもしれない。

もしそうなら、大学1年で内定というのは、決して「寄り道」を奪うものではなく、「新しい種類の寄り道」を提供しているのかもしれない。

会社という組織に、若いうちから身を置くことで、社会の仕組みを早くから理解したり、同期ではない、年齢も経験も違う大人たちとのコミュニケーションを学んだり。

それはそれで、きっとたくさんの発見や、時には挫折もあるだろう。

そして、その経験が、彼らの人生を豊かにしていく。

「大学に入ったばっかりなのに、もう就職先が決まるなんて、高卒で良かったんじゃ……」なんて、つい意地の悪いことを考えてしまったけど、きっとそうじゃない。

大学で学ぶことと、企業で経験を積むこと、両方を早い段階から手に入れることができるなら、それはそれで「意外と悪くない」のかもしれない。

むしろ、早い段階で自分の進む道が見えているからこそ、残りの大学生活を、より有意義に、目的に向かって過ごせるようになるのかもしれない。

サークル活動も、バイトも、恋愛も、全部が自分の未来に繋がる時間になる。

僕の妻は、近所のスーパーでパートをしている。

毎日、色々な人と接して、レジ打ちをしながら、お客さんの世間話に耳を傾けたり、時には励ましたりもしている。

彼女は「この仕事は、私にとっての大学みたいなものだよ」と笑う。

毎日新しい発見があって、人間関係の機微を学んで、時には理不尽なことに直面して。

でも、それも全部ひっくるめて、自分の人生の肥やしになっている、というのだ。

人生なんて、結局はそういうものなのかもしれない。

どのタイミングで、どんな場所で、何を学ぶか。

それは人それぞれで、正解なんてどこにもない。

僕みたいに、歯医者の予約をすっぽかして、妻に呆れられながらも、なんとか日々をやり過ごしている人間もいれば、大学1年で内定をもらって、サクサクと自分の道を切り開いていく若者もいる。

結局のところ、僕たちはみんな、それぞれの「寄り道」をしながら、自分なりの人生の景色を探しているだけなのだ。

大学1年で内定をもらった田中さんの孫も、きっと彼なりの素晴らしい景色を見つけるだろう。

僕も、歯医者の予約を忘れないように、今度こそ妻に、電気ケトルの隣に予定表を貼ってもらおう。

そこから見える景色も、きっと悪くないはずだ。

そんなことを思いながら、僕はまた、食パンの耳を齧り、パソコンの画面に向き合った。

さて、今日のランチは何にしようかな。

妻が買ってくるスーパーの惣菜コーナー、たまに掘り出し物があるんだよな。

今日は、あの鶏肉の唐揚げがあるといいんだけど。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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