📝 この記事のポイント
- 図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。
- いや、正確には延滞金という名の「ご奉仕料」だ。
- 金額にして百円にも満たないけれど、私の心には小さな、しかし確かな波紋が広がった。
図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。
いや、正確には延滞金という名の「ご奉仕料」だ。
たった一日、それも二冊。
金額にして百円にも満たないけれど、私の心には小さな、しかし確かな波紋が広がった。
これだから私は嫌なんだ。
期限というやつが。
いや、期限を管理できない自分が嫌なんだ。
でも、こればっかりは仕方ない。
だって、世の中には面白いことが多すぎるし、猫は可愛いし、美味しいお菓子は無限にあるし、本を読みながらうっかり寝落ちする、なんてことは日常茶飯事なんだから。
この図書館事件が起こる少し前、私はとあるサブスクリプションサービスを解約しようとしていた。
半年ほど前に始めた、動画配信サービスだ。
映画もドラマもアニメも満喫したし、そろそろいいかな、と。
特に不満があったわけじゃない。
ただ、他に観たいものが山ほどあるのに、ひとつに縛られている気がして息苦しくなったのだ。
まるで、美味しいビュッフェで一皿だけを延々と食べ続けるような、そんな気分。
わかるだろうか、この感じ。
退会手続き自体は、いたってシンプルだった。
サイトにログインして、マイページから「退会」ボタンを探し、ポチリ。
いくつか確認画面が出てくるけれど、それも滞りなく済ませた。
最後に「退会手続きが完了しました」的な表示が出た、ような気がする。
うん、たぶん、出たはず。
その記憶だけを頼りに、私はすっかり安心して、そのサービスのことは頭の片隅に追いやっていた。
これで晴れて自由の身。
さて、次はどこのビュッフェへ行こうか、なんて考えていたのだ。
ところが、ひと月が経ち、クレジットカードの明細を見て、私は仰天した。
なんと、そのサービスの利用料が、きっちり一ヶ月分、引き落とされているではないか。
え?
なんで?
退会したはずなのに?
目ん玉が飛び出るかと思った。
いや、実際には飛び出さないけれど、それくらいの衝撃だった。
私の目玉はそこそこ頑丈にできているらしい。
しかし、心臓はちょっと揺らいだ。
慌ててサービスのサイトにログインしてみる。
すると、マイページには「退会手続きは現在『検討中』です」という、なんとも摩訶不思議な表示が鎮座していた。
検討中?
誰が?
私が退会したいって言ってるのに、誰が何を検討してるっていうんだ?
まるで、私が「お菓子食べる?
」と聞いたら、相手が「うーん、お菓子を食べるか食べないか、今、深い思索の海に沈んでいるところです」と答えるようなものだ。
いや、もっと変だ。
これは私の意志だろう?
なぜ私が退会したいと言っていることを、誰かが「検討」しているんだ?
これじゃまるで、私が誰かに退会届を提出して、その可否を待っているみたいじゃないか。
私は怒りよりも先に、呆れと戸惑いが押し寄せてきた。
こんなことってある?
いや、今まで数えきれないほどのサービスを解約してきたけれど、こんな「検討中」なんて表示は見たことがない。
大抵は「解約手続きが完了しました」「ご利用ありがとうございました」の二択だ。
まるで、私が退会ボタンを押したのが、実は「退会を検討します」ボタンだった、と言われているような気分だ。
そんなボタン、どこにもなかったはずなのに。
もしかして、私、夢でも見てたのかな?
寝ぼけて変なボタン押しちゃった?
いやいや、そんなはずは。
私は寝ぼけていても、ちゃんと「はい」「いいえ」の判別はできる人間だ。
たぶん。
とりあえず、どうしてこんなことになっているのか、カスタマーサポートに問い合わせてみた。
チャットで状況を説明すると、返ってきたのは衝撃の事実だった。
「お客様の退会申請は、途中で止まっておりました。
期限までにお手続きが完了しなかったため、今月分の料金が発生しております」とのこと。
いやいやいや、途中で止まってたって何だよ!
私は最後まで進んだつもりなんだけど!
もしかして、最後の最後に何か確認ボタンがあったのに、私が見落としたとでも言うのか?
でも、「退会手続き完了」って文字を見たような気がするんだけどな……。
いや、よく考えてみれば、確かに「退会手続き完了」の文字は小さかったり、画面の隅っこにあったり、あるいは別のページに飛ばされたり、色々ある。
もしかしたら私は、最後の最後で、あの、なんていうか、「これで終わりかと思いきや、実はまだ続くんだな!
」っていう、あの罠に引っかかったのかもしれない。
そう、まるで、スーパーで会計を終えて、満足げにレジを後にしようとしたら、「お客様、ポイントカードはお持ちですか?
」と呼び止められるような。
いや、それとはちょっと違うな。
あれは私の不注意だし。
これは、なんというか、サービス側の「罠」としか言いようがない。
いや、罠だなんて言うのは語弊がある。
きっと、親切心から「本当にやめるの?
もう少し考えてみない?
」という、温かいメッセージが込められていたに違いない。
そう、きっとそうだ。
私はそう信じることにした。
でないと、怒りの炎が燃え盛ってしまうから。
結果として、私は今月分の利用料、きっちり日割りで支払う羽目になった。
しかも、その日割り料金を払うために、またしてもカスタマーサポートとやり取りすることになったのだ。
もう、面倒くさいったらありゃしない。
この手間と時間を考えると、いっそ一ヶ月分まるまる払って、そのままもう一ヶ月使ってやろうか、とも思った。
でも、そういうのはなんか、負けた気がするじゃないか。
意味不明なこだわりだけど、ここで日割り分だけ払ってきっぱりやめる、というのが私のプライドだった。
この一件があってからというもの、私はあらゆるサービスの解約手続きに、異様なほど慎重になった。
まるで、爆弾処理班が細心の注意を払ってコードを切るかのように、一挙手一投足に集中する。
本当にこれで終わりなのか?
他に押すべきボタンはないのか?
画面の隅々まで目を凝らし、スクロールバーの先まで確認する。
まるで、猫が新しいおもちゃに警戒しながら、しかし好奇心に抗えず、そーっと近づいていく、あの感じにそっくりだ。
うちの猫、ハチとナナも、私が変な動きをしていると、じっと見つめてくる。
特にハチは、私がパソコンに向かっていると、キーボードの上に乗ってきて、「かまえ」とばかりに頭を擦りつけてくる。
まるで「人間、そんなくだらないことしてる暇があるなら、俺を撫でろ」と言っているようだ。
いや、実際、ハチは言葉を話せないから、そう言ってるかどうかは分からない。
でも、あの目つきは、きっとそういうことなんだろう。
この退会騒動で私が学んだことは、世の中には「完了」という言葉の裏に、まだまだ続きがある場合がある、ということだ。
それはまるで、お気に入りの漫画の新刊を読み終えて、「ああ、面白かった」と満足しているのに、巻末に「次巻へ続く!
」と書いてあるのを見つけた時の、あの複雑な気持ちに似ている。
いや、もっと悪い。
だって、その「続く」を無視すると、金銭が発生するんだから。
そういえば、図書館の延滞金も、まさしくそういうことだった。
返却期限、という「完了」があるのに、それを過ぎると「延滞」という「続き」が発生し、しかもお金がかかる。
この世の全てが、私の計画通りにはいかないようにできているらしい。
いや、私の計画が、あまりにもずさんすぎるだけなのかもしれない。
でも、この騒動のおかげで、私は少しだけ賢くなった。
いや、賢くなった、というよりは、用心深くなった、と言った方が正しいだろう。
次に何かを解約する際は、スクショを撮りまくり、完了画面を穴が開くほど見つめ、できればカスタマーサポートにも確認のチャットを送る、という念の入れようだ。
まるで、初デートで相手の機嫌を損ねないよう、あらゆる地雷を避けながら会話を進めるかのように、私は慎重になるだろう。
しかし、結局のところ、私の日常は何も変わらない。
猫は相変わらず可愛いし、美味しいコーヒーは私を癒やしてくれるし、読みかけの本は枕元に山と積まれている。
そして、私はまた、うっかり期限を過ぎて、何かを「検討」させられているのかもしれない。
人生とは、そういうものだ。
どこまでも続く、小さな「検討」の連続なのかもしれない。
そして、その度に、私はまた、ちいさな日割り料金を支払う羽目になるんだろう。
猫が私の足元でゴロゴロと喉を鳴らしている。
この音だけは、いつだって、私を「完了」させてくれる、最高のサービスなのだ。
しかも、無料で。
それが一番だ。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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