約束を忘れる私と、煮こごりみたいな枕の話

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📝 この記事のポイント

  • クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいた。
  • 先日、私が「あ、そろそろ冬物出そうかな」と独り言を言ったのを聞き逃さなかったらしい。
  • 翌朝、新聞を読み終えた夫が、何気ない顔で「そういえば、〇〇クリーニングの引き換え券、あそこの引き出しに入ってたな」と呟いた。

クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいた。

いや、正確には、気づいたのは夫だった。

先日、私が「あ、そろそろ冬物出そうかな」と独り言を言ったのを聞き逃さなかったらしい。

翌朝、新聞を読み終えた夫が、何気ない顔で「そういえば、〇〇クリーニングの引き換え券、あそこの引き出しに入ってたな」と呟いた。

その一言で、私の脳裏に「やばい」という文字が点滅した。

夫はもう何十年と、朝食後に庭の草木を眺め、コーヒーを飲みながら新聞に目を通すのが日課だ。

新聞の隅々まで読むから、私が何気なく発した言葉も頭の片隅にちゃんと残っている。

その記憶力たるや、時々恐ろしくなるほどだ。

私なんか、朝食に何を食べたかも怪しい日があるのに。

引き出しを開けてみると、案の定、引き換え券はあった。

日付を見ると、受付日が3ヶ月前。

引き取り期限はとっくに過ぎている。

ああ、またやってしまった。

こういう「うっかり」が、ここ数年で加速度的に増えている気がする。

「お父さん、クリーニング、期限切れちゃってるよ」と正直に白状すると、夫は「だろうと思った」と涼しい顔で言う。

もう諦めているというか、慣れきっているというか。

それでも「電話してみたら?

ダメ元で」と促してくれるあたりが、夫の優しいところだ。

電話をすると、案の定「引き取り期限は過ぎておりますが、お預かりしております」とのこと。

いやはや、申し訳ない。

お店の方に頭が上がらない。

私の「忘れ癖」は、もはや日常の一部だ。

畑に植えた野菜の種をどこに何を植えたか忘れてしまい、成長するまでのお楽しみ、なんてこともよくある。

去年の夏は、大根だと思って育てていたら、まさかのカブだったことがあった。

夫は大笑いしていたけれど、私にとっては結構な衝撃だった。

そんな約束を破りがちな私が、唯一、というか、ほぼ毎日守ろうと必死になっている約束がある。

それは「夜10時には寝る」というものだ。

田舎暮らしの朝は早い。

夫と二人、畑仕事をしていると、朝7時にはもう汗だくになっていることも珍しくない。

だから、夜はしっかり休まないと、翌日に響く。

体力の衰えは、正直ごまかしがきかない年齢になってきた。

以前は夜更かししてテレビドラマを見るのも楽しみだったけれど、最近は途中で寝落ちしてしまうことの方が多くなった。

せっかくなら、ちゃんと布団に入って眠りたい。

しかし、この「寝る」という行為が、最近どうにもうまくいっていなかったのだ。

毎朝、首や肩が凝り固まっていて、まるで一晩中岩を背負って寝ていたような感覚に襲われる。

夫は「お前、寝てる間に畑仕事でもしとるんか」と冗談を言うけれど、私にとっては切実な悩みだった。

何度か枕を買い替えてみたものの、どれもしっくりこない。

低すぎたり、高すぎたり、硬すぎたり、柔らかすぎたり。

まるで、自分にぴったりのパートナーを探しているかのようだ。

いや、パートナーはもう見つけたけれど、今度は「最高の寝心地」という名のパートナー探しに躍起になっていた。

ある日、テレビの深夜の通販番組で、とある枕が紹介されていた。

なんでも、首と肩の隙間を埋めて、理想的な寝姿勢を保つとか。

モデルさんがそれはもう気持ちよさそうに眠っている姿を見て、私も思わず「これだ!

」と膝を打った。

価格は2万円弱。

正直、枕にしては高い。

今まで使っていた枕なんて、せいぜい3000円くらいのものだ。

夫に相談すると、「またそんなもん買って、どうせ合わんのじゃろ」と渋い顔をする。

でも、私の首と肩の悲鳴を聞いていた夫も、最終的には「まあ、お前がそれで楽になるなら…」と折れてくれた。

数日後、待ちに待った枕が届いた。

箱から出すと、それがまた、ずっしりとした重みがある。

今まで使っていた枕とは全く違う。

触ってみると、なんというか、もちもちというか、ぷるぷるというか、不思議な感触だ。

夫がそれを見て一言、「お、なんか煮こごりみたいじゃな」と言った。

「煮こごり」!

まさしく、その表現がぴったりだった。

弾力があって、でもどこか柔らかくて、触ると少しだけ形を変える。

まさに、冷え固まった煮こごりのようだ。

私は思わず「お父さん、天才!

」と叫んでしまった。

その枕は、首を乗せるとじんわりと沈み込み、頭の重さに合わせて形状が変わる。

なるほど、これが「体圧分散」というやつか。

首の後ろの隙間がぴったり埋まる感覚は、今まで体験したことのないものだった。

その夜、私は期待に胸を膨らませて、新しい煮こごり枕に頭を乗せた。

するとどうだろう。

頭が、まるで水に浮かんでいるかのように軽い。

そのまま、すうっと眠りに落ちていった。

翌朝、目覚めると、不思議なことに首や肩がすっきりしている。

いつものあの重だるさが、ない。

これは…本当に煮こごり枕のおかげなのか?

半信半疑ながらも、その日も、その次の日も、私は新しい枕で眠った。

そして、数日経つうちに、私は確信した。

これは、本物だ、と。

朝、目覚めても、首や肩に違和感がない。

むしろ、ぐっすり眠れたおかげで、体全体が軽いような気がする。

畑仕事の後の疲れも、以前より早く回復するようになった。

これは本当にすごいことだ。

夫も私の変化に気づいたようで、「お前、最近機嫌が良いな。

煮こごり効果か?

」とからかう。

私も思わず笑ってしまった。

この煮こごり枕、他の人にもぜひ勧めてみたい。

でも、私の周りの人たちに「煮こごりみたいな枕、良いよ!

」と言っても、伝わるかどうかは怪しい。

むしろ「変なものでも食ったんか?

」と心配されるかもしれない。

「巨乳枕って呼んでる人もいるらしいよ」と夫に話すと、「それはまた、えらい表現じゃな。

でも、わからんでもない」とニヤリとした。

なるほど、確かに、もちもちとした弾力と包み込まれるような感覚は、そういう表現にも通じるのかもしれない。

さて、この煮こごり枕生活が始まってから、私の夜のルーティンも少し変わった。

以前は「早く寝なきゃ」という焦りがあったけれど、今は「早くあの枕で眠りたい」という楽しみになっている。

寝る前に、軽くストレッチをして、ハーブティーを飲む。

そして、湯たんぽを抱きしめて、煮こごり枕に頭を預ける。

この一連の流れが、私にとって何よりのご褒美になった。

もちろん、私の「忘れ癖」が治ったわけではない。

相変わらず、今日何をしようとしていたか、一瞬で忘れてしまうこともあるし、夫との約束をすっかり忘れて、ごめんね、と謝ることも頻繁にある。

先日も、肥料を買いに行くと約束していたのに、うっかりホームセンターではなく、スーパーに行って野菜ばかり買ってきた。

夫はため息をついていたけれど、これもまた、私の日常の一部なのだ。

でも、煮こごり枕のおかげで、毎朝のスタートは格段に良くなった。

体が楽だと、心にもゆとりが生まれる。

朝、夫が新聞を読んでいる横で、私も淹れたてのコーヒーを飲みながら、庭の畑を眺める。

陽の光を浴びて、野菜たちがすくすくと育っている。

土の匂い、鳥の声。

この穏やかな時間が、何よりも贅沢だと感じる。

クリーニングの引き換え券は、結局、新しい枕が来てから一週間後に引き取に行った。

お店の方が「ずいぶんお待たせしましたね」と笑顔で言ってくれて、本当に申し訳ない気持ちになった。

もう二度と忘れません、と心の中で誓ったけれど、さて、いつまで覚えていることやら。

まあ、それもまた、私らしいのかもしれない。

少なくとも、この「煮こごり枕」との約束だけは、これからもずっと守り続けたいものだ。

だって、あの寝心地を知ってしまったら、もう手放せないのだから。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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