📝 この記事のポイント
- 図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。
- まさか、たった一日の遅れで百円取られるとはね。
- 駅前のコンビニでフリスクが買える、あの百円だよ。
図書館で借りた本の返却期限が過ぎていて、延滞金を払う羽目になった。
まさか、たった一日の遅れで百円取られるとはね。
百円て。
駅前のコンビニでフリスクが買える、あの百円だよ。
別にフリスクが今すぐ欲しいわけじゃないけど、なんかこう、損した気分になるじゃない?
いや、そもそも借りた私が悪いんだけどさ。
返却ポストに突っ込めばいいだけなのに、なぜか「ちゃんとカウンターで返したい」っていう謎のこだわりがあって、結局いつもギリギリか、こうして延滞。
これはもう病気だ。
きっと。
そんな百円の痛手を抱えながら、私は意気消沈して名鉄百貨店に向かっていた。
閉店セール。
あの名鉄百貨店が閉店するなんて、ちょっと信じられない。
名古屋生まれ名古屋育ちの私としては、なんかこう、自分の記憶の一部がもぎ取られるような、そんな寂しさがあるんだよね。
小さい頃、おもちゃ売り場でねだり倒してプラレールを買ってもらった記憶とか、あとおばあちゃんに連れられて、最上階のレストランでお子様ランチを食べた記憶とか。
お子様ランチの旗、あれってなんであんなにときめくんだろうね。
今でもたまに、スーパーの冷凍食品コーナーで「お子様ランチセット」みたいなのを見かけると、無性に買いたくなるもん。
いや、買わないけど。
さすがに30代で一人暮らし、猫二匹と暮らす女が、お子様ランチの旗を立てて食べるのは、ちょっと寂しすぎるかなって。
いや、別に誰に見られるわけでもないから、いいのか。
どうなんだろう。
そんなことをぼんやり考えながら、百貨店の美術画廊にたどり着いた。
閉店セールだからって、まさか美術品まで安くなるわけじゃないだろうな、と半信半疑で足を踏み入れたのが運の尽きだった。
だって、そこにあったんだもん。
私の心を鷲掴みにする、一枚の絵画が。
描かれていたのは、猫。
それも、うちの猫たちにそっくりな、少し目つきの悪い茶トラと、ぽっちゃりしたキジトラ。
いや、そっくりっていうか、もはや彼らを描いたとしか思えない。
毛並みの質感とか、しっぽの丸まり方とか、窓辺でうとうとしているあの気だるい雰囲気とか、全部が全部、うちのポチとタマだ。
額縁も控えめだけど上品で、この絵がうちのリビングの壁に飾られているところを想像したら、もう、震えが止まらなかった。
「これは……運命だ」
思わず声に出してしまった。
周りのお客さんたちがギョッとした顔で私を見たけど、そんなことどうでもいい。
私は今、運命と出会ってしまったのだから。
値段を確かめたら、まあ、それなりのお値段。
いや、それなりどころか、私の月収の半分くらい。
正直、絵画にそんな大金を払ったことはない。
いや、そもそも絵画なんて一枚も持っていない。
賃貸マンションの壁に、よくわからない抽象画とか飾ってたら、なんかこう、気取ってるみたいで嫌じゃない?
っていうか、壁に穴開けられないし。
でも、これは違う。
これは、ポチとタマなのだ。
いや、違うけど。
でも、うちの子たちなのだ。
いや、違うんだけどさ。
その日はさすがに即決できなくて、頭を抱えながら帰宅した。
家に帰ったら、当のポチとタマが「おかえりー」と言わんばかりに足元にすり寄ってきた。
ああ、お前たち、お前たちの絵が、名鉄百貨店にいたよ。
しかも、とんでもない値段だったよ。
この子たちのためなら、何でもしてあげたい。
でも、絵を買うのは違うような気もする。
いや、でも、あの絵は本当に、本当に素敵だったんだ。
もう一度見に行こう。
そう心に決めて、翌日、私は再び名鉄百貨店へ向かった。
そして、また悩む。
悩んで悩んで、結局その日も買えずに帰ってきた。
どうしよう、どうしよう。
もう、この絵のことしか考えられない。
在宅でパソコンに向かっていても、ふとした瞬間にあの絵が脳裏に浮かぶ。
うちの猫たちが隣で寝ていても、どこか上の空。
ご飯を食べていても、洗濯物を畳んでいても、お風呂に入っていても、あの猫たちの視線が私を追いかけてくるような気がしてならない。
幻覚かな。
いや、幻覚だろうな。
これはもう、誰かに相談するしかない。
そう思って、私は会社の同僚(と呼んでいいのか、週に一度オンラインで会議するだけの仲だけど)や、大学時代の友人たちにメッセージを送った。
「名鉄百貨店で、うちの猫そっくりな絵を見つけちゃって、買いたいんだけど、めちゃくちゃ高くて悩んでる」と。
すると、アドバイスが続々と届いた。
A子からは「え、それって運命でしょ!
買っちゃいなよ!
絵ってさ、一生ものだよ?
ご飯何回分とかで考えちゃダメだよ!
」と、まるで自分のことのように興奮したメッセージ。
いや、ご飯何回分で考えない方が難しいよ。
うちの子たちはカリカリとチュールしか食べないけど、私の食費はそれなりにかかるんだから。
B男からは「ちょっと待って、本当にその絵、ちゃんとした画家の作品なの?
百貨店とはいえ、閉店セールってさ、ああいうところにも変なもの紛れてたりするからね。
贋作とか、よくあるじゃん。
ちゃんと調べてからにしなよ」と、冷静かつ疑り深いメッセージ。
いや、B男、あなたは一体何を疑ってるんだ。
そもそも贋作だったらどうするんだ。
返金してくれるのか。
というか、贋作だったとしても、私が気に入ったならそれでいいじゃん、という気持ちもあるけど、たしかに高額だし、ちょっと気にはなる。
C美からは「わかる!
私も昔、旅先で一目惚れした陶器があって、でもすごく高くて悩んだの。
結局買わずに帰ってきたんだけど、今でも後悔してる。
だから、もし本当に欲しいなら、後悔しないように買った方がいいと思うよ。
なんなら、私が半分出すから、一緒に買わない?
そしたら、私が半分所有するから、たまにうちに貸してね。
うちの猫たちも喜ぶと思う!
」と、まさかの共同購入提案。
いや、C美。
君の猫は白猫で、うちの猫は茶トラとキジトラだよ。
それに、絵画の共同所有って、なんだかすごくややこしくない?
誰の家に飾るのかとか、喧嘩になりそう。
D太からは「うーん、高額な買い物って、勢いが大事だよ。
一日考えて買わなかったら、もうそれは『そこまで欲しくない』ってことじゃないかな?
本当に欲しかったら、もうとっくに買ってるはずだよ。
冷静になった方がいい」と、まるで仙人のような悟りを開いたメッセージ。
いや、D太、あんたは何を言っているんだ。
たしかに衝動買いは危険だけど、高額なものこそ慎重になるべきだろう。
それに、私は冷静になんてなれてないんだよ!
みんなのアドバイスを総合すると、「買え!
」と「買うな!
」と「ちゃんと調べろ!
」と「一緒に買おう!
」の四者択一。
いや、全然まとまってないじゃん。
でも、こうして誰かに話を聞いてもらうだけで、なんだか少しだけ心が整理された気がした。
よし、もう一度見に行こう。
そして、今度は店員さんに聞いてみよう。
そう決意して、私は三度目の名鉄百貨店へ向かった。
閉店セールも終盤に差し掛かり、店内はさらに活気に満ちている。
美術画廊も、前回よりも人が多い気がする。
私の運命の絵画、まだあるかな。
ドキドキしながら目的の場所へ向かうと、そこには……なんと、絵画がない。
え?
嘘でしょ?
まさか、売り切れ?
誰かに買われちゃったの?
私の運命が、誰かの手に渡ってしまったの?
私は焦って、近くにいた店員さんに声をかけた。
「あの、すみません、猫の絵、ありませんか?
店員さんはにこやかに答えてくれた。「ああ、あの絵ですね。大変申し訳ございません。あちらは本日、売約済みとなりました。昨日、男性のお客様がご購入されました」
ガーン。
ショック。
あまりのショックに、私はその場で膝から崩れ落ちそうになった。
いや、崩れ落ちなかったけど。
寸でのところで踏みとどまったけど。
昨日、男性のお客様が。
ということは、D太のアドバイスは正しかったのか。
「一日考えて買わなかったら、もうそれは『そこまで欲しくない』ってことじゃないかな?
」いや、そんなことはない。
私は欲しかった。
欲しかったんだよ、D太。
でも、これで良かったのかもしれない。
あの絵は、私の家に飾られるべき絵ではなかったのだ。
きっと、もっとふさわしい場所があったのだろう。
それに、あの絵を買うためのお金は、うちのポチとタマのために使うべきだ。
高級なウェットフードとか、新しい爪とぎとか、あとは、猫用の自動給餌器とかもいいな。
最近、私がうっかり寝坊すると、ポチが起こしに来るんだよね。
いや、起こしに来るっていうか、顔を舐めてくるんだけど、その舌がザラザラしてて結構痛いんだ。
あれは「ご飯くれ!
」っていうサインなんだろうな。
あの自動給餌器があれば、私が寝坊しても大丈夫だし、ポチの舌攻撃も回避できる。
そう考えると、絵画を諦めて良かったのかもしれない。
結局、私は百貨店で何も買わずに帰路についた。
延滞金を払ってフリスクを買い損ねた百円といい、運命の絵画といい、なんか今日は色々とタイミングが合わない日だったな。
でも、家に帰れば、ポチとタマが「おかえりー」と足元にすり寄ってくる。
彼らの存在が、何よりも私にとっての宝物だ。
結局、あの絵画は買えなかったけど、私は図書館に延滞金を払い、名鉄百貨店の美術画廊で運命の猫の絵画に出会い、そして多くの友人たちからアドバイスをもらい、最終的には猫たちのための自動給餌器の購入を検討し始めた。
この一連の出来事を通して、私はある小さな発見をした。
それは、たとえ高額な買い物をしなくても、日常の些細な出来事や人とのやり取りの中に、たくさんの感情や気づきが詰まっているということ。
そして、猫はかわいい。
いや、これは発見じゃなくて、最初から知ってたことか。
でも、改めて、猫は本当にかわいい。
そういえば、図書館の延滞金、まさか百円だと思わなくて、財布から小銭を全部出して数えたら、百円玉がなくて五十円玉と十円玉の組み合わせで払ったんだよね。
なんか、それもまた、ちょっとした敗北感だった。
いや、別にどうでもいいんだけどさ。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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