📝 この記事のポイント
- 久々に会った友人が激やせしていて、「大丈夫? 」と聞いたらダイエット成功とのこと。
- 聞けば、結婚式に向けて半年で10キロ落としたらしい。
- その話を聞きながら、私は目の前のエビチリ定食を無心で頬張っていた。
久々に会った友人が激やせしていて、「大丈夫?
」と聞いたらダイエット成功とのこと。
聞けば、結婚式に向けて半年で10キロ落としたらしい。
ストイックな食生活と週5のジム通い。
その話を聞きながら、私は目の前のエビチリ定食を無心で頬張っていた。
すごいね、としか言えなかった。
私も結婚式は控えているけれど、まあ、そのうち。
夫となる彼も「そのうちでいいよ」と言うから、余計に。
私たちは同棲して一年になる。
当初は「健康的な自炊生活を送ろうね」と意気込んでいたものの、フタを開けてみれば休日の外食率は異常に高い。
平日の夜も、なんだかんだで冷凍食品や出来合いの惣菜に頼りがちだ。
料理をするのは嫌いじゃない。
むしろ、新しいレシピを試したり、盛り付けを工夫したりするのは好きだ。
でも、買い出しに行って、献立を考えて、作って、食べて、片付ける。
この一連の流れが、どうにも億劫になってしまう。
特に、休日の朝なんかは、朝食を済ませて、やっとコーヒーを淹れて、さあ、と一息ついた途端、「今日のお昼どうする?
」「夜は?
」と彼が聞いてくる。
そのたびに、頭の中で「まだ午前中なのに!
」と叫んでしまう。
そういう時、外食という選択肢は、まるで救いの手のように差し伸べられる。
先日も、彼と週末の過ごし方について話していた。
「今日どうする?
」「うーん、特に何も決めてないんだけど」「なんか面白いことないかな」「面白いこと、かあ……」と、二人でスマホを眺めながら、結局カフェで朝食を済ませ、街をぶらぶらすることになった。
その途中、雑貨屋さんの前を通りかかったとき、彼の目が釘付けになった。
ショーウィンドウに飾られていたのは、取っ手が取れるタイプの多機能フライパンセット。
鮮やかな青色で、いかにも「料理が楽しくなりますよ!
」と言わんばかりの佇まいだった。
彼が「これ、良くない?
」と目を輝かせながら言った。
「なんか、料理のモチベーション上がりそうじゃない?
」「あー、そうだね。
でも、うちのフライパンまだ使えるよね」「いや、でも、焦げ付くときあるじゃん。
そこからはもう、彼のプレゼンテーションが始まった。
取っ手が取れるから収納に便利、重ねてしまえるから場所を取らない、食卓にそのまま出せるから洗い物が減る、オーブンにも使えるからレパートリーが広がる。
店員さん顔負けの熱弁だった。
私は内心、「そんなに料理するつもりないくせに」とツッコミを入れたかったが、彼のキラキラした目を見ると、言い出せなかった。
彼がそこまで何かを欲しがるのは珍しい。
いつもは私が「これ欲しいな」と言うと、「本当に必要?
」と冷静に返してくるタイプなのに。
このフライパンは彼にとって、単なる調理器具ではなく、もはや「理想の食卓」へのパスポートなのだ。
結局、私たちはそのフライパンセットを衝動買いした。
一番大きいサイズと中くらいのサイズ、それから蓋が二つ。
税込みで1万5千円くらいだった。
帰りの道中、彼は満面の笑みで紙袋を抱えていた。
私は彼の隣で、ちょっと複雑な気持ちになっていた。
「これで本当に料理するのかな」「また一週間後には外食してるんじゃないかな」そんな不安が頭をよぎった。
だって、私も何度か経験がある。
フィットネスバイクを買って、三日坊主で物干し台になったこと。
おしゃれなミキサーを買って、スムージーを二回作って、あとはキッチンの奥で眠っていること。
新しいものへの期待感と、現実のズレ。
それは、まるでサブキャラたちが主人公を「素晴らしい!
」と褒め称え続ける作品を見ているような気分だ。
誰も「いやいや、それ無理でしょ」とか「もっと他にやることあるんじゃない?
」とか、ツッコミを入れてくれない。
だから、主人公はどんどん暴走して、結局「作者の欲望」だけが肥大化していく。
私たちの場合、その「作者の欲望」は「毎日健康的な手料理を食べる素敵なカップル」という幻想だった。
翌日、彼が張り切って新しいフライパンで朝食を作ってくれた。
目玉焼きとソーセージ。
確かに焦げ付かないし、見た目も綺麗に焼けていた。
彼は「どう?
すごくない?
」と得意げな顔。
私は「うん、すごいね」と答えるしかなかった。
それから一週間は、確かに自炊率が上がった。
彼も私も、新しいフライパンを使うのが楽しくて、いつもより早く帰ってきて、一緒にキッチンに立つ日もあった。
でも、二週間、三週間と経つうちに、徐々に元のペースに戻っていった。
平日は仕事で疲れて、休日はやっぱり「外で美味しいもの食べたいね」となる。
フライパンは、週に2、3回使う程度になった。
彼は「やっぱり、これ買ってよかったね」と言うけれど、その言葉にはどこか、自信なさげな響きがあった。
先日、彼の誕生日のことだ。
私がサプライズで手料理を作ろうと意気込み、彼が寝ている間にキッチンに立った。
メニューは、彼が好きなハンバーグと、付け合わせの温野菜。
そう、あのフライパンの出番だ。
ハンバーグを焼いて、ソースを煮詰めて、温野菜も同じフライパンでサッと炒める。
取っ手が取れるので、そのまま食卓に出せるのは本当に便利だった。
料理は無事に完成し、彼も「美味しい!
」と喜んでくれた。
その時、ふと気づいた。
衝動買いしたあのフライパン。
確かに最初のうちは「また無駄遣いしちゃったかな」と後悔したけれど、なんだかんだで使っている。
完全に物干し台になったフィットネスバイクとは違う。
使っているうちに、愛着も湧いてきた。
焦げ付かないから、安心して料理できるし、洗うのも楽だ。
収納もコンパクトで、キッチンのスペースを圧迫しない。
つまり、彼のプレゼンテーションで言っていたことのほとんどは、本当にその通りだったのだ。
ただ、そのフライパンが、私たちの食生活を劇的に変える魔法の道具ではなかった、というだけのこと。
私はまだ、友人のようにストイックなダイエット生活を送っているわけではない。
結婚式に向けて、焦りを感じないわけでもない。
でも、まあ、そのうち。
私たちの食卓は、相変わらず外食と自炊が半々くらいで、新しいフライパンは週に何回か出番がある。
それでいいのだ。
完璧な主人公になる必要なんてない。
ツッコミ不在で暴走するのではなく、適度な自虐と、ちょっとした諦めと、でも結局は前に進む。
そんな「あるがまま」の日常が、きっと私たちにはちょうどいい。
今日も彼と「今日の夜どうする?
」と話している。
「冷蔵庫に鶏肉があるけど、何にする?
」「なんか、簡単に焼くだけとかないかな」「あ、そういえば、あのフライパンなら綺麗に焼けるよ」
私たちの物語は、たぶん、これからもこんな感じで続いていく。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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