面接官の優しさは蜃気楼?転勤族の俺が食パンを焦がしながら考えたこと

📝 この記事のポイント

  • 書店で立ち読みしていたら、知らない人に話しかけられて焦った。
  • あの、これ、フィクションなんですが、僕のこの世で三番目に苦手なシチュエーションでしてね。
  • 一番は納豆のパックを勢いよく開けすぎて、タレが指先に飛び散る時。

書店で立ち読みしていたら、知らない人に話しかけられて焦った。

あの、これ、フィクションなんですが、僕のこの世で三番目に苦手なシチュエーションでしてね。

一番は納豆のパックを勢いよく開けすぎて、タレが指先に飛び散る時。

二番目は、真夜中にふと目が覚めて、天井の隅っこに巨大な蜘蛛を見つけた時。

ええ、もう心臓が飛び出るかと思いましたよ。

「あの、すみません、その本、面白いですか?

」って、え、今、僕に言ってる?

って、思わず目を泳がせたら、その人がさらに一歩近づいてきて、「僕、ずっと気になってたんですけど、どうも内容が難しそうで…」とかなんとか。

いや、俺も今読み始めたばっかだし、お前誰やねん!

って心の中で叫びつつ、「ああ、ええと、まだ序盤なんですけど、なかなか…」とか曖昧に答えちゃって、情けないったらありゃしない。

結局、その人は僕が読んでいた、ちょっとマニアックな鉄道の時刻表の変遷に関する本を興味津々で眺め始め、「へえ、こんなマニアックな本があるんですね!

」って、いや、だから、お前誰やねん。

そんなこんなで、なんかもう、その日の俺の気力は完全に削がれてしまったわけ。

で、そんな出来事があったもんだから、その日の夜、単身赴任先の古くて狭いキッチンで、焦げ付いたフライパンを洗剤でゴシゴシしながら、ふと思ったんですよね。

人って、最初の印象と全然違うこと、めっっっちゃあるよな、って。

特に、新しい職場に入った時の、あの「はじめまして」の瞬間。

あれって、全員が全員、最高の笑顔と最高の態度で臨むじゃないですか。

特に、面接官。

彼らって、まるで仏様かと思うくらい優しい顔で、僕の話に耳を傾けてくれて、「いやあ、君のような人材は、うちには本当に必要だ!

」「ぜひ、一緒に働きたい!

」なんて、それはもう、僕の自己肯定感をNASAのロケットくらい打ち上げてくれるわけですよ。

ああ、この会社、最高だ。

この人、最高だ。

って、その瞬間は心底思う。

思うんだけど、これが転勤族の悲しい性というか、何回も転職を繰り返していると、だんだん分かってくるんですよね。

あの時のキラキラした笑顔、あれ、ほぼ全部、蜃気楼だったんだな、って。

僕、これまでいろんな会社で働いてきましたけど、不思議と、採用してくれた面接官が、入社後に『あれっ?

』ってなる確率、ほぼ100%なんですよ。

もちろん、彼らが急に悪人になるわけじゃないんです。

ただ、面接の時に見せていた、あの全肯定の姿勢とか、包み込むような温かさとか、そういうのが、入社して3ヶ月も経つと、まるで泡のように消え去ってる、みたいな。

例えば、前職の営業部長だった山下さん。

面接では「君のチャレンジ精神、素晴らしいね!

うちはどんどん新しいことに挑戦できる会社だよ!

」って、僕が大学時代にサークルで企画したイベントの話を延々と聞いてくれたんですよ。

僕も調子に乗って、そのイベントがいかに大変で、でもいかにやりがいがあったかを熱弁したっけ。

で、入社して配属された部署は、僕が担当したかった新規事業ではなく、ひたすら既存顧客へのルート営業。

それも、新規開拓とか一切なしで、毎日同じ資料を同じ顧客に説明して回る、みたいな。

で、ある日、意を決して山下部長に「あの、面接の時にお話した、新規事業の方に興味があるんですが…」って切り出したら、「ああ、君、入社したばっかりで何言ってるんだ。

まずは既存業務をしっかり覚えてもらわないと困るよ」って、ものすごく冷たい声で言われたんですよ。

あの時の僕の心の氷点下ぶりと言ったら、南極の奥地も真っ青でしたね。

なんでなんだろう、これ。

僕が悪いのか?

いや、僕が面接で嘘をついたわけじゃないし。

じゃあ、彼らが悪いのか?

うーん、悪意があるわけじゃないんだろうけど。

この疑問が頭から離れなくて、ある休日、図書館に行ったんですよ。

僕、図書館ってなんか落ち着くんですよね。

あの、静けさの中に響く本のページをめくる音とか、古本の匂いとか。

ああ、そうそう、僕のこだわりなんですけど、図書館で本を探すとき、必ず一番上の棚から順に見ていくんです。

別に理由はないんですけど、なんか、そうしないと落ち着かない。

下から見ていくと、なんか、敗北感があるというか、もうダメだ、って諦めた人がしぶしぶ下を向く、みたいなイメージが勝手に湧いてきちゃって。

だから、どんなに首が痛くなっても、背伸びしてでも、一番上からなんですよ。

そんなわけで、首を痛めながら本を探してたら、たまたま「採用心理学」みたいなコーナーを見つけて。

別にガチで調べるつもりじゃなかったんですけど、ちょっと気になっちゃって、何冊か手に取ってみたんです。

そしたら、面白いことが書いてありましたね。

「面接官の役割は、候補者を正確に評価することではなく、会社に最も貢献できる人材を引きつけ、採用することである」って。

ははーん、なるほど。

つまり、面接の場っていうのは、お互いが「最高の自分」を演じる舞台ってことか。

面接官も、会社の魅力を最大限にアピールするために、普段とは違う「理想の上司像」を演じてるってことですよね。

僕の前の職場の山下部長も、きっと「チャレンジを推奨する、懐の深い上司」を演じていたんだろうな。

んで、僕も僕で、「どんな業務でも前向きにこなします!

でも、できれば新規事業を!

」っていう、ちょっと欲張りな「熱意ある若者」を演じていたわけだ。

さらに読み進めると、「人は新しい環境で、自分が置かれた役割に応じて振る舞いを変える」みたいなことも書いてあったんですよ。

つまり、面接官という役割を終え、採用した僕を部下として迎えた瞬間、彼らの役割は「候補者を魅了する人」から「部下を管理し、成果を出させる人」にスイッチする。

だから、優しかった彼らが、急に現実的な顔を見せたり、厳しくなったりするのも、ある意味、自然なことなのか、と。

僕も、面接の時は「どんな仕事でも頑張ります!

」とか言っておきながら、いざ配属されたら「え、これマジでやるの?

」って思ったこと、数えきれないくらいあるし。

人は、目の前の役割に忠実になる生き物なんですね。

これは、なかなか深い発見でした。

でもね、そんな心理学的な考察をいくら深めたところで、僕の日常はちっとも変わらないんですよ。

相変わらず、翌日からの仕事に少しばかりの不安を感じながら、単身赴任先の小さなアパートで、今日も自炊生活。

図書館で借りてきた本を読みながら、夕飯に作った鶏肉の塩焼きを噛み締める。

ああ、ちょっと焼きすぎたかな。

でも、まあ、これはこれで香ばしくて美味しい。

むしろ、これくらい焦げ目がついている方が、食欲をそそるってもんだ。

焦げ目のない鶏肉なんて、人生で言うところの、なんの苦労も経験せずにぬるま湯で育った人間みたいで、なんか物足りない気がするんですよ。

ちょっと分かるでしょ?

いや、分かんないかな。

それにしても、鶏肉の焦げ目と面接官の優しさ。

全然違う話なのに、なんか頭の中で繋がっちゃうんだから、我ながら不思議なもんだ。

結局のところ、面接官が採用後に「あれっ?

」ってなるのは、ある意味、僕自身の「期待値」が大きすぎたせいなのかもしれないな、なんて、ちょっとだけ反省したりもする。

彼らは彼らで、会社のために最善を尽くしているだけなんだろうし。

僕も僕で、会社で与えられた役割を全うしつつ、でも、心の中では常に、次のステップを虎視眈々と狙っている。

うん、まあ、人間ってそんなもんですよね。

なんだかんだ言って、みんな、自分の役割と、それに伴う期待と現実のギャップの中で、日々奮闘してるってことなんだろうな。

そういえば、さっき焦げ付いたフライパンを洗剤でゴシゴシしてたけど、あれって、僕が鶏肉を焦がしたからでしょ。

つまり、僕が悪い。

でも、フライパンの焦げ付きがひどいと、つい「このフライパン、もう寿命か?

」とか、フライパンのせいにする自分がいる。

これもまた、人間のあるある、なのかな。

とまあ、そんなことを考えながら、食後のコーヒーを淹れる。

ああ、このコーヒー豆、ちょっと賞味期限が切れかかってるんだけど、まあ、香りが飛んでるくらいで、飲めないってことはないだろう。

うん、大丈夫。

きっと大丈夫。

焦げ付いた鶏肉も、賞味期限切れのコーヒーも、そして面接官の幻の優しさも、僕の日常を彩る、ちょっとしたスパイスなんだな、きっと。

なんてね。

もう、今日は疲れたから、早く寝よう。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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