📝 この記事のポイント
- ゴミ出しの日を間違えて、週末までゴミを抱えて暮らすことになった。
- 金曜日の夜、いつものように玄関を出て、燃えるゴミの袋を抱え、意気揚々とマンションのゴミステーションへ向かう。
- 「あれ、何か今日、ゴミの山が少ないな……」と、その時、電灯の下に貼られたカレンダーが目に飛び込んできた。
ゴミ出しの日を間違えて、週末までゴミを抱えて暮らすことになった。
金曜日の夜、いつものように玄関を出て、燃えるゴミの袋を抱え、意気揚々とマンションのゴミステーションへ向かう。
誰もいない静かな夜道。
「あれ、何か今日、ゴミの山が少ないな……」と、その時、電灯の下に貼られたカレンダーが目に飛び込んできた。
燃えるゴミ、月・水・金。
そう、月・水・金、午前中まで。
時刻はすでに夜の9時を回っている。
あちゃー、やっちまった。
完全に頭の中が週末モードで、ゴミ出しのことを週明けのことと勘違いしていたのだ。
仕方なく、しょんぼりしながらゴミ袋を抱えて部屋に戻る。
リビングで寛いでいた愛犬、フレンチブルドッグのブーちゃんが、「なんだ、また戻ってきたのか?
」とばかりに、つぶらな瞳でこちらを見上げている。
その表情は「おやつじゃないのかよ」と訴えているようにも見える。
いやいや、おやつどころか、この燃えるゴミを週末まで抱えて暮らすことになるんだよ、ブーちゃん。
お前のうんちもこの中にあるんだぞ。
まさか、週末までこの匂いと共存する羽目になるとは……。
自業自得とはいえ、なんとも言えない敗北感に包まれた金曜の夜だった。
そんなゴミ袋を抱えたまま週末を過ごし、やっとのことで月曜の朝、無事にゴミを出し終えた。
清々しい気持ちで車に乗り込み、打ち合わせのため札幌市街へと向かう。
北海道の雪解け時期は、毎年「春が来た!
」という喜びと同時に「あ、またこの季節か……」という憂鬱な気持ちが同居する。
それは、融雪と凍結を繰り返すことで道路にぽっかりと穴が開く、「ポットホール」という名の“陥没地獄”が出現するからだ。
特に今年はひどい。
幹線道路はまだマシな方だけど、ちょっと裏道に入ったり、信号の少ない国道を走ったりすると、そこはもう戦場だ。
朝の光の中を走り出して数十分、いつもの国道を快調に進んでいたはずが、突然「ドンッ!
」という強烈な衝撃が車全体を襲った。
その瞬間、私は思わず「ひゃっ!
」と奇声をあげてハンドルを握りしめた。
助手席に置いていたブーちゃんのぬいぐるみ(本物のブーちゃんは留守番)が、シートベルトをすり抜けてダッシュボードに激突するくらいの衝撃だ。
ルームミラーには、後続車が同じようにボコッと跳ね上がっているのが見えた。
みんな被害者仲間、と心の中でそっと手を合わせる。
いや、これは挨拶か。
私の愛車は、ちょっと車高が高めのSUVだから、まだマシな方かもしれない。
以前、友人が乗っていたスポーツカーが、この時期にマンホールサイズの穴に突っ込んで、タイヤがパンクしたどころか、ホイールまでダメになったという話を聞いたことがある。
修理代が数十万円かかったとかで、「もう春は来なくていい」と半泣きで語っていた。
その気持ち、痛いほどよくわかる。
私の車も、たった今の一撃で何かダメージを受けていないかと、走行中もずっと車体のどこかから異音がしないかと耳を澄ませてしまう。
変な音はしない、はず。
たぶん。
きっと。
夜間走行はもっと恐ろしい。
日が暮れてから打ち合わせが長引き、帰路についたのが夜9時を過ぎていた日のことだ。
街灯の少ない国道を走っていると、ライトに照らされる路面がまるで月面クレーターのように見えてくる。
昼間なら「あ、穴だ」と認識して避けることができるものが、夜だと一瞬の判断ミスで深みにハマる。
暗闇に溶け込む黒い穴は、まるでブラックホールだ。
吸い込まれるように「ズドン!
」と落ち込み、車全体が激しく揺さぶられる。
そのたびに、「物理的に飛ぶぞ!
」と心の中で叫び、ハンドルを強く握りしめる。
一度、あまりにも深い穴に落ちて、車内の荷物が全部ひっくり返ったことがあった。
後部座席に置いていた、スーパーで買ったばかりの卵が、見事に全滅。
車内には、卵の潰れた生臭い匂いが充満し、とろりとした黄身と白身がカーペットに染み込んでいくのを見て、私はその場で「ぎゃああああ!
」と叫んでしまった。
その日の夜ご飯は、卵かけご飯の予定だったのに!
まさか、車の中で卵かけご飯を体験するとは。
いや、体験したのは卵かけカーペットだ。
翌日、車内クリーニングに出す羽目になり、出費がかさんだのは言うまでもない。
もう、卵は助手席に乗せないと誓った夜だった。
この陥没地獄、正直なところ、どこかの建設会社が夜な夜な穴を掘っているんじゃないかと疑ってしまうほど、毎年毎年、まるで新しいアトラクションのように増え続けている気がする。
いや、そんなわけないんだけど。
もちろん、道路を補修する工事はあちこちで行われている。
でも、雪解けのスピードと、道路が傷つくスピードが、どうも釣り合っていないような気がしてならない。
穴を埋めるそばから、新しい穴が生まれる。
まるでモグラたたきだ。
しかも、モグラが穴を掘り返すというより、道路自体が自ら穴を開け始めているような。
生きているのか、この道は。
友人にこの話をすると、「わかるー!
この前、コーヒーぶちまけた!
」とか「車の底、擦った気がする!
」とか、みんなそれぞれの被害報告をしてくれる。
まるで、北海道のドライバーたちにとって、春の風物詩であり、試練のようなものなのだ。
一種のサバイバルゲーム。
「この道を無事に走り抜けたら、今日のミッションクリア!
」と、一人で盛り上がっている自分もいる。
いや、盛り上がっている場合じゃない。
本気で車の寿命が縮まりかねないのだから。
ブーちゃんも、車に乗ると最初は窓から外を眺めて楽しんでいるのだが、大きな穴に落ちるたびに「キャンッ!
」と驚きの声を上げるようになった。
そのたびに私は「ごめんよ、ブーちゃん!
ママの運転が下手なわけじゃないんだよ、道が悪いの!
」と、言い訳がましくブツブツと話しかける。
ブーちゃんは「ふんがっ」と鼻を鳴らして、納得していない様子だ。
確かに、私自身も「もっと慎重に走ればいいのに」と、心の中でツッコミを入れている。
だけど、通勤ラッシュの時間帯に、毎度毎度、穴を避けてノロノロ運転するわけにもいかないのだ。
後ろから煽られでもしたら、それこそ「物理的に飛ぶぞ!
」とハンドルを握りしめることになりそうだ。
そういえば先日、スーパーの駐車場で、見慣れない軽自動車がやけにゆっくりと走っているのを見かけた。
まるで時速10キロくらい。
おばあちゃんドライバーかな、と思ったら、運転席にいたのは見るからに若い男性だった。
しかも、助手席には、明らかに新しいピザの箱が置いてある。
彼は、そのピザを揺らさないように、慎重に、慎重に車を走らせていたのだ。
あの姿を見たとき、私は思わず「ああ、彼もまた、雪解けの道路で幾度となく悲劇を経験してきたのだな」と、勝手に共感してしまった。
ピザを守るその姿は、まるで卵を守れなかった私への、静かなメッセージのようだった。
この陥没地獄、いつになったら終わるのだろう。
GWの頃には、ある程度は補修が進むだろうけど、また来年の春には同じことの繰り返し。
毎年、この季節が来るたびに、私は自分の車が丈夫なことを祈り、そして、運転技術が上がることを願う。
いや、運転技術というより、路面の状況を瞬時に判断し、最適なルートを割り出す能力か。
まるでオフロードレースのドライバーになった気分だ。
次に車を買い替えるときは、いっそのこと戦車にしようか、なんて冗談めかして夫に話したら、「それなら、戦車の運転免許も取らないとね」と真顔で返された。
いやいや、さすがに戦車は無理だろ。
でも、もし本当に戦車に乗れたら、あのボコボコの国道も、きっと平気で走り抜けられるに違いない。
むしろ、穴を埋める手伝いもできるかもしれない。
未来の私は、戦車を乗り回すフリーランスのエッセイストになっているかもしれないな。
その時は、ブーちゃんも一緒に戦車に乗って、北海道の道を駆け巡るのだ。
もちろん、卵は頑丈なケースに入れて、助手席に。
たぶん、無理だろうけど。
今日もまた、無事に帰宅できることを祈りながら、私はハンドルを握る。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

