沖縄スーパーの豚モモとレバー、夫婦の滋養強壮記

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📝 この記事のポイント

  • ある日の午後、ふと目に留まったクリーニング店の控え。
  • 3ヶ月も前の日付を見て、思わず二度見してしまった。
  • あのとき、ちょっとしたお出かけ用にクリーニングに出した一張羅のシャツ。

ある日の午後、ふと目に留まったクリーニング店の控え。

3ヶ月も前の日付を見て、思わず二度見してしまった。

ああ、またやってしまった。

あのとき、ちょっとしたお出かけ用にクリーニングに出した一張羅のシャツ。

完全に私の記憶の片隅に追いやられていたのだ。

夫は隣で「またか」という顔で苦笑いしている。

以前も冬物のコートを夏まで預けっぱなしにして、店員さんに「もうそろそろいかがですか?

」と電話をもらったことがあったっけ。

まあ、田舎暮らしだし、畑仕事が日課となると、一張羅を着る機会なんてそうそうない。

でも、だからといって忘れていいわけじゃない。

私はつくづく自分という人間のいい加減さに呆れてしまう。

そんな忘れっぽい私でも、日々のルーティンだけはきっちりこなしているつもりだ。

朝は夫と二人で畑に出て、土を耕し、苗を植え、水をやる。

午後は収穫した野菜をきれいに洗って、夕食の準備に取り掛かる。

夕食後には、夫と他愛もない話をするのが常だ。

テレビを見ながら「あの役者さん、昔はもっとシャープだったのにねぇ」とか、「この前の草むしり、腰が痛くてたまらなかった」とか。

そんな穏やかな日々が、私たちの田舎暮らしを形作っていた。

約束や予定をすっぽかすのは得意中の得意だけど、日々の小さな営みだけは、なぜだか体にしみついている。

むしろ、予定がないからこそ、忘れる心配もない、というわけだ。

しかし、そんな私たちの日常に、ある日、ささやかな変化が訪れた。

きっかけは、沖縄旅行だった。

娘夫婦が「たまにはゆっくりしてきて」と、突然旅行をプレゼントしてくれたのだ。

生まれて初めての沖縄。

青い海と空に心躍らせ、名物のソーキそばやチャンプルーを堪能した。

どれもこれも美味しくて、沖縄って本当にいいところだねぇ、と夫と顔を見合わせたものだ。

滞在中、何度か地元のスーパーに立ち寄った。

お土産を買うためだったり、ちょっとした飲み物を調達するためだったり。

そのたびに、私はある商品の前で足を止めてしまうのだ。

それは、精肉コーナーの一角に並べられた豚肉のパックだった。

「豚モモとレバー」と書かれたシールが貼られ、それぞれが同じくらいの量で、仲良く並んでパッケージされている。

最初は、「へえ、珍しい組み合わせだね」くらいの認識だった。

でも、行くスーパー、行くスーパーで、必ずそのセットを見かけるのだ。

しかも、結構な数が並んでいる。

これはただの偶然じゃない。

もしかして、沖縄ではこういう売り方が一般的なのか?

と、私はだんだん気になって仕方がなくなった。

夫は隣で「沖縄の人はレバーが好きなのかねぇ」なんて呑気なことを言っている。

いやいや、それだけじゃない気がするのだ。

私の、長年の主婦の勘がそう囁いていた。

ある日、とうとう我慢できなくなり、私は夫に「ねえ、これって何か理由があると思わない?

」と詰め寄った。

「別にいいじゃないか、好きなものを好きなように売ってるんだから」と夫はまた呑気なことを言う。

しかし、私の探究心はもう止められない。

ホテルのロビーで、少し年配のスタッフさんとお話する機会があったので、思い切って尋ねてみた。

「あの、スーパーでよく豚モモとレバーがセットで売られているのを見かけるんですが、あれって何か特別な意味があるんですか?

」スタッフさんは、にこやかに答えてくれた。

「ああ、あれは『イリチー』とか『ちんちんすば』とか、沖縄の滋養強壮の料理によく使うんですよ。

モモとレバーを同じくらい使うと、美味しいんだよねぇ。

栄養も満点さー!

なるほど!

目から鱗だった。

沖縄には、モモとレバーを同量使う滋養強壮の郷土料理があるのか。

だから、スーパーでも親切にセットで販売してくれているわけだ。

私が普段作るレバー料理といえば、レバニラ炒めくらい。

それも、レバーばかりをメインで使うから、モモ肉と合わせるなんて発想は全くなかった。

沖縄の食文化の奥深さに感動すると同時に、自分の視野の狭さを思い知らされた。

私たちは、その日のうちに、さっそくその「豚モモとレバー」のセットを買ってみた。

そして、ホテルの部屋で簡単な調理器具を借りて、自己流で炒め物を作ってみたのだ。

夫は最初、「本当にこれで美味しいのか?

」と半信半疑だったが、一口食べると「お、意外と合うもんだね!

」と目を丸くしていた。

レバーのコクとモモ肉のあっさりした旨味が絶妙に絡み合い、これは確かに滋養強壮になりそうだ、と納得した。

旅行から帰ってきてからも、その「豚モモとレバー」のことが頭から離れなかった。

あの組み合わせの妙。

きっと、私たちの体にもいいはずだ。

田舎に戻ってきて、いつものスーパーに行ってみたが、やはり沖縄のようなセット売りは見当たらない。

仕方がないので、精肉コーナーで豚モモ肉と豚レバーをそれぞれ購入し、自宅で同じくらいの量に切り分けてみた。

まるで沖縄のスーパーを再現するかのように、自分でパックに詰めてみたりして、一人でニヤニヤしてしまう。

夫はそれを見て、「何やってるんだ」と呆れ顔だったが、私が作った「なんちゃって沖縄風イリチー」を美味しそうに食べてくれた。

それ以来、我が家の定番メニューに、豚モモとレバーの炒め物が加わった。

畑仕事で疲れた日には、特に体がこの組み合わせを欲するような気がする。

レバーを捌くのは少し手間がかかるけれど、あの沖縄で出会った発見を思い出すと、なぜだか楽しくなってくるのだ。

今では、夫も「今日はレバーとモモの気分だね」なんて言うようになった。

クリーニングの引き取りは忘れるのに、新しい食のルーティンはしっかりと記憶されている。

人間の記憶回路というのは、本当に面白いものだ。

沖縄でのささやかな発見が、私たちの食卓に新しい彩りを加えてくれた。

そして、食卓だけでなく、日々の会話にも。

夫と二人で「また沖縄に行ったら、今度はあのスーパーでまとめ買いしなくちゃね」なんて笑い合う。

約束や予定を忘れてしまうダメな私だけれど、人生の喜びや、ちょっとした発見を見つける才能だけは、意外と持ち合わせているのかもしれない。

なんて、ちょっと大げさかな。

でも、あの豚モモとレバーのパックを見るたびに、忘れてしまっていたクリーニングのシャツのことまで、なぜだか思い出して、また一人でクスッと笑ってしまうのだ。

まったく、困ったものだ。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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