📝 この記事のポイント
- クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいたのは、つい先日のことだ。
- 夏の終わりに仕舞い込んだ厚手のカーディガン。
- もうすっかり秋も深まり、朝晩はダウンジャケットが必要な陽気だというのに、店員さんは慣れた手つきで、あの薄いビニール袋に入ったままのそれをカウンター越しに差し出した。
クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいたのは、つい先日のことだ。
夏の終わりに仕舞い込んだ厚手のカーディガン。
もうすっかり秋も深まり、朝晩はダウンジャケットが必要な陽気だというのに、店員さんは慣れた手つきで、あの薄いビニール袋に入ったままのそれをカウンター越しに差し出した。
ああ、またやってしまった。
いつものことながら、こういう細かい約束事や予定は、頭の片隅に追いやられ、そのうちどこかへ消えてしまう。
夫に話したら、「お前だけじゃない、俺もだ」と、いつもの合いの手が入った。
二人の顔を見合わせ、どちらからともなく「ははは」と乾いた笑いが漏れた。
うちの日常は、朝日の差し込む縁側で、湯気を立てるお味噌汁の匂いから始まる。
夫が淹れてくれるドリップコーヒーをすすりながら、私は前日の晩から冷蔵庫で冷やしておいたぬか漬けを箸でつまむ。
きゅうりのポリポリとした歯ごたえが、眠い体をゆっくりと覚醒させていく。
新聞を広げ、まずは今日の天気予報。
その次が野菜の値段。
これは日課中の日課で、夫が「お、今日は白菜が安いな」だの「サニーレタスはちょっと高いか」だの、独り言を呟く。
私といえば、その横で「あら、また〇〇さんの畑のキュウリがイノシシにやられたんですって」なんて、地域の小さなニュースを読み上げる。
朝食を済ませれば、次は畑仕事だ。
季節によって作物は変わるけれど、今は大根とカブが盛り。
収穫したばかりの泥つき大根を洗う夫の背中を眺めながら、私は土に埋まった雑草を抜く。
腰をかがめて黙々と作業していると、あっという間に時間が過ぎる。
気づけばお昼前で、お腹の虫がグーと鳴く。
午後は、作り置きのおかずを仕込んだり、ご近所さんに採れたての野菜をお裾分けに行ったり。
夕方には、また畑に出て、水やりをしたり、虫がついていないか確認したりする。
これが、私たちの、ごくごくありふれた毎日だ。
特別なことなんて何もない、ただただ、時間がゆっくりと流れていく。
そんなある日の午後、夫が突然、「なあ、これ知ってるか?
」とパソコンの画面を私に見せた。
画面には、見慣れない文字が並ぶ。
どうやら、選挙をシミュレーションする無料ゲームらしい。
「選挙で勝とう 2026」と書いてある。
夫は目を輝かせながら、「なんか面白そうだろ?
12日間、選挙戦を戦い抜くんだとよ」と説明した。
私は「へえ」と生返事をした。
「また変なもの見つけてきたわね」という言葉は、喉元まで出かかったけれど、なんとか飲み込んだ。
夫が最近、こういう新しいものに興味を持つようになったのは、隣の家に引っ越してきた若い夫婦の影響かもしれない。
彼らが楽しそうに小さな画面を触っているのを見て、夫も何か自分にもできることがないかと探しているようだった。
その夜、夫は食卓で、早速そのゲームの話をし始めた。
「候補者がいて、政策があって、演説をするんだとよ。
支持率が上がったり下がったりするらしい」と、興奮気味に語る。
私は「へえ、大変そうね」と、またも生返事。
正直、選挙なんて、私たちの生活とは遠い世界の出来事だと思っていた。
投票日にはちゃんと行くけれど、それ以上は関心がない。
ましてや、ゲームで選挙戦を戦うなんて、想像もつかなかった。
「見てみろよ、これ」と、夫はまたパソコンの画面を私に見せた。
「支持率を上げるためには、地域のイベントに参加したり、商店街を回ったり、あとSNSで発信したりするんだって」と、楽しそうに説明する。
SNSという言葉を聞いて、「えすえぬえす?
」と首を傾げた私に、夫は「まあ、簡単に言うと、みんなに自分の考えを伝えるための道具だな」と、ざっくりとした説明をしてくれた。
最初は、夫が一人でポチポチと画面を眺めているだけだった。
私はいつも通り、夕食の後片付けをしたり、採れたての野菜で明日の朝食の準備をしたり。
夫の背中越しに聞こえてくる「よし、ここで演説だ!
」「支持率が下がった、まずいな」といった独り言は、まるでテレビのニュースでも聞いているかのように、私の耳を素通りしていった。
ところが、ある日の夜、夫が「おい、ちょっと手伝ってくれ」と言い出した。
どうやら、ゲームの中の候補者が、街頭演説で何を話すか、という選択肢で悩んでいるらしい。
「地元の特産品をアピールするか、それとも子育て支援か、どっちがいいと思う?
」と、真剣な顔で私に尋ねてきた。
私は「ええ?
私に聞かれても」と戸惑ったけれど、夫があまりに真剣なので、ついつい「うーん、子育て支援って言っても、この辺はもうお年寄りばかりじゃない?
」と、自分の知っている地域の様子を重ね合わせて答えてしまった。
夫は「なるほど、そういう視点もあるな」と、何やらメモを取り始めた。
それからというもの、私たち夫婦の夜のルーティンは一変した。
食卓を片付け、お風呂に入った後、夫は必ずパソコンの前に陣取るようになった。
そして、私が隣に座ると、今日のゲームの進捗状況を報告するのだ。
「今日は商店街を回って、支持率が少し上がったぞ」「明日は、あそこのイベントに参加する予定だ」と、まるで本当に自分が選挙に出ているかのように語る。
私も最初は「ふうん」と聞き流していたけれど、毎日聞いているうちに、だんだん興味が湧いてきた。
夫が「おい、ここでどこの地域に重点的にアピールするか、意見が割れてるんだ。
お前はどう思う?
」と聞いてくると、私も真剣に考えるようになった。
「あのね、この辺の人は、やっぱり交通の便が悪いって言ってるわよね。
バスの本数が少ないとか、病院に行くのが大変だとか。
そういうことに力を入れるって言ったら、喜ぶ人もいるんじゃないかしら」と、自分の経験や近所の人との会話から得た情報を、夫に伝えるようになった。
夫は「なるほど、それはいい視点だ!
」と、私の意見を採用してくれる。
私たちの意見がゲームに反映されるのが面白くて、私はどんどんゲームにのめり込んでいった。
そう、今ではもう、私たちの日常に「選挙で勝とう 2026」はすっかり溶け込んでいる。
朝食の時、「今日はどの政策に力を入れるか?
」なんて会話が飛び交うし、畑仕事の合間にも、「この地域は、高齢者の人口が多いから、介護施設の話をしたら、支持率が上がるんじゃないか」なんて、ゲームの中の戦略について話し合ったりする。
先日、夫が「どうだ、このゲーム。
面白いだろ?
」と得意げに聞いてきたので、私は「ええ、まあね」と答えた。
そして、「でも、本当に選挙に出る人って、こんなに大変な思いをしてるのね」と付け加えた。
夫は「そうだな。
毎日のように頭を使って、いろんな人と話して、自分の考えを伝えなきゃいけないんだからな。
それに、約束をしたらちゃんと守るってことも大事だろうし」と、しみじみと言った。
私は、クリーニング店のビニール袋に入ったままのカーディガンを思い出し、「そうね、約束は大事ね」と、夫の言葉に深く頷いた。
ゲームの中の候補者も、現実の私たちも、約束を守ることの難しさ、そして大切さに、改めて気づかされた毎日だ。
今夜もまた、私たちはパソコンの前に並んで座るだろう。
そして、「さあ、今日はどこの地域を攻めるかね」と、顔を見合わせるのだ。
きっと、明日も明後日も、私たちはこの小さな画面の中の選挙戦を、あーでもない、こーでもないと議論しながら、楽しんでいくのだろう。
まるで、本当に私たちの生活の一部になったかのように。
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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