シンデレラガールズ総選挙と、法律の奥深さに震えた話

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📝 この記事のポイント

  • カラオケで十八番を歌ったら、キーが合わなくて途中でリセットした。
  • 曲はMr.Childrenの「Tomorrow never knows」。
  • 昔から喉の奥に張り付いたような声が出なくて、何度挑戦してもサビで裏返る。

カラオケで十八番を歌ったら、キーが合わなくて途中でリセットした。

曲はMr.Childrenの「Tomorrow never knows」。

昔から喉の奥に張り付いたような声が出なくて、何度挑戦してもサビで裏返る。

特に「永遠の〜」の「遠」のあたりで、もう無理だと悟ってしまう。

あれは一体、どういう喉の構造をしている人が歌えるんだろう。

いつもそう思って、結局はDAMの採点画面に表示される自分の音程バーと、画面下の歌詞がズレていくのを呆然と眺める羽目になる。

今日は特に酷くて、イントロが流れてきた瞬間から嫌な予感がしたんだ。

隣の部屋からは、誰かが熱唱している「ドライフラワー」のサビが壁をすり抜けてくる。

あれも高音キツいよな、と勝手に連帯感を抱いたりして。

シェアハウスのダイニングで、僕がそうボヤくと、同居人のハルキが「お前、歌のキーなんてその日の体調で全然違うんだから、無理するなよ」と、やけに達観した口調で言った。

彼は自称「歌い手系男子」で、やたらと喉のケアに熱心だ。

いつも首にスカーフを巻いてるし、加湿器は必需品らしい。

僕は彼のその意識の高さに、毎回ちょっとだけ引いている。

今日は僕が夕飯当番で、冷蔵庫に残っていた鶏肉と余り野菜で適当に炒め物を作った。

鶏肉は賞味期限ギリギリで、ちょっとだけ色が怪しかったけど、しっかり火を通せば大丈夫だろうという安易な判断だ。

皿に盛られた茶色い物体を前にして、ハルキが箸を止めて言った。

「なあ、お前、最近なんか選挙とかに興味ある?

」突然の問いかけに、僕は炒め物から目を離して首を傾げた。

「え?

別に。

誰か立候補してるっけ?

」するとハルキは、自分のスマホを取り出して、一枚の画像を見せてきた。

それは、とあるアイドルグループのキャラクターがずらりと並んだ、「総選挙」と書かれた画像だった。

あー、これか、と僕は合点がいった。

僕も昔、この手のキャラクター総選挙にハマっていた時期があった。

まあ、ハマっていたというよりは、周りの熱気に巻き込まれて、ちょっとだけ覗き見していた、という方が正確かもしれない。

友達が異常な熱量を注いでいたんだ。

「推し」と呼ばれるお気に入りのキャラクターを上位に食い込ませるために、文字通り血眼になっていた。

僕が当時驚いたのは、その「選挙活動」の過激さだった。

まず、投票券を手に入れる方法。

基本は、対象のゲーム内アイテムを購入すると付いてくる、という形式なんだけど、これがお菓子のおまけとか、トレーディングカードの当たり券とか、そういうレベルじゃない。

数千円するCDを何十枚も買ったり、ゲーム内通貨を課金しまくったり。

その膨大な課金が、投票券一枚一枚に化けるわけだ。

で、投票期間が始まると、街中が異様な熱気に包まれる。

いや、街中というか、インターネットの片隅が、か。

友達は、昼休みも返上してスマホを睨みつけていた。

何をしているのかと聞くと、「選挙速報をチェックしてるんだよ!

今、〇〇ちゃんが3位に落ちたんだよ!

やばい!

」と、顔を真っ赤にして叫ぶ。

その時の彼女の形相は、まるで株価の暴落に直面した投資家さながらだった。

さらに驚いたのは、その選挙活動の「広報戦略」だ。

当時、Twitterとかで「〇〇ちゃんに清き一票を!

」みたいなハッシュタグが飛び交っていたのはもちろんのこと、イラストレーターが無料イラストを描いて配布したり、応援動画が作られたり、中には「〇〇ちゃんに投票してくれたら、抽選で好きなコンビニスイーツ奢ります!

」なんていう、もはや公約めいたものまで登場していた。

しまいには、特定の場所に集まって、みんなで一斉に投票する「集票イベント」みたいなものまで行われていたらしい。

僕はそれを聞いて、思わず「それ、現実の選挙だったら、完全に公職選挙法違反じゃね?

」とツッコミを入れた記憶がある。

ハルキは僕の皿に残った鶏肉炒めを眺めながら、「そうなんだよ、それだよ!

」と膝を打った。

「俺も当時、友達に勧められて、このシンデレラガールズ総選挙ってやつをちょっとだけ覗いたんだけどさ。

その選挙活動が、リアルな選挙活動と瓜二つなのよ。

いや、むしろ現実の選挙より過激だったかもしれない。

だって、特定の候補者に投票したら、現金とか景品を渡します、なんて言ってる奴までいたんだぜ?

あれ、リアルでやったら一発アウトだろ?

僕は、残り少なくなったご飯をかっこみながら頷いた。

確かに、あの熱狂ぶりは、ちょっとした社会現象だった。

当時は「あくまでゲーム内の話だから」という大義名分のもと、あらゆるルールが緩くなっていたけれど、もしあれをそのまま現実の選挙に置き換えたら、どうなるか。

まず、投票券を金銭で購入する行為そのものが、選挙の公正さを著しく損なう。

そして、特定の候補者への投票を促すために、景品や金銭を渡す行為は、言わずもがな買収にあたる。

さらに、組織的な集票活動も、厳しく規制されるだろう。

何よりも、候補者のプライベートな情報や、ちょっとした発言を針小棒大に非難したり、逆に過剰に持ち上げたりするネット上の動きも、現実の選挙だったら、名誉毀損や誹謗中傷、あるいは運動の公正を害する行為として問題視されるはずだ。

「だからさ、俺、あの総選挙を見てて、公職選挙法ってすごい法律だなって思ったんだよ」とハルキが続ける。

「何がすごいって、あの法律がなかったら、現実の選挙が、あのシンデレラガールズ総選挙みたいに荒れ放題になるってことだろ?

僕は彼の言葉に、はっとさせられた。

確かに、僕らは普段、公職選挙法なんていう法律の存在をほとんど意識せずに生きている。

選挙に行っても、掲示板のポスターを眺めて、投票用紙に名前を書くだけ。

それが当たり前だと思っている。

でも、その「当たり前」は、厳格な法律によって守られている公正なシステムの上で成り立っているんだ。

もし法律がなかったら、と想像すると、ちょっと恐ろしい。

政治家が、有権者一人一人に「私に一票入れてくれたら、高級焼き肉店にご招待します!

」とか「〇〇円分の商品券をプレゼント!

」なんて言い出したら、もう収拾がつかなくなるだろう。

そんな選挙に、僕らは果たして「清き一票」を投じられるだろうか。

いや、それどころか、誰が本当に国を良くしたいと思っているのか、全く分からなくなる。

「つまりさ、あの総選挙は、公職選挙法の大切さを、身をもって教えてくれた、ってことなんだよな」ハルキは、冷めた鶏肉炒めを一口食べながら言った。

「いや、法律がどうのこうのって、堅苦しい話じゃなくてさ。

要は、みんなが公平に、本当に良いと思った人に票を入れられる環境って、実はすごく貴重なものなんだなって。

僕は、皿に残った最後の鶏肉を口に運びながら、彼の言葉を反芻した。

確かに、僕らは日常の中で、たくさんの「見えないルール」や「当たり前」に守られて生きている。

スーパーで当たり前のように新鮮な野菜が並んでいるのも、賞味期限がきちんと表示されているのも、誰かが作ったルールのおかげだ。

信号が赤になったら止まるのも、列に並んで順番を待つのも、そう。

そういう「当たり前」が、僕たちの社会を円滑に回している。

公職選挙法も、その一つなんだろう。

あのアイドル総選挙の過熱ぶりを目の当たりにした時、僕はただ「面白いな」とか「やりすぎだな」と感じていたけれど、その裏には、現実の選挙が守られている「見えない壁」の存在があったんだ。

もしその壁がなかったら、僕らの社会は、もっと混沌としたものになっていたかもしれない。

そんなことを考えていたら、ふと、このシェアハウスの当番制のルールも、ある種の「法律」なのかもしれない、なんて馬鹿なことを考えた。

当番の人が料理を作る。

食洗機は使ったらすぐに洗剤を補充する。

シャワーは20分以内。

そういう、ささやかなルールがあるからこそ、僕らはこの狭い空間で、なんとか平和に暮らせているんだ。

「でさ、結局、お前の推しは、その総選挙で何位だったの?

」とハルキが僕に尋ねた。

僕が「いや、俺は別に推しとかいなかったし」と答えると、ハルキは呆れた顔をして、「じゃあ、あの時の熱狂は何だったんだよ」と言った。

いや、熱狂は友達がしてたんだよ。

僕はただ、その熱気を遠巻きに眺めて、リアルな選挙との違いに密かに戦慄していただけなんだ。

そんなことを、改めて説明するのも面倒くさいので、僕は適当に「あの炒め物、ちょっと焦げちゃったな」と話を逸らした。

ハルキは「ま、でも、焦げてる方が香ばしくて美味いこともあるからな」と、妙にポジティブな感想を述べてくれた。

うん、まあ、そういうことにしておこう。

きっと、僕らの日常も、公職選挙法も、焦げ付いたり、裏返ったりしながら、それでもなんとか続いていくんだろう。

ね、みんなも、そう思うよね?


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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