📝 この記事のポイント
- カラオケで十八番を歌ったら、キーが合わなくて途中でリセットした。
- いや、正確には、十八番だと思っていた曲が、最近の練習不足と加齢による声帯の変化で、もはや僕の声帯の十八番ではなかった、という方が正しいのかもしれない。
- 画面に表示された「歌い直し」の文字をタップしながら、ああ、この「リセット」という行為は、人生の様々な場面で僕らを救い、そして惑わせるものなんだな、と漠然と思った。
カラオケで十八番を歌ったら、キーが合わなくて途中でリセットした。
いや、正確には、十八番だと思っていた曲が、最近の練習不足と加齢による声帯の変化で、もはや僕の声帯の十八番ではなかった、という方が正しいのかもしれない。
画面に表示された「歌い直し」の文字をタップしながら、ああ、この「リセット」という行為は、人生の様々な場面で僕らを救い、そして惑わせるものなんだな、と漠然と思った。
最近、とある動画配信サービスに久しぶりにログインしようとした時のことだ。
メールアドレスを入力し、パスワード欄にいつも使っている「鉄板パスワード」を打ち込んだ。
すると画面に赤文字で「パスワードが違います」と表示される。
「え、そんなはずは」ともう一度。
ダメ。
三度目の正直を信じて入力するも、やはりダメ。
イライラが募る。
こういう時、脳裏をよぎるのは決まってあの呪文だ。
「大文字、小文字、数字、記号を含む8文字以上」。
あれ、これってどこのサイトの条件だっけ?
別のサイトでは「記号は『-』と『_』のみ使用可」とか、「登録から3ヶ月経過したので変更してください」とか、はたまた「過去に使ったパスワードは使用できません」とか、もう条件がマチマチすぎて、記憶をたどるのが至難の業だ。
結局、僕は「パスワードを忘れた方」のリンクをクリックし、メール認証を経て新しいパスワードを設定する羽目になった。
その新しいパスワードも、果たしていつまで覚えていられるのか。
登録する際に表示された「大文字、小文字、数字、記号を含む10文字以上、ただし連続する同じ文字は使用不可」という条件を、今回はスクリーンショットで残しておくべきだったか?
いや、それだと今度はスクリーンショットのフォルダがパスワードの条件で溢れかえる。
「パスワード条件画像」というフォルダを作って、さらにそのフォルダにパスワードをかける未来が見える。
無限パスワードループだ。
あの時、カラオケのリセットボタンを押すみたいに、サクッと「パスワード条件表示ボタン」が欲しかった。
入力する時に、条件をその場で提示してくれたら、こんな無駄な時間は発生しないのに、と本気で思うのだ。
このパスワード問題って、僕のシェアハウスでの料理当番とちょっと似ている気がする。
僕らのシェアハウスは三人暮らしで、料理は週替わり当番制。
これがまた、パスワード設定並みに条件が多岐にわたる。
たとえば、「当番制のルール:週に三回以上は自炊すること。
ただし、二日連続でカレーは不可。
金曜日は特別な日として、各自自由に外食または惣菜購入可。
冷蔵庫の余り物を優先的に使うこと。
調味料は共有、食材は個別会計。
」みたいな。
いや、最後の「食材は個別会計」が一番ややこしいんだよ。
レシートを律儀に保管する派と、ざっくり割り勘派で、たまに揉める。
先日、僕が当番だった日のこと。
冷蔵庫には、先週の当番だったアキラが使い残した鶏もも肉が二枚と、ヨウヘイが買ったまま忘れていたニラが一束。
これに加えて、僕がスーパーで特売だった卵を10個買っていた。
さて、どうしたものか。
とりあえず鶏肉を焼いて、ニラ玉でも作るか、と考えたところで、ヨウヘイから「悪い、今日は残業で遅くなりそうだから、コンビニでなんか適当に済ませるわ」とメッセージが。
アキラからは「風邪気味だから、消化にいいものが食べたい」とリクエストが来た。
なんだ、このパスワード設定みたいな個別条件の嵐は。
結局、僕は鶏肉を甘辛く煮て、アキラにはうどんを入れて柔らかく食べられるようにした。
僕とヨウヘイの分は、ニラ玉を添えてご飯に乗せて丼に。
ヨウヘイはコンビニ飯になってしまったけれど、アキラは喜んでくれたから、まあ良しとしよう。
しかし、この献立を考える手間と時間、これは一体どこに計上されるのだろうか。
まるで、サイトごとに異なるパスワード条件を記憶しようとして、脳の容量を無駄遣いしている感覚に陥る。
僕の人生における「リセット」ボタンは、パスワードの再設定と、献立の再考に頻繁に登場する。
パスワードの場合は、何度も入力ミスを繰り返して、しまいにはアカウントがロックされたりする。
あれは本当に心臓に悪い。
まるで、焦ってガスコンロに火をつけようとして、つけっぱなしのまま別の作業をして、気づいたら部屋がガス臭くなっていた、みたいなヒヤリとする感覚に似ている。
あれも、一歩間違えば大惨事だ。
ガス会社から「ご使用は計画的に」と注意書きが来そう。
献立の場合は、途中で材料が足りなかったり、冷蔵庫の奥から賞味期限ギリギリの謎の食材が出てきたりして、当初の計画が白紙に戻る。
先日も、トマト缶を使ってラタトゥイユを作ろうとしたら、肝心のトマト缶が、シンク下の棚にしまい込んだまま、なぜか賞味期限が半年も前に切れていた。
ああ、このトマト缶も、もはや僕の冷蔵庫における「鉄板パスワード」ならぬ「鉄板食材」ではなかった、というわけだ。
リセットボタンを押すように、僕は仕方なくレトルトのミートソースを温めてパスタにかけた。
あの時、もしトマト缶の賞味期限が入力するタイミングで提示されていたら、僕はもっと早くに諦めていたかもしれない。
そして、もっと美味しくて、僕の声帯にも合った料理を作れたかもしれない。
僕らは日々、様々な「条件」の中で生きている。
朝の電車では「黄色い線の内側にお下がりください」、スーパーでは「レジ袋は有料です」、そしてシェアハウスでは「使用済みの食器はすぐに洗うこと」。
どれもこれも、僕らの生活を円滑に進めるためのルールなのだろう。
パスワードの条件も、セキュリティのためだと頭では理解している。
でも、もう少しだけ、もう少しだけ入力する側の気持ちに寄り添って、その場で条件を提示してくれるような、そんな優しいシステムになってくれないかな、と切に願う。
そうすれば、僕はもう「パスワードを忘れた方」のリンクをクリックして、頭を抱えることもなくなるだろう。
そして、シェアハウスの当番の時も、冷蔵庫を開けた瞬間に「今日の献立はコレで決まり!
」と、まるでパスワードの条件が自動表示されるかのように、最適な料理がひらめくようになるかもしれない。
もちろん、その料理が僕の十八番になるかどうかは、また別の話なんだけど。
まあ、それも人生のリセットボタンを押しながら、ゆっくり見つけていくのが楽しいのかもしれないね。
みんなも、似たような経験、あるよね?
💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。
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