賞味期限切れの食材と、愛すべき趣味のノイズの話

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📝 この記事のポイント

  • 朝、出勤前に冷蔵庫を開けたら、賞味期限切れの食材が4つも並んでいた。
  • 昨夜、仕事帰りにスーパーで特売の豚バラブロックを見つけてしまい、「これはもう角煮にするしかないだろう」と意気揚々とカゴに入れたまでは良かったのだが、その勢いで買った卵や長ネギ、大根が、その前の週に買ったものと完全に混在していたらしい。
  • 冷蔵庫の奥から出てきた半端な野菜たちと、昨日買ったばかりの新鮮な食材が、まるで違う派閥のようにひしめき合っている。

朝、出勤前に冷蔵庫を開けたら、賞味期限切れの食材が4つも並んでいた。

ああ、やってしまった。

昨夜、仕事帰りにスーパーで特売の豚バラブロックを見つけてしまい、「これはもう角煮にするしかないだろう」と意気揚々とカゴに入れたまでは良かったのだが、その勢いで買った卵や長ネギ、大根が、その前の週に買ったものと完全に混在していたらしい。

冷蔵庫の奥から出てきた半端な野菜たちと、昨日買ったばかりの新鮮な食材が、まるで違う派閥のようにひしめき合っている。

結局、使い切る前に「お疲れ様でした」と言わざるを得ない状況に、ため息が漏れた。

僕の日常は、そんな風に「悪気はないんだけど、結果的にダメ人間」というパターンが頻繁に顔を出す。

マンションに一人暮らしを始めてかれこれ15年。

40代独身男性として、そこそこ「ちゃんと」生きているつもりではあるものの、どこかネジが緩んでいる。

特に、料理にハマり始めてからは、この「ダメ人間」っぷりが加速した気がする。

一時期、カレー作りに凝った時には、スパイスを買い込みすぎて棚が溢れかえり、結局、使わないまま湿気てしまったターメリックパウダーが棚の奥で化石化していた。

あれは、ある種の遺跡発掘作業だった。

そんな僕のルーティンは、会社員としての「まっとうな」平日と、趣味に没頭する「自由すぎる」週末に二分される。

平日は、朝7時に起きて、コーヒーを淹れ、簡単な朝食を済ませて会社へ向かう。

夜は、買った惣菜を温めるか、疲れていなければ簡単な自炊。

豚肉とキャベツを炒めるだけとか、そんな程度だ。

週末になると、途端に生活のギアが「趣味」モードに切り替わる。

最近は、もっぱら料理と、昔から続けている某ロボットアニメのプラモデル製作に時間を費やしている。

ある休日のことだった。

僕は、かねてよりTwitterで知り合ったプラモデル仲間とのオフ会を控えていた。

今回は、みんなで持ち寄ったキットを組み立てる「もくもく会」という名の、ただひたすら自分の好きなものを作るという最高に平和な企画。

僕は、その日のために、新しく発売された限定カラーのモビルスーツキットを数日前に手に入れていた。

「この日のために仕事を頑張ったんだ」と自分を鼓舞しながら、冷蔵庫の奥で眠る賞味期限切れのプリンを横目に、僕は期待に胸を膨らませていた。

しかし、その日は朝から雲行きが怪しかった。

まず、目覚まし時計をセットし忘れて、起きたら集合時間の1時間前。

慌てて飛び起き、顔を洗って着替える。

朝食は抜きだ。

前日に「みんなで食べるおやつ」として焼いていこうと決めていた、僕の十八番であるレモンケーキの材料が、冷蔵庫の中で僕の焦りを嘲笑うかのように佇んでいた。

当然、焼く時間などない。

約束は破らない主義なのに、この日の僕は、早くも自分との約束を破ってしまった。

集合場所に向かう電車の中では、さらに戸惑う出来事があった。

グループチャットに、メンバーの一人から「今回、ちょっと個人的に気分が乗らないので参加を見送らせてもらいます」とメッセージが来ていたのだ。

理由は不明。

前日まで「楽しみですね!

」と盛り上がっていたのに、一体何があったのだろう。

他のメンバーも「え、どうしたんだろう?

」という雰囲気で、少しばかり場の空気が重くなった。

オフ会自体は、残りのメンバーでそれなりに楽しく進んだ。

それぞれのキットを持ち寄り、黙々と作業を進める。

パーツを切り出し、ヤスリをかけ、接着剤で固定していく。

集中する時間というのは、本当にあっという間だ。

僕は、限定カラーのモビルスーツのパーツを丁寧に取り扱いながら、ふと、この趣味を始めた頃のことを思い出していた。

まだインターネットが普及し始めたばかりの頃、僕は誰にも言わず、こっそりと自宅の部屋でプラモデルを作っていた。

友人に「何やってんの?

」と聞かれても、「ああ、ちょっとね」とごまかしていたものだ。

それが、いつの間にか「趣味」として市民権を得て、今やこうして見ず知らずの人たちと一緒に楽しめるようになった。

時代は変わるものだ。

しかし、その「市民権」を得たことで、思わぬノイズも増えた気がする。

例えば、SNSなんかを見ていると、「このキットはここがダメ」「このメーカーはクオリティが低い」とか、やたらと批判的な意見が目につくことがある。

もちろん、製品への要望や意見は大切だし、建設的な議論は歓迎だ。

でも、中にはただ「叩きたいだけ」としか思えないような、悪意めいた言葉も散見される。

また、コミュニティ内での「啀み合い」というのも、たまに耳にする。

僕が以前参加していた別のオフ会では、参加者の一人が「このキットの塗装は、この色じゃないとダメだ!

」と、他の人の作品にまで口出しをして、ちょっとした騒ぎになったことがあった。

その人は、その分野では「権威」とされている人だったらしく、誰も強く反論できずに、結局、その場の空気は凍り付いてしまった。

僕はただ「みんなで楽しく作れればいいのに」と、心の中で呟くしかなかった。

今回のオフ会での欠席者も、もしかしたら、そういったコミュニティ内の摩擦に疲れてしまったのかもしれない。

純粋に「好き」という気持ちだけで始めたはずの趣味が、いつの間にか、他人の評価や、見えないルールに縛られてしまう。

僕だって、せっかくの休日に、わざわざ時間を割いてまで、そんなストレスを感じたくはない。

そんな風に、プラモデルを組み立てながら、僕は自分の心の中を整理していた。

集中して作業していると、頭の中も整理されるのが不思議だ。

限定カラーのモビルスーツの頭部が完成した時、僕はなんだか清々しい気持ちになっていた。

それから僕は、「気にしない」ということを意識的に自分の新しいルーティンに組み込むことにした。いや、正確には「気にしないフリをする」に近いかもしれない。完全な無関心は難しい。人間だもの。

まず、SNSでの情報収集は、タイムラインをスクロールする頻度を減らした。

代わりに、特定のメーカーの公式アカウントや、信頼できるモデラーさんのアカウントだけをフォローするようにした。

そうすることで、ネガティブな情報が目に入る機会が格段に減った。

これは快適だ。

そして、コミュニティ内の「啀み合い」に関しては、必要以上に深入りしないように心がけた。

もちろん、友人が困っていたり、助けを求めている時には手を差し伸べるけれど、そうでない「どうでもいい争い」には、積極的に関わらない。

意見の相違はあって当然だし、それぞれの「好き」の形があるのだから、それを否定する権利は誰にもない。

みんな違って、みんな良い。

そう達観したフリをしてみた。

この「気にしないフリ」が、僕の日常に新たな平和をもたらしてくれた。

冷蔵庫の賞味期限切れ食材問題は、相変わらず解決していないけれど、少しばかり許せるようになった。

豚バラブロックを使いきれずに廃棄してしまった時も、「まあ、これも人生の学びだよね」と、自分を許すようになった。

その分、次に買う時は「本当に使い切れるか」を真剣に考えるようになったから、これはこれで成長と言えるだろう。

そして、料理もまた、僕の「気にしない」練習の場となった。

レシピ通りに作れなくても、焦げ付かせても、味が薄くても濃くても、それはそれで僕の料理だ。

完璧を目指すのではなく、ただ「美味しく食べられればいい」というシンプルな目標に立ち返った。

失敗作は、それはそれでネタになる。

先日、初めて挑戦したローストビーフが、まるで生焼けの赤い塊になってしまった時も、「これはこれでアートだな」と自虐的に笑いながら、結局、その夜はインスタントラーメンで済ませた。

これもまた、僕らしい「ダメ人間」エピソードの一つだ。

そういえば、あのオフ会を欠席したメンバーから、数日後に個人的なメッセージが届いた。

「実は、前に参加した別のイベントで、ちょっと嫌なことがあって、しばらく誰とも会いたくなかったんです」とのこと。

僕は「そうだったんだね。

また気が向いたら、いつでも連絡して」とだけ返した。

無理に理由を聞き出そうともしなかったし、慰めの言葉を並べることもなかった。

ただ、彼の「好き」という気持ちが、またいつか素直に楽しめる日が来ればいいなと、静かに願っただけだ。

僕の好きなロボットアニメの主人公は、いつも周囲のノイズに惑わされず、ただ自分の信じる道を突き進んでいた。

そんな彼に、少しだけ近づけたような気がする。

もちろん、僕の道は、冷蔵庫の賞味期限切れ食材という小さな障害物でつまずきがちだけれど、それでも、ただ「好き」という気持ちを大切に、これからも歩んでいきたい。

新しいルーティンは、僕に穏やかな気持ちをもたらした。

朝、冷蔵庫を開ける。

またしても、奥から賞味期限切れのヨーグルトが顔を出す。

僕は、それを見てクスッと笑い、今日の朝食は、昨日スーパーで買ったばかりの、新鮮な食パンと目玉焼きにしようと決めた。

そして、ヨーグルトには、静かに「お疲れ様でした」と心の中で語りかける。

これもまた、僕の日常だ。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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