諏訪湖のセーブポイントと、私の迷走ゲーム遍歴

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📝 この記事のポイント

  • 公園のベンチで休憩していたら、鳩に囲まれてパニックになった。
  • カバンから取り出したサンドイッチの袋がカサカサと鳴った瞬間、どこからともなく集まってきた彼らの視線が私に突き刺さる。
  • 一人暮らしを始めてからというもの、こういう小さな事件にいちいち動揺するようになった気がする。

公園のベンチで休憩していたら、鳩に囲まれてパニックになった。

カバンから取り出したサンドイッチの袋がカサカサと鳴った瞬間、どこからともなく集まってきた彼らの視線が私に突き刺さる。

気がつけば、私の足元には十数羽の鳩。

ちょっとしたホラー映画かと思った。

一人暮らしを始めてからというもの、こういう小さな事件にいちいち動揺するようになった気がする。

実家にいた頃は、母が全部解決してくれていたんだな、と今更ながら思う。

鳩を追い払おうと立ち上がると、ベンチの横に落ちていた何かを踏みそうになった。

よく見たら、誰かの落とし物。

どうせなら、私が落とした800円くらいのキーホルダーが返ってきてほしい。

あのキーホルダー、お気に入りのゲームのキャラクターだったのに、いつの間にかどこかへ消えてしまった。

新社会人になって、初めての一人暮らしが始まったわけだけど、まあ、はっきり言って楽しいことばかりじゃない。

というか、むしろ大変なことの方が多い。

電気代の請求書に毎月驚愕したり、スーパーで「もやし」と「豆腐」のどちらを選ぶか5分悩んだり、洗濯機から変な音がして修理を呼ぶべきか真剣に考えたり。

実家では「ご飯できたよー」の一言で食卓についていたのに、今は全部自分でどうにかしないといけない。

そんな中で、唯一の心の拠り所というか、現実逃避の手段が、ゲームだったりする。

昔からずっとゲームは好きで、RPGからパズルまで、ひと通り遊んできた。

特にRPGは、現実の理不尽さを忘れさせてくれる最高の娯楽だ。

剣と魔法の世界では、だいたい努力が報われるし、仲間と力を合わせればどんな強敵も倒せる。

現実世界では、会社の先輩の理不尽な指示に「はい、承知いたしました」と返すのが精一杯だけど。

最近は、ちょっとした旅に出るのが密かなブームだ。

もちろん、遠くまで行くような大それた旅行じゃない。

日帰りとか、せいぜい一泊二日とか。

先日、思い立って長野の諏訪湖へ行ってきた。

冬の諏訪湖は、空気が澄んでいて、湖面がキラキラしている。

なんというか、都会の喧騒から離れて、心が洗われるような気がした。

湖畔を散歩していると、ふと目に飛び込んできた光景に、私は思わず立ち止まってしまった。

湖の一部が、凍りついている。

それも、ただ凍っているだけじゃない。

湖面から盛り上がるように、氷の筋が何本も走っているのだ。

これが、いわゆる「御神渡り」というやつなのか。

完全に形成されるのはもっと先らしいけど、その初期段階のようなものが、まるで地面から顔を出したばかりの龍の背骨のように見えた。

その光景を見た瞬間、私の頭の中に鳴り響いたのは、ゲームの効果音だった。

「ピロリロリーン!

」という、あのセーブポイントに到達した時の音。

そう、まさにそこはセーブポイントだ。

現実世界に、セーブポイントが出現したのだ。

私はその場に立ち尽くし、しばらくその氷の筋を眺めていた。

ここに来れば、これまでの苦労がチャラになって、また新しいところからやり直せる気がする。

会社での失敗も、一人暮らしの寂しさも、全部一旦リセットできるような、そんな錯覚に陥った。

まさか、御神渡りを見て「セーブポイントだ!

」と叫ぶ人間がこの世にいるとは、他の観光客も思わなかっただろう。

彼らはきっと、神秘的な自然の造形美に感動しているのだろうに、私は一人、ゲーム脳全開で興奮していた。

「あ、もしかして、そこの氷のところ、歩けるんですか?

」と、近くにいたおじさんに話しかけてしまった。

おじさんは、私のことを変な目で見て、「いやいや、危ないですよ。

まだ完全に凍ってないですから」と苦笑いしていた。

そうだよね、ゲームじゃないんだから。

いくらセーブポイントに見えても、その上を歩いたら普通に湖に落ちる。

恥ずかしい。

「すみません、つい…」と、赤面してその場を離れた。

旅先でこんな間抜けなことをしでかすなんて、これも一人暮らしの洗礼なのだろうか。

誰にも言わずにこのまま墓場まで持っていこうと思ったけれど、数日後、実家に電話した時に、ついうっかり母に話してしまった。

「諏訪湖にセーブポイントができてたんだよ!

」と。

母は呆れ顔で、「あんた、ちゃんと仕事してるの?

」と一言。

はい、ちゃんとやってます。

たぶん。

思えば、私のゲーム遍歴も結構な迷走ぶりだ。

小学生の頃は、RPGにどっぷりハマって、夏休みは毎日コントローラーを握りしめていた。

ラスボスを倒した時の達成感は、もう最高だった。

中学生になると、友達の影響で対戦型のゲームに熱中した。

オンラインで全国のプレイヤーと戦ったりして、寝不足になったりもした。

高校生になってからは、ちょっと飽きて、あまりゲームをやらなくなった時期もある。

代わりに、漫画を読み漁ったり、ライブに行ったり。

でも、大学生になって、また急にゲーム熱が再燃した。

特に、広大な世界を自由に探索できるオープンワールド系のゲームにハマって、気づけば一日中画面とにらめっこ、なんてこともざらだった。

社会人になって、自由な時間もお金も減ったから、もうゲームは卒業かな、なんて思っていた時期もあった。

でも、結局、仕事で疲れて帰ってきた夜に、コントローラーを握ってしまう。

たぶん、これはもう私の性分なんだろう。

現実のストレスから逃れるための、唯一無二の手段。

ゲームの世界では、どんなに困難なミッションでも、時間をかければクリアできる。

レベルを上げれば、強くなれる。

現実世界では、スキルアップ研修を受けたところで、すぐに会社の部長になれるわけじゃない。

そういう意味では、ゲームは私にとって、常に「努力が報われる」という希望を与えてくれる場所なのかもしれない。

諏訪湖のセーブポイント。

あれは、私にとっての「一時停止」の合図だったのかもしれない。

少し立ち止まって、これまでの自分の道のりを確認して、また新しい気持ちで再スタートを切る。

別に、人生を巻き戻せるわけじゃないし、ゲームみたいにセーブデータをロードしてやり直せるわけでもない。

だけど、あの神秘的な氷の光景を見て、私は少しだけ、一人暮らしの不安や、仕事のプレッシャーから解放された気がした。

またいつか、諏訪湖に行ってみようと思う。

今度は、完全に「御神渡り」ができた頃に。

その時はきっと、本当に壮大なセーブポイントができていることだろう。

そして、もしまた誰かに「セーブポイントですね!

」と話しかけてしまったら、その時はもう開き直って、ゲームの話でもしてやろう。

きっと、相手も内心「こいつ、何言ってんだ?

」と思いつつも、少しは付き合ってくれるに違いない。

人間って、案外そういうものだったりする。

また新しい冒険が始まる。

私の一人暮らしという名の、壮大なRPGが。

次はどんなイベントが待っているんだろう。

とりあえず、明日の朝ごはんは、もやしと豆腐、両方買ってみようかな。

奮発して。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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