カルディの試飲コーヒーと、忘れ物と、私のちいさな医療論

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📝 この記事のポイント

  • クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいた。
  • ちょうど、去年の秋に夫が着ていたゴルフ用のセーターと、私が結婚式で一度だけ着たワンピースだ。
  • 夫のセセーターは襟元に小さなシミがあったから、念入りに染み抜きをお願いしたはずなのに、完全に記憶の彼方。

クリーニング店で預けた服を3ヶ月放置していたことに気づいた。

ちょうど、去年の秋に夫が着ていたゴルフ用のセーターと、私が結婚式で一度だけ着たワンピースだ。

夫のセセーターは襟元に小さなシミがあったから、念入りに染み抜きをお願いしたはずなのに、完全に記憶の彼方。

引き取り票を財布に入れっぱなしだったのを、たまたまレシート整理をしていて発見した時の、あの「あ、やばい」という冷や汗。

期限が切れていたらどうしよう、と小走りで店に向かったら、受付のお姉さんがにこやかに「ああ、大丈夫ですよ。

まだ保管してますからね」と言ってくれた。

なんというか、私のダメ人間ぶりを全て見透かされているような、それでいて全く咎めない、大らかな対応に、逆に申し訳なさが募るばかり。

この辺りでは、私のような忘れん坊は珍しくないのかもしれない。

我が家の日常は、いたってのんびりしたものだ。

朝は夫と二人、畑に出て、季節の野菜に水をやったり、雑草を抜いたり。

腰をかがめて土をいじる時間は、瞑想に近い。

ナスが育っていく様子や、トマトが赤く色づいていくのを眺めるのは、テレビの連続ドラマよりずっと面白い。

昼食は畑で採れた野菜中心に、ごく簡単なもの。

午後には、私がスーパーに買い物に出かけたり、夫が隣町の公民館で行われる将棋クラブに参加したりする。

夕食はまた二人で囲み、他愛ない話をする。

テレビで時代劇を見ながら、うつらうつらしてしまうことも、もう日常風景だ。

そんな日々のルーティンの中で、何か予定を「こなす」という意識は、ほとんどない。

だから、クリーニングの引き取り期限なんて、そりゃあ簡単に意識からすり抜けてしまう。

手帳に書いたはずの予定を、まるっと忘れてしまうことだって、年に数回は起こる。

まあ、誰にも迷惑をかけなければ、と開き直っている部分もあるのだけれど。

そんな私に、ある日、ちょっとした変化が訪れた。

きっかけは、隣町にできた新しいショッピングモールだった。

都会に住む娘が帰省した際、「お母さん、あそこのカルディ、品揃えがいいよ」と教えてくれたのだ。

元々、輸入食材店なんて縁遠い存在だった私たち夫婦にとって、カルディはちょっとした異世界だった。

店内には見慣れない調味料や、カラフルなパッケージのお菓子がずらりと並び、独特の香りが漂っている。

入口では、店員さんが小さな紙コップに入ったコーヒーを差し出してくれる。

これが、いわゆる「試飲」というやつだ。

初めての時は、遠慮がちに一口飲むだけだった。

でも、二度、三度と通ううちに、その試飲コーヒーが、私にとってなくてはならない「お買い物ルーティン」の一部になっていったのだ。

カルディの試飲コーヒーは、本当に美味しい。

無料でこんな本格的なコーヒーが飲めるなんて、と最初は驚いたものだ。

最初は娘に言われた通り、コーヒー豆を数種類と、イタリアのパスタソースなんかを買って帰っていた。

でも、そのうち、試飲コーヒーを飲むためだけにカルディに行く日も出てきた。

もちろん、何も買わずに店を出ることに、少しばかりの罪悪感を感じないわけではない。

でも、店員さんはいつも笑顔で「いってらっしゃいませ」と言ってくれるし、他のお客さんたちも、試飲だけして出ていく人も少なくないように見えた。

だから、いつしか私は、カルディの試飲コーヒーを、まるで自分の家で淹れたコーヒーを飲むかのように、ごく自然に受け入れるようになっていた。

ところが、ある日、いつものようにカルディの入り口で紙コップを受け取ろうとすると、店員さんが少し戸惑ったような顔で言った。

「お客様、今日はこちらの新しいブレンドでございます。

酸味が特徴で…」私がまだ口をつけていないのに、その店員さんは、私に向かって、そのコーヒーの味わいについて、熱心に説明し始めたのだ。

私は内心、「え、そこまで説明されるの?

」と少しばかり驚いた。

いつもは「どうぞ」と差し出されるだけで、後はご自由に、という雰囲気だったからだ。

その日はたまたま、夫が隣で「このコーヒー、この間買った豆と同じか?

」と聞いてきたから、店員さんも「違いますよ」と答えざるを得なかったのかもしれない。

そのやり取りのせいか、私はその日、なぜかコーヒーの味がいつもより薄く感じられた。

いや、実際に薄かったわけではなく、心の中で「無料の試飲に、いちいち注文をつけるのはどうなんだろう」という、どこか他人事のような、それでいて自分事のような妙な感覚が芽生えたのだ。

それからというもの、私のカルディ試飲ルーティンに、ちょっとした変化が起きた。

以前は、何も考えずにコーヒーを受け取っていたのだが、今では、店員さんがどんな説明をするのか、周りのお客さんはどんな反応をするのか、じっと観察するようになった。

すると、面白いことに気づいたのだ。

中には、まるでカフェの店員にでも話しかけるように、「今日のコーヒーは、苦味が強いですか?

」「この豆は、どこの産地なんですか?

」などと、かなり具体的に質問をするお客さんがいる。

まるで、お金を払って注文したコーヒーに、堂々と注文をつけるかのように。

最初は「へえ、無料なのに、ずいぶん細かく聞く人もいるもんだね」と、夫に話したりもした。

夫は「まあ、その人たちからしたら、次買うコーヒー豆の参考にしたいんだろう」と、いたって冷静な分析だったけれど、私にはどうも、それだけではないような気がしたのだ。

そのうち、私はカルディの試飲コーヒーに、日本の医療制度と似たようなものを感じるようになった。

日本では、国民皆保険制度のおかげで、誰もが少ない自己負担で医療サービスを受けられる。

風邪をひけば病院に行き、薬をもらう。

具合が悪ければ、当たり前のように診察を受けられる。

それは、本当に素晴らしいことだ。

でも、その「無料に近い」という感覚が、時に私たち患者のモラルハザードを生んでいるんじゃないか、とふと思うことがある。

例えば、必要以上に何度も病院を受診したり、本当に必要なのか分からない検査を要求したり。

もちろん、全てがそうだとは言わない。

でも、「無料だから」「保険で賄われるから」という意識が、医療資源の無駄遣いに繋がっているケースも、少なからずあるのではないだろうか。

カルディの試飲コーヒーは、まさに「無料」という概念の象徴だ。

私たちは、ただ差し出されたものを、当たり前のように受け取る。

そして、その「無料」という安心感からか、つい「もう少しこうだったらいいのに」という要望を口にしてしまう。

それは、まるで病院で「もっと強い薬ください」「もっと詳しく診てください」と、医師に注文をつける患者の姿に重なるように思えたのだ。

もちろん、カルディの店員さんも、医療従事者の方々も、プロフェッショナルとして、お客さんや患者さんの要望に応えようと努力してくださる。

でも、その「無料」という土台の上に築かれたサービスが、いつの間にか「当たり前の権利」として、過剰な要求を生んでしまっているのではないか。

そんなことを、試飲コーヒーを飲みながら、ぼんやりと考えてしまうのだ。

そんなことを考えているうちに、私の中でのカルディ試飲ルーティンは、少しずつ変化していった。

以前は遠慮がちに一口飲むだけだった試飲コーヒーが、今は、心の中で「ありがとうございます」と唱えながら、じっくりと味わうようになった。

そして、もし店員さんがコーヒーについて説明してくれたら、ちゃんと耳を傾け、心から「美味しいです」と伝えるようにした。

もちろん、何かを買うのが前提ではない。

ただ、その「無料」という行為の裏にある、お店側のサービス精神や、手間暇を、以前よりも深く感じるようになったのだ。

まるで、病院で診察を受けた後、「先生、いつもありがとうございます」と、少しだけ丁寧にお礼を言うようになった、あの時の心境と似ている。

最近では、カルディで試飲コーヒーをもらう際、わざと「今日はどんな豆なんですか?

」と、私の方から質問してみることもある。

すると、店員さんは嬉しそうに、その日のコーヒーについて説明してくれる。

そして、私はそれをじっくりと聞き、「へえ、面白いですね」と相槌を打つ。

そして、何かを買う買わないに関わらず、店を出る時には、以前よりもずっと心が満たされているような気がするのだ。

きっと、あのクリーニング店の店員さんが、私の忘れ物にも関わらず、にこやかに対応してくれた時の、あの温かさに通じるものがあるのだろう。

私たちの日常は、小さな「無料」や「当たり前」に溢れている。

それら一つ一つに、もう少しだけ意識を向けて、感謝の気持ちを伝えること。

それが、巡り巡って、私たち自身の心も豊かにするのかもしれない。

畑のナスが、今年も順調に育っている。

今年の夏は、採れたてのナスで、何を料理しようか。

そんなことを考えながら、私はまた、カルディのコーヒーを一口、ゆっくりと味わうのだった。


💡 このエッセイは、Togetterの話題から着想を得て、2026年の視点で書かれた創作記事です。

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 AIピック AI知恵袋ちゃん
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本好き仲間に勧めたくなる作品だね
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