📝 この記事のポイント
- 満員電車の窓ガラスに張り付いた水滴が、ぼやけた東京の景色をさらに歪めている。
- スマホを握る手にじんわりと汗が滲み、イヤホンからは聞き飽きたはずのシティポップが、まるで他人事のように耳を掠めていく。
- 今日の私は、プレゼン資料の最終チェックという名の現実逃避に必死だった。
2026年1月28日。満員電車の窓ガラスに張り付いた水滴が、ぼやけた東京の景色をさらに歪めている。スマホを握る手にじんわりと汗が滲み、イヤホンからは聞き飽きたはずのシティポップが、まるで他人事のように耳を掠めていく。今日の私は、プレゼン資料の最終チェックという名の現実逃避に必死だった。
(ため息)…また、修正指示か。
「ああ、もう、マジで勘弁してくれ…」
心の中で毒づきながら、私はスワイプする指を止めた。目の前の広告バナーに、見覚えのある顔が飛び込んできたのだ。広末涼子。2001年公開の映画『WASABI』の告知だった。
正直、映画の内容はほとんど覚えていない。というか、当時小学生だった私は、ストーリーよりも、広末涼子の髪色とファッションに釘付けだった。エメラルドグリーンの髪に、原色カラーのミニスカート。日本のドラマやCMでは見たことのない、異質な、でもどこか眩しい彼女の姿。
電車の揺れに合わせて、過去の記憶が蘇ってくる。夏休みに親戚の家で見た『WASABI』のDVD。画面に映るパリの街並みと、エキセントリックな広末涼子の姿。幼い私は、異文化への憧憬と、大人になることへの期待を同時に抱いていた。あの頃の私は、未来が無限に広がっていると信じて疑わなかった。
カフェに入り、ようやく一息つく。カプチーノを飲みながら、私は改めて『WASABI』の広告を眺めた。今、改めて見ると、映画のスタイリングはかなり奇抜だ。当時の日本で、あのような広末涼子を見ることはなかっただろう。まさに“ビジュアルアーカイブ”という言葉がぴったりだ。
「一体、あの映画は何だったんだろう…」
隣の席では、若いカップルが楽しそうに会話している。彼らの笑い声が、私の思考を中断させた。ふと、自分の置かれている状況が、あの頃想像していた未来とは全く違うことに気づく。毎日のように繰り返されるルーティンワーク。終わりが見えないプロジェクト。上司からの容赦ないプレッシャー。
あの頃の私は、もっと自由で、もっと創造的な人間になっていると思っていた。少なくとも、こんなにも疲弊した顔で、満員電車に揺られているとは思わなかった。
「夢って、どこに行ったんだろう…」
プレゼン資料を開きながら、私は過去の自分に問いかけた。幼い頃に抱いていた夢は、いつの間にか現実の壁にぶつかり、形を変え、そして消え去ってしまったのだろうか。
その夜、私は久しぶりに『WASABI』をレンタルして見た。ストーリーは案の定、突っ込みどころ満載だった。しかし、画面に映る広末涼子の姿は、やはり輝いていた。まるで、あの頃の私がそこにいるかのようだった。
映画を見終わった後、私はノートを開いた。そして、今の自分にできることを書き出した。小さなことでもいい。例えば、毎朝30分早く起きて、好きな本を読むとか。週末は、都心から少し離れた場所に旅行に行ってみるとか。
「別に、広末涼子みたいにならなくてもいいんだ」
私は、そう呟いた。あの頃の私が憧れたのは、広末涼子の外見ではなく、彼女が纏っていた自由な空気感だったのだ。今の私には、今の私なりの自由な生き方がある。
翌朝、私は少しだけ早く家を出て、近所の公園を散歩した。澄んだ空気と、鳥のさえずりが、疲れた心を癒してくれる。太陽の光を浴びながら、私は深呼吸をした。
「意外と、悪くないかも…」
オフィスに着くと、いつものように上司からの修正指示が飛んできた。しかし、今日の私は、昨日までの私とは違っていた。冷静に指示を聞き、的確に修正していく。
「なんだか、別人みたいだな」
同僚が、驚いた顔で私を見た。
「ちょっと、気分転換しただけだよ」
私は、そう言って微笑んだ。
その日の帰り道、私は『WASABI』のサウンドトラックをダウンロードした。イヤホンから流れてくる軽快な音楽が、私の背中を押してくれる。
2026年1月28日。あの映画を見た日から、私の人生は少しだけ変わった。
「WASABI色の夏」は、私にとって、過去へのノスタルジーではなく、未来への希望を象徴する色になったのだ。そして、いつか、過去の自分に誇れるような、そんな大人になりたいと、私は強く思った。
数日後、SNSを開くと、タイムラインには「#広末涼子」「#WASABI」「#2000年代」といったハッシュタグが溢れていた。かつて一世を風靡した女優のスキャンダルが、再び注目を集めているのだ。
私は、少し複雑な気持ちになった。あの頃の輝きは、一体どこに行ってしまったのだろうか。
しかし、すぐに考えを改めた。人は誰でも、過ちを犯す。大切なのは、そこから何を学び、どう生きていくかだ。
広末涼子も、きっとそうだ。彼女は、過去の過ちを乗り越え、新たな道を歩んでいくはずだ。
私は、彼女の未来を応援したい。
そして、私もまた、自分の未来を信じて、歩み続けたい。
満員電車の窓ガラスに、再び水滴が張り付いた。しかし、今日の私は、もう迷っていない。
なぜなら、私の心の中には、いつでも「WASABI色の夏」が輝いているからだ。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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