📝 この記事のポイント
- 2026年1月26日、いつものように満員電車に揺られていた。
- スマホを弄る指先だけが、かろうじて生きている証拠のように動いている。
- 向かいに立つOLらしき女性が、イヤホンから漏れる音量を気にすることもなく、激しめのロックをシャウトしていた。
2026年1月26日、いつものように満員電車に揺られていた。人々は皆、一様に疲れた顔をしている。スマホを弄る指先だけが、かろうじて生きている証拠のように動いている。私もその一人だった。
向かいに立つOLらしき女性が、イヤホンから漏れる音量を気にすることもなく、激しめのロックをシャウトしていた。彼女の顔には、現実から逃避したいという切実な願いが滲み出ている。私もよくやる。通勤ラッシュという名の地獄絵図を、音楽の力で何とかやり過ごそうとするのだ。
ふと、数日前にSNSで見かけた投稿が頭をよぎった。「歌詞に重点置いて音楽聴いているやつ人生苦労してそう」という、なんとも挑発的な言葉。それに対する賛否両論のコメントが、まるで終わりのない議論のように続いていた。
私はどちらだろうか? 歌詞を重視するタイプか、それともメロディを重視するタイプか。
カフェでパソコンを開き、その日のタスクを確認しながら、ぼんやりと考える。隣の席では、若いカップルが幸せそうにカフェラテを分け合っている。その様子を横目で見ながら、私は最近の自分の音楽の聴き方を振り返ってみた。
正直に言うと、最近は歌詞よりもメロディに惹かれることが多い。昔は歌詞カードを隅々まで読み込み、その言葉に込められた意味を深く理解しようとしていた。失恋した時は失恋ソングを聴き、希望に満ち溢れた時は応援ソングを聴いた。歌詞は、まるで自分の心の代弁者のようだった。
しかし、最近は違う。歌詞の意味を深く考えるよりも、ただ心地よいメロディに身を委ねたいと思うことが多い。仕事で疲れた心を癒してくれるのは、複雑な歌詞よりも、シンプルで耳に残るメロディだったりする。
「人生苦労してそう」という言葉に、少し引っかかるものを感じた。確かに、過去の私は苦労していた。将来への不安、人間関係の悩み、仕事のプレッシャー。それらの苦しみを、音楽の歌詞に救われていた。共感できる言葉、勇気づけられる言葉、慰めてくれる言葉。歌詞は、私にとっての心の拠り所だった。
でも、今はどうだろうか? 今の私は、必ずしも苦労しているわけではない。もちろん、悩みや不安がないわけではないけれど、以前ほど深刻ではない。もしかしたら、大人になったのかもしれない。苦しみを乗り越える術を、少しずつ身につけてきたのかもしれない。
歌詞を重視する時は、自分の感情と向き合いたい時だ。喜び、悲しみ、怒り、寂しさ。それらの感情を、歌詞を通して再確認し、消化しようとする。歌詞は、まるで鏡のように、自分の心を映し出す。
メロディを重視する時は、現実から逃避したい時だ。仕事の疲れ、人間関係のストレス、社会のプレッシャー。それらの重荷から、一時的に解放されたいと思う。メロディは、まるで麻薬のように、私を夢の世界へと連れて行ってくれる。
オフィスに戻り、山積みの書類に目を通しながら、再びあのSNSの投稿を思い出す。コメント欄には、様々な意見が飛び交っていた。
「苦労しているからこそ歌詞に救われている」
「メロディが好みじゃないと聴いてられない」
「歌詞の意味なんてどうでもいい。ノリが良ければそれでいい」
「音楽は人それぞれ。何を重視するかは自由だ」
どれも正論だ。音楽の聴き方に正解なんてない。ただ、その時の気分や状況によって、求めるものが違うだけだ。
夕食後、近所の公園を散歩した。夜空には、満月が輝いている。イヤホンからは、最近ハマっているインストゥルメンタルの楽曲が流れてくる。歌詞がない分、自分の想像力が掻き立てられる。
楽器の音色が、まるで言葉のように語りかけてくる。喜び、悲しみ、希望、絶望。様々な感情が、音を通して伝わってくる。歌詞がなくても、音楽は十分に心を揺さぶることができる。
ふと、足元に咲いている小さな花に目が留まった。寒空の下、健気に咲いている姿に、勇気づけられる。花は、何も語らない。ただ、そこに咲いているだけだ。それでも、私たちに何かを伝えてくれる。
音楽も同じだ。歌詞があろうがなかろうが、メロディが心地よかろうがなかろうが、私たちに何かを伝えてくれる。それは、希望かもしれないし、絶望かもしれない。喜びかもしれないし、悲しみかもしれない。
大切なのは、音楽を通して何を感じるかだ。そして、その感情を大切にすることだ。
2026年1月26日。私は、イヤホン越しの世界を通して、自分自身と向き合った。そして、少しだけ大人になった気がした。
翌日、会社に向かう電車の中で、またあのOLらしき女性を見かけた。彼女は、昨日と同じように激しめのロックをシャウトしていた。しかし、今日の彼女の顔には、昨日とは違うものが感じられた。
それは、ほんの少しの希望だった。
私は、自分のスマホを取り出し、プレイリストを開いた。そして、最近聴いていなかった、歌詞が心に響く曲を選んだ。
その瞬間、イヤホン越しの世界の解像度が、少しだけ上がった気がした。
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※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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