📝 この記事のポイント
- 押しつぶされそうな乗客たちの表情は、まるでコンビニの棚に並んだ大量生産の菓子パンのようだった。
- 皆、同じような顔をして、同じような時間に、同じような場所へ向かっている。
- そんな光景を眺めていると、ふと、自分もその菓子パンの一つなのではないか、という錯覚に陥る。
***
2026年1月25日。いつものように満員電車に揺られていた。押しつぶされそうな乗客たちの表情は、まるでコンビニの棚に並んだ大量生産の菓子パンのようだった。皆、同じような顔をして、同じような時間に、同じような場所へ向かっている。そんな光景を眺めていると、ふと、自分もその菓子パンの一つなのではないか、という錯覚に陥る。
僕の名前はユウタ。都内の小さなIT企業で働く、ごく普通の28歳だ。プログラミングのコードを書き、会議で無意味な意見を交換し、終電間際の電車に飛び乗る。そんな毎日を繰り返している。
今日は特に、SNSのタイムラインが騒がしかった。発端は、ある人気イラストレーターがアップした写真だった。「きこりの切株も仲間入れといたから!!」というコメントと共に、きのこの山とたけのこの里、そしてきこりの切株を贅沢に盛り付けた自家製マックフルーリー風アイスの写真が投稿されたのだ。
瞬く間に拡散され、多くの人が「美味しそう!」「天才!」とコメントを送っていた。僕も、その写真を見て、ほんの少し心が動いた。どこか懐かしい、子供の頃の記憶が蘇るような気がしたのだ。
しかし、すぐに冷静になった。これは、SNS特有の「祭り」だ。誰もが同じものを欲しがり、同じように反応することで、一体感を得ようとしている。まるで、群れをなして移動する渡り鳥のようだ。
電車を降り、オフィスに向かう途中、コンビニに立ち寄った。案の定、きのこの山とたけのこの里は品薄だった。店員に尋ねると、「今日、SNSで話題になったらしくて、皆さんまとめ買いされていくんですよ」と苦笑いされた。
僕は、特に欲しいわけでもなかったが、なんとなくきのこの山を一つ手に取った。レジに並びながら、またしてもSNSのタイムラインを開いた。先程のイラストレーターの投稿には、さらに多くのコメントが付いていた。
「私も作ってみました!」「きこりの切株、探すの大変だったー!」
その熱狂ぶりに、僕は少しだけうんざりした。なぜ、皆こんなに同じものを欲しがるのだろうか?なぜ、自分の頭で考え、自分の好きなものを選ぶことができないのだろうか?
オフィスに着き、パソコンを立ち上げた。今日のタスクは、クライアントのウェブサイトのバグ修正だ。単調な作業に、僕はすぐに飽きてしまった。
ふと、午前中のコンビニでの出来事を思い出した。きのこの山を買ったものの、食べる気にはなれなかった。引き出しの奥に押し込んだまま、僕は仕事に戻った。
昼休み、オフィス近くのカフェでランチを取った。窓際の席に座り、行き交う人々を眺めていた。皆、スマートフォンを片手に、何かを必死にスクロールしている。
隣の席に座った女性二人組の会話が耳に入ってきた。
「ねえ、あのマックフルーリー風アイス、もう作った?」
「まだー。きこりの切株がなかなか見つからなくて」
「私も!どこ行っても売り切れなんだもん。でも、絶対に作りたい!」
僕は、ため息をついた。まるで、呪文のように「きこりの切株」という言葉が飛び交っている。
ランチを終え、オフィスに戻ると、同僚のタナカが、興奮した様子で話しかけてきた。
「ユウタ、あのマックフルーリー風アイス、知ってる?めっちゃ美味しそうじゃない?」
「ああ、知ってるよ」
「俺も作ってみようと思って、きのこの山とたけのこの里、買ってきちゃった。きこりの切株は、まだ見つからないんだけどね」
タナカは、目を輝かせていた。その純粋な笑顔を見ていると、僕は何も言えなくなった。
「そうか。頑張ってね」
僕は、そう答えるのが精一杯だった。
夕方、仕事が終わって帰宅する途中、僕はデパートの地下食品売り場に立ち寄った。普段は、あまり行かない場所だが、なんとなく足が向いてしまったのだ。
店内は、多くの人で賑わっていた。特に、お菓子売り場は、子供連れの家族でごった返していた。
僕は、きのこの山とたけの里のコーナーに向かった。案の定、品薄状態だったが、隅の方に、ポツンと一つだけ、きこりの切株が残っていた。
僕は、それを手に取った。
「きこりの切株…か」
パッケージを眺めていると、子供の頃の記憶が蘇ってきた。小学校の遠足で、森に行った時のことだ。大きな切り株を見つけて、友達と上に乗って遊んだ。
その時、僕は、自分がきこりになったような気分だった。
レジに並び、会計を済ませた。デパートを出ると、すっかり夜になっていた。
僕は、そのまま家に帰らず、近くの公園に立ち寄った。ベンチに座り、コンビニで買ったコーヒーを飲みながら、空を見上げた。
星は、ほとんど見えなかった。都会の光に遮られて、その輝きは弱々しい。
僕は、きこりの切株のパッケージを開けた。小さなチョコレートの塊が、僕の手の中に現れた。
僕は、それを口に入れた。
甘くて、少し苦い味がした。
その時、僕は、ふと思った。
なぜ、僕は、こんなものを買ったのだろうか?
別に、マックフルーリー風アイスを作りたいわけでもない。SNSで話題になっているから、という理由だけで、僕は、きこりの切株を買ってしまったのだ。
僕は、自分が、SNSの「祭り」に踊らされていたことに気づいた。
そして、自分が、誰かの作ったレールの上を走っていることに気づいた。
僕は、立ち上がった。そして、きこりの切株のパッケージをゴミ箱に捨てた。
家に帰り、シャワーを浴びた後、僕は、自分の部屋の片付けを始めた。
使わなくなった雑誌や、着なくなった服、そして、昔のゲームソフト…
僕は、一つ一つ手に取り、それらを手放すことにした。
まるで、過去の自分を捨て去るかのように。
その夜、僕は、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
翌朝、僕は、いつもより少し早く起きた。そして、近所の公園に散歩に出かけた。
公園は、まだ静かだった。ジョギングをしている人や、犬の散歩をしている人が、ちらほらいるだけだ。
僕は、ベンチに座り、深呼吸をした。
冷たい空気が、肺を満たしていく。
その時、僕は、自分が、生まれ変わったような気分になった。
僕は、もう、誰かの作ったレールの上を走ることはない。
僕は、自分の頭で考え、自分の好きなものを選び、自分の人生を歩んでいく。
僕は、そう決意した。
オフィスに着き、パソコンを立ち上げた。今日のタスクは、クライアントのウェブサイトのバグ修正だ。
しかし、昨日の僕とは違っていた。
僕は、自分の仕事に、誇りを持つことができた。
僕は、自分の書くコードが、誰かの役に立っていることを実感できた。
僕は、自分の人生を、自分の手で切り開いていくことができると信じることができた。
昼休み、オフィス近くのカフェでランチを取った。窓際の席に座り、行き交う人々を眺めていた。
皆、スマートフォンを片手に、何かを必死にスクロールしている。
しかし、昨日の僕とは違っていた。
僕は、彼らを、憐れむことはなかった。
僕は、彼らの人生を、尊重することができた。
なぜなら、僕は、自分の人生を、愛しているからだ。
夕方、仕事が終わって帰宅する途中、僕はデパートの地下食品売り場に立ち寄った。
そして、きのこの山とたけの里のコーナーに向かった。
品薄状態だったが、隅の方に、ポツンと一つだけ、きこりの切株が残っていた。
僕は、それを手に取った。
そして、それを、棚に戻した。
僕は、微笑んだ。
そして、家に帰った。
その夜、僕は、自分の人生について、深く考えた。
僕は、自分が、何者なのか?
僕は、どこから来て、どこへ行くのか?
僕は、何を求めているのか?
僕は、誰を愛しているのか?
僕は、誰に愛されているのか?
僕は、自分の人生を、どのように生きていくのか?
僕は、自分の人生を、どのように終わらせるのか?
僕は、自分の人生を、どのように記憶するのか?
僕は、自分の人生を、どのように語り継ぐのか?
僕は、自分の人生を、どのように評価するのか?
僕は、自分の人生を、どのように意味づけるのか?
僕は、自分の人生を、どのように創造するのか?
僕は、自分の人生を、どのように祝福するのか?
僕は、自分の人生を、どのように感謝するのか?
僕は、自分の人生を、どのように希望するのか?
僕は、自分の人生を、どのように信頼するのか?
僕は、自分の人生を、どのように愛するのか?
僕は、自分の人生を、どのように生きるのか?
僕は、自分の人生を、どのように…
そして、僕は、眠りについた。
夢の中で、僕は、きこりになっていた。
大きな斧を手に、森の中を歩いていた。
僕は、木を切り倒した。
切り倒された木は、大きな切り株になった。
僕は、切り株の上に座った。
そして、空を見上げた。
空には、たくさんの星が輝いていた。
その輝きは、都会の光に遮られることなく、力強く、美しかった。
僕は、微笑んだ。
そして、また、眠りについた。
次の日も、また、僕は、満員電車に揺られていた。
しかし、もう、押しつぶされそうな乗客たちの表情は、コンビニの棚に並んだ大量生産の菓子パンのようには見えなかった。
皆、それぞれに、自分の人生を生きている。
皆、それぞれに、自分の物語を持っている。
皆、それぞれに、自分の輝きを持っている。
僕は、そう思った。
そして、僕は、また、微笑んだ。
なぜなら、僕は、自分の人生を、愛しているからだ。
そして、僕は、自分の人生を、精一杯生きていく。
なぜなら、僕は、きこりだからだ。
僕は、自分の人生の木を、切り倒し、切り株にし、そして、その上に座り、星空を見上げる。
僕は、そう決意した。
そして、電車は、目的の駅に到着した。
僕は、電車を降りた。
そして、オフィスに向かって歩き始めた。
今日も、また、新しい一日が始まる。
そして、僕は、その一日を、精一杯生きる。
なぜなら、僕は、きこりだからだ。
***
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
📚 あわせて読みたい


コメント