📝 この記事のポイント
- 御三家の中で最も「格式」と「伝統」を重んじる加茂家。
- しかしその歴史は、史上最悪の呪術師という汚点と、羂索による支配という悲劇に彩られている。
- 今回は、禪院家・五条家に続き、加茂家という名門の光と闇を徹底的に掘り下げる。
御三家の中で最も「格式」と「伝統」を重んじる加茂家。しかしその歴史は、史上最悪の呪術師という汚点と、羂索による支配という悲劇に彩られている。今回は、禪院家・五条家に続き、加茂家という名門の光と闇を徹底的に掘り下げる。
加茂家とは何か──陰陽師の末裔という矜持
御三家の中で加茂家は特異な位置にある。五条家が個の力、禪院家が集団の力で成立するのに対し、加茂家は「伝統」と「政治力」で呪術界に君臨してきた。
加茂家は平安時代に隆盛を誇った陰陽道の血統を受け継ぐ。祖先は賀茂忠行とされ、安倍晴明と並ぶ陰陽師の系譜だ。実在する賀茂氏は、陰陽道の二大家系の一つとして朝廷に仕え、天文観測や暦の作成を担当していた。
この「正統派」という看板こそが、加茂家の最大の武器だ。呪術界上層部との繋がりが最も深く、保守派の母体として機能している。政治的影響力では、五条家や禪院家を凌駕すると言ってもいい。
しかし加茂家には、消えることのない汚点がある。「史上最悪の呪術師」加茂憲倫だ。
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加茂憲倫という呪い──御三家全体の汚点
明治時代初期、加茂家に一人の術師がいた。加茂憲倫。彼の名は「史上最悪の呪術師」「御三家の汚点」として、現代まで語り継がれている。
憲倫の悪行は、想像を絶する非人道性だ。呪霊との間に子を孕む特異体質の女性に目をつけ、九度にわたり妊娠と堕胎を強制した。生まれた胎児に自らの血を混ぜ、呪物化させたのが「呪胎九相図」だ。
この女性は最初、身に覚えのない懐妊と異形の赤子に苦しみ、助けを求めて山奥の寺を訪れた。そこにいたのが憲倫だった。彼女の特異体質に「知的好奇心」を抱いた憲倫は、救済ではなく実験の対象として彼女を利用した。
呪胎九相図は全部で九体。1番から3番までが特級呪物に指定され、長い間呪術高専の忌庫で保管されていた。渋谷事変前、真人によって盗み出され、1番・脹相、2番・壊相、3番・血塗が受肉した。
しかし第134話で衝撃の真実が明かされる。加茂憲倫の正体は羂索だった。
脹相の記憶の中、明治時代の憲倫の額には縫い目がある。夏油傑を乗っ取った「偽夏油」と同じ特徴だ。羂索は「加茂憲倫も数ある名の一つに過ぎない」と語る。つまり本来の加茂憲倫は、羂索に肉体を乗っ取られた被害者だったのだ。
史上最悪の呪術師という汚名は、無実の人間に着せられたもの。しかし呪術界はそれを知らない。加茂家は現在でも、この「憲倫」という名を最大の忌み名としている。
赤血操術──血を操る相伝の術式
加茂家相伝の術式は「赤血操術」。自身の血液とそれが付着したものを操る能力だ。
赤血操術は極めて多彩な技を生み出せる。血液さえあれば、攻撃・防御・補助のあらゆる局面に対応可能だ。
赤鱗躍動(せきりんやくどう) – 呪力を込めた血液を体表に纏い、身体能力を飛躍的に向上させる。通常の人間では不可能な動きが可能になる。
穿血(せんけつ) – 血液を圧縮して高速で射出する技。音速に達する速度で敵を貫く。脹相が使用した際は、特級呪霊でさえ回避困難な威力を発揮した。
百斂(びゃくれん) – 血液を凝固させて無数の矢を作り出し、一斉射撃する。広範囲攻撃に優れる。
苅祓(かりばらい) – 血液を回転させて円盤状の刃を作る。投擲武器として使用。
赤縛(せきばく) – 血液で相手を拘束する。呪力を込めることで強度を調整できる。
赤血操術の真価は「応用性」にある。加茂憲紀は弓矢に血液を付着させ、軌道を操作して戦う。脹相はさらに進化させ、「超新星」という独自技を編み出した。血液を圧縮・膨張させて爆発させる技で、約150年間呪物として過ごした時間で開発したとされる。
しかし赤血操術には致命的な弱点がある。血液不足だ。術式を使いすぎると出血多量で戦闘不能になる。そのため加茂憲紀は血液パックを常備している。また、大量の水などで血液を洗い流されると、術式が使用不能になる。
興味深いのは、呪胎九相図も赤血操術を使える点だ。脹相は憲倫(羂索)が自分の血を混ぜたことで、加茂家相伝の術式を継承している。これは血統による術式継承という呪術界の根本原理を示している。
加茂憲紀──側室の子という重荷
京都校3年、加茂憲紀。彼は加茂家次期当主として登場したが、その実態は複雑だ。
憲紀は側室の息子だった。本来なら家を継ぐ立場ではない。しかし正室が加茂家相伝の赤血操術を継いだ男児を産めなかったため、6歳の時に嫡男として本家に迎えられた。
これは加茂家の価値観を端的に表している。血統よりも術式。禪院家と同じく、加茂家も術式至上主義なのだ。
しかし母親は違った。側室として加茂家に入った彼女は「爛れた側妻」として虐げられた。憲紀が嫡男になった後も迫害は続き、最終的に「私がいると憲紀の邪魔になる」と涙を流しながら家を出ていく。
幼い憲紀に母は言った。「憲紀には才能がある。沢山の人を助けられるの」
この言葉が、憲紀の全てを決定づけた。母のために、自分は立派な呪術師にならなければならない。加茂家の嫡男として、完璧に振る舞わなければならない。
憲紀の杓子定規な性格は、この重圧から来ている。常に「加茂家嫡流としての矜持」を意識し、秩序を重んじる。礼儀正しく落ち着いた振る舞いをする一方で、非情な判断も厭わない。
しかし彼には天然な一面もある。伏黒恵を「宗家よりよほど出来がいい」と禪院家の人間の前で口にしたり、高田ちゃんの番組を見るために退室しようとした東堂葵に「録画すればいいだろう」と真顔で諭したり。このギャップが、憲紀というキャラクターの魅力だ。
声優は日野聡。『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎と同じ声優であり、芥見下々も意識的に煉獄に似たセリフを憲紀に言わせている。名門の出身、母親想い、誇りと責任感を持って役目を全うする点も共通している。
死滅回遊と加茂家の崩壊
渋谷事変後、呪術界は大混乱に陥った。そして加茂家は、御三家の中で最も悲惨な運命を辿る。
羂索は加茂家当主を殺害し、加茂家そのものを乗っ取った。呪術総監部との繋がりが深い加茂家を掌握することで、呪術界全体を支配下に置いたのだ。
さらに羂索の策略により、加茂家に新しい次期当主候補が現れる。憲紀は放逐された。母を迎えに行くという目標、加茂家を継ぐという使命。全てを失った憲紀は、生きる目的を見失う。
憲紀の母は既に再婚し、新しい家族を築いていた。異父弟もいる。母は憲紀を待ち続けていたが、憲紀自身が「もう遅い」と感じていた。
桜島コロニーで禪院真希と共に戦う憲紀は、呪霊化した禪院直哉を自爆覚悟で祓おうとする。半ば自暴自棄になっていた彼を諭したのは、皮肉にも真希だった。
「一度キチンと親と話し合え。死ぬのはそれからだ」
母親とのすれ違いから、最終的に対話しないまま母を手にかけた真希。彼女だからこそ言える言葉だった。
新宿決戦後、憲紀は母の元へ帰った。新しい家族と仲睦まじく日本で過ごす彼の姿が描かれる。異父弟を肩車し、お兄ちゃんとして弟を可愛がっている。
加茂憲紀は呪術師を引退した。赤血操術を持つ次期当主として育てられた彼は、全てを捨てて家族との時間を選んだ。
呪胎九相図という悲劇──血は呪いよりも濃い
呪胎九相図は、加茂家の歴史の中で最も悲惨な存在だ。人間と呪霊の混血児として生まれ、堕胎され、呪物として封印された。
1番・脹相、2番・壊相、3番・血塗。彼らは受肉後、ただ「兄弟と穏やかに暮らしたい」という人間的な願いだけを持っていた。呪霊側についたのも、異形の弟たちが人間社会で受け入れられないと判断したからだ。
脹相は完全に人間の姿を保っている。これは九相図の元ネタである仏教絵画「九相図」に由来する。九相図とは、死体が腐敗していく過程を九段階に分けて描いたもの。
脹相 – 死体が腐敗ガスで膨張する状態
壊相 – 死体の皮膚が破れ始める状態
血塗 – 溶解した脂肪や血液が流れ出す状態
つまり脹相は「最初の段階」だから人間に近く、血塗は「第三段階」だから人間の形を保てていない。壊相の背中が爛れているのも、この設定に基づいている。
壊相と血塗の術式は「蝕爛腐術」。二人の血液を対象が浴び、どちらかが術式を発動すると、体内から腐食が始まる。10〜15分で死に至る恐ろしい術式だ。
脹相が虎杖悠仁を「弟」と認識したのは、羂索の血が関係している。虎杖の母・香織には額に縫い目があった。つまり羂索に乗っ取られていた。虎杖も羂索が作り出した存在であり、脹相と血が繋がっている可能性が高い。
「存在しない記憶」。脹相の脳裏に浮かんだ、四人で和やかに食事を取る光景。この記憶が、脹相と虎杖の絆を生んだ。
第168話のカラー表紙では、脹相・血塗・虎杖・壊相の四人がアラブ風の衣装を着ている。キャッチコピーは「血は呪いよりも濃い」。アラブは血縁主義国家であり、血族の軽視を罪とする文化だ。呪術界の閉鎖的な血統主義と重なる。
脹相は新宿決戦で宿儺と戦い、死亡した。しかし4番から9番の弟たちの亡骸は、虎杖が飲み込んだ。「弟達はオマエの中で生きられる」と脹相は誇らしげに語った。血の繋がりは、死を超えて続いていく。
加茂家の組織構造──呪術界の官僚機構
加茂家は御三家の中でも特に組織的だ。禪院家のような武闘派集団でも、五条家のようなワンマンチームでもない。政治的な官僚組織として機能している。
呪術総監部との繋がりが深く、呪術界の政策決定に大きな影響力を持つ。保守派の母体として、伝統的な価値観を守る役割を担ってきた。
しかし羂索による支配で、この構造は完全に崩壊した。当主が殺され、次期当主が放逐され、加茂家の政治力は失われた。
最終巻のエピローグでは、加茂家が担当していた仕事を1級術師兼官僚の宇佐美鴻が引き受けていることが明かされる。つまり加茂家はもはや御三家としての機能を喪失している。
五条家は乙骨憂太が当主代理として継承し、禪院家は「旧御三家」として名を残した。しかし加茂家は、完全に消滅した可能性が高い。
日本三大怨霊との関係──崇徳天皇という呪い
御三家はそれぞれ、日本三大怨霊と関係が深いとされる。五条家は菅原道真、禪院家は平将門、そして加茂家は崇徳天皇だ。
崇徳天皇は平安時代末期の天皇で、保元の乱に敗れて讃岐国に配流された。配流先で憤死し、その怨念は日本最強の怨霊の一つとされる。
崇徳天皇の怨念は「血」に関係が深い。保元の乱は皇族同士、兄弟同士が殺し合う「血で血を洗う戦い」だった。加茂家の赤血操術が「血」を操る術式であることと、興味深い符合を見せる。
また、崇徳天皇は「日本国の大魔縁となり、皇を取って民とし民を皇となさん」と呪詛したとされる。これは権力の転覆を意味する。
加茂家が羂索に乗っ取られ、呪術総監部ごと支配されたのは、まさにこの呪詛の実現と言える。権力の中枢が、内部から腐敗し崩壊した。
海外ファンの反応と日本の考察
英語圏では加茂家は「The Traditionalist Family」として認識されている。五条家の「Innovative Power」、禪院家の「Toxic Tradition」と対比され、「Political Corruption」の象徴として語られることが多い。
特に注目されているのが加茂憲紀の人間性だ。「Most underrated character(最も過小評価されているキャラクター)」という評価が多く、母親想いで真面目な彼の性格が共感を呼んでいる。
日本の考察勢は、加茂家の「血統主義」と「術式至上主義」の矛盾を指摘している。血統を重んじると言いながら、側室の子でも術式があれば嫡男にする。この矛盾こそが、加茂家の本質だ。
また、加茂憲紀と加茂憲倫の名前が同じ読みである点も興味深い。側室の子である憲紀に、わざわざ忌み名と同じ読みの名前をつける。これは加茂家の「血統より術式」という価値観の表れかもしれない。
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まとめ──血と伝統に呪われた家系
加茂家は、御三家の中で最も「伝統」に縛られた家系だった。陰陽師の末裔という誇り、呪術界上層部との繋がり、赤血操術という相伝の術式。全てが加茂家の「格式」を支えていた。
しかしその伝統は、同時に呪いでもあった。史上最悪の呪術師という汚点、術式至上主義による家族の崩壊、そして羂索による支配という悲劇。
加茂憲紀は全てを失い、全てを捨てた。呪術師としての人生ではなく、家族との時間を選んだ。これは加茂家という呪いからの解放だった。
五条家は乙骨憂太によって新しい形で継承され、禪院家は壊滅しながらも歴史に名を残した。しかし加茂家は、静かに消えていった。
呪術界の保守派として、伝統を守り続けた加茂家。しかしその伝統は、誰も幸せにしなかった。血統という呪い、術式という呪い、格式という呪い。加茂家の歴史は、呪いの歴史だった。
アニメ勢の皆さんには、これから描かれる加茂家の物語を注視してほしい。脹相という異形の兄、憲紀という真面目な嫡男、そして羂索という黒幕。すべてが交錯する時、加茂家という名門の真実が明らかになる。
血は呪いよりも濃い。しかし、その血もまた呪いなのだ。加茂家という悲劇が、その真理を教えてくれる。
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