📝 この記事のポイント
- いつものように満員電車の窓ガラスに額を押し付けられ、僕はぼんやりと景色を眺めていた。
- 人の頭越しに見える、ぼやけたビルの輪郭だけが、僕がまだ東京という名の巨大な迷路の中にいることを教えてくれる。
- 正確に言うと、昔から調子が良い日は少ないのだが、最近は特にそれが顕著だ。
2026年1月24日。いつものように満員電車の窓ガラスに額を押し付けられ、僕はぼんやりと景色を眺めていた。正確に言うと、景色はほとんど見えない。人の頭越しに見える、ぼやけたビルの輪郭だけが、僕がまだ東京という名の巨大な迷路の中にいることを教えてくれる。
最近、どうも調子が悪い。正確に言うと、昔から調子が良い日は少ないのだが、最近は特にそれが顕著だ。原因はいくつか思い当たる。一つは、連日の残業。プロジェクトの締め切りが迫っているという、いつもの言い訳だ。もう一つは、SNS疲れ。タイムラインに流れてくるキラキラした日常と、自分の地味な生活とのギャップに、無意識に心が疲弊しているのだ。そして、もう一つ…それは、コンビニのレジ横に並んだ、あの光り輝くパックたちだった。
僕は、ポケモンカードが好きだ。正確に言うと、子供の頃から好きだった。小学生の頃、少ないお小遣いを握りしめてカードショップに通い、友達と交換したり、対戦したりするのが、何よりも楽しみだった。大人になった今、カードゲームをする時間は減ったけれど、新しいパックを見かけると、つい手が伸びてしまう。それは、子供の頃の思い出を呼び起こす、一種のノスタルジーなのかもしれない。
会社に着き、デスクに座ると、案の定、溜まりに溜まったメールの山が出迎えてくれた。一つ一つ丁寧に処理していく。頭を使う作業に集中していると、嫌なことを忘れられる。それが、僕にとっての唯一の救いなのかもしれない。
昼休み、いつものように会社の近くのコンビニへ向かった。おにぎりとコーヒーを手にレジに並ぶと、目の前に、あの光り輝くパックが鎮座していた。新しい拡張パックが発売されたのだ。
「あ、これ、ください」
反射的にそう言っていた。レジのおばちゃんは、いつものように無愛想な顔でバーコードを読み取り、袋に入れてくれた。
オフィスに戻り、昼食を済ませた後、僕は誘われるようにパックを開封した。シャカシャカという音と共に、5枚のカードが現れる。レアカードは…残念ながら、なかった。
「また、ハズレか…」
心の中で呟いた。
その日の夜、いつものようにTwitter(今はXか)を眺めていると、気になるニュースが目に飛び込んできた。「セブンイレブンの店員がポケモンカードを発売前にメルカリへ出品…ポケカのコンビニ販売について店員の「サーチ」や横流し転売を疑う声も」という見出しだった。
記事を開いてみると、そこには、コンビニの制服を着た人物が、発売前のポケモンカードをメルカリに出品している画像が掲載されていた。出品時刻は、販売開始時間よりも早く、商品はすでに削除されていた。
この記事を読んだ瞬間、僕は複雑な感情に襲われた。まず、怒り。なぜ、そんなことをするのか? 子供の頃からの楽しみを、なぜ、金儲けの道具にするのか? そして、次に、失望。大人が、こんなことをするのか? 僕は、社会の闇を見たような気がした。
そして、最後に、少しだけ、共感。
正確に言うと、共感というよりも、理解に近い感情だった。
僕も、SNSで「いいね」が欲しい。承認欲求という名のモンスターに、常に追いかけられている。自分の日常を切り売りし、少しでも他人から認められたい。そんな自分が、確かにそこにいる。
あの店員も、きっとそうだったのだろう。少しでもお金が欲しかった。少しでも他人から認められたかった。承認欲求という名のモンスターに、操られていたのかもしれない。
その夜、僕は眠れなかった。
翌日、僕は、会社を休んだ。正確に言うと、仮病を使った。
一日中、家で過ごした。本を読んだり、映画を観たり、音楽を聴いたりした。普段、仕事に追われてできないことを、ゆっくりと時間をかけて楽しんだ。
夕方、近所のカフェに行った。窓際の席に座り、コーヒーを飲みながら、ぼんやりと外を眺めていた。
カフェには、様々な人がいた。パソコンに向かって仕事をしている人、友達とおしゃべりを楽しんでいる人、本を読んでいる人。みんな、それぞれの時間を過ごしている。
その時、僕は、ふと、気づいた。
僕も、承認欲求という名のモンスターに操られていたのかもしれない。SNSの「いいね」の数に一喜一憂し、他人と比較して落ち込み、自分の価値を他人に委ねていた。
でも、本当に大切なものは、そんなところにはない。
大切なものは、自分の内側にある。
自分の好きなこと、やりたいこと、大切にしたいこと。それらを大切にすることが、本当に大切なことなのだ。
僕は、コーヒーを飲み終え、カフェを出た。
空には、星が輝いていた。
僕は、深呼吸をした。
そして、歩き出した。
2026年1月24日。コンビニの蛍光灯の光は、今日も、僕たちを照らし続けている。そして、承認欲求という名のモンスターは、今日も、どこかで、僕たちを追いかけている。
しかし、僕は、もう、逃げない。
僕は、自分の内なる光を信じて、生きていく。
あのコンビニの店員が、その後どうなったのか、僕は知らない。
ただ、彼が、いつか、自分の内なる光を見つけることができるように、僕は、心から願っている。
そして、僕自身も、自分の内なる光を失うことなく、生きていきたい。
それが、僕の、ささやかな願いだ。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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