📝 この記事のポイント
- 東京は記録的な大寒波に見舞われ、ニュースでは「不要不急の外出は控えてください」というアナウンスが繰り返されていた。
- しかし、そんな警報をよそに、僕は満員電車に揺られていた。
- 最新のAI技術を開発している、といえば聞こえはいいが、実際は大量のデータをひたすら入力する日々だ。
2026年1月22日。東京は記録的な大寒波に見舞われ、ニュースでは「不要不急の外出は控えてください」というアナウンスが繰り返されていた。しかし、そんな警報をよそに、僕は満員電車に揺られていた。目的地は都心にあるIT企業。最新のAI技術を開発している、といえば聞こえはいいが、実際は大量のデータをひたすら入力する日々だ。
窓の外は一面の銀世界。普段は殺風景なコンクリートジャングルも、雪化粧を施されるとどこか幻想的に見える。スマホを取り出し、SNSを開くと、タイムラインは雪景色の写真で埋め尽くされていた。ハッシュタグは「#大寒波」「#雪景色」「#犬は喜び庭駆け回る」…。そう、あのニュース記事を思い出した。大雪警報が出ているから犬をしまえ、という注意喚起に対して、「うちの柴犬はしまっても出てくる」というユーモラスなコメントが添えられていた。
(犬か…)
僕は実家暮らし。両親と妹と、そして柴犬のゴン太がいる。ゴン太はとにかく雪が大好きで、雪が降ると大喜びで庭を駆け回る。まるでケルベロスのような風貌で、雪まみれになりながらも楽しそうにしている姿は、確かに可愛らしい。
(でも、ゴン太はゴン太で、僕は僕だよな)
ふと、そんなことを思った。ゴン太は雪という刺激に素直に反応し、喜びを爆発させている。一方、僕はというと、大寒波という非日常的な状況にも関わらず、いつもと変わらない日常をこなしている。電車の遅延にイライラし、仕事の締め切りに追われ、将来への漠然とした不安を抱えながら。
電車がようやく動き出した。僕はイヤホンを取り出し、Spotifyを開く。プレイリストは、最近ハマっているインディーズバンドの曲。歌詞は、現代社会の閉塞感や孤独感を歌っている。共感できる部分も多いけれど、同時に、どこか他人事のように感じてしまう。
(僕も、ゴン太みたいに、もっと素直に生きられたらいいのに)
駅に着き、改札を出ると、足元はシャーベット状になっていた。慎重に歩きながら、カフェに入る。暖房の効いた店内は、外の寒さとは別世界だ。カフェラテを注文し、窓際の席に座る。窓の外を眺めていると、一組のカップルが雪合戦をしているのが見えた。楽しそうに笑い合う二人の姿を見て、少しだけ心が温かくなった。
(ああいう、純粋な感情って、どこに行っちゃったんだろう)
僕は、いつからこんなに感情を押し殺すようになってしまったのだろうか。子供の頃は、ゴン太と同じように、雪が降ると大喜びで外に飛び出していたはずなのに。大人になるにつれて、喜びや悲しみ、怒りといった感情に、様々なフィルターをかけるようになった。世間体、常識、将来への不安…。それらのフィルターを通して見る世界は、どこか歪んでいて、不鮮明だった。
オフィスに着くと、同僚たちが忙しそうにパソコンに向かっていた。挨拶を交わし、自分の席に着く。目の前のモニターには、無機質な数字と記号が羅列されていた。僕は深呼吸をし、キーボードに手を置く。
(今日も、一日が始まる)
仕事中、ふとした瞬間に、ゴン太の雪まみれの笑顔が頭をよぎった。僕は、ゴン太のように無邪気に喜ぶことはできないかもしれない。でも、感情を押し殺すのではなく、もっと素直に、自分の心に正直に生きたいと思った。
(そのためには、まず、自分の心の声に耳を傾けることから始めよう)
終業後、僕は職場近くの書店に立ち寄った。普段はビジネス書ばかり読んでいるけれど、今日は、詩集のコーナーに足を運んだ。いくつかの詩集を手に取り、パラパラとページをめくる。言葉の一つ一つが、胸に染み渡るように感じられた。
(言葉って、すごいな)
言葉は、感情を表現するだけでなく、感情を呼び起こす力もある。詩を読んでいると、心の奥底に眠っていた感情が、少しずつ目を覚ましていくようだった。
家に帰ると、ゴン太が玄関で尻尾を振って出迎えてくれた。雪はすっかり溶けていたけれど、ゴン太の毛には、まだ雪の匂いが残っていた。僕はゴン太を撫でながら、今日一日を振り返った。
(今日は、少しだけ、自分の心の解像度が上がった気がする)
夜、リビングでテレビを見ていると、ニュースで大寒波の被害状況が報道されていた。交通機関の麻痺、停電、そして、雪崩による死者も出ているという。改めて、自然の脅威を思い知らされた。
(ゴン太も、無事でよかった)
僕はゴン太の頭を撫でた。ゴン太は、気持ちよさそうに目を細めていた。ゴン太の存在は、僕にとって、癒しであり、心の拠り所だ。
(明日も、頑張ろう)
ベッドに入り、目を閉じると、今日の出来事が走馬灯のように蘇ってきた。満員電車、カフェのカップル、詩集、そして、ゴン太の笑顔。
(僕も、いつか、ゴン太みたいに、心の底から笑えるようになりたい)
僕は、まだ、自分の心の輪郭をはっきりと捉えられていない。でも、少しずつ、少しずつ、解像度を上げていけば、きっと、本当の自分に出会えるはずだ。
(そして、その時、僕は、雪を見て、ゴン太と同じように、心の底から喜べるのかもしれない)
翌朝、窓の外は晴れ渡っていた。太陽の光が、雪解け水をキラキラと輝かせている。僕は、深呼吸をし、新しい一日を迎えた。
(今日は、どんな一日になるだろうか)
僕は、ゴン太にリードをつけ、散歩に出かけた。雪解け道は滑りやすかったけれど、ゴン太は楽しそうに走り回っていた。
(ゴン太、ありがとう)
僕は、ゴン太に感謝した。ゴン太は、僕に、生きる喜びを教えてくれた。そして、心の解像度を上げるための、最初の一歩を踏み出す勇気をくれた。
空を見上げると、太陽がまぶしく輝いていた。僕は、ゴン太と一緒に、未来に向かって歩き出した。
2026年1月22日。大寒波と雪解けは、僕にとって、単なる気象現象ではなく、自分自身を見つめ直すための、特別な一日になった。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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