📝 この記事のポイント
- — 朝の通勤電車は、まるで押し寿司のようだ。
- 毎日同じ顔ぶれが、同じように押し込められている。
- スマホを握りしめ、ニュースアプリをスクロールする。
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朝の通勤電車は、まるで押し寿司のようだ。毎日同じ顔ぶれが、同じように押し込められている。僕もその一人。スマホを握りしめ、ニュースアプリをスクロールする。2026年1月21日。今日も特に変わったことはない。AIによるリストラ、高齢化社会、終わらないパンデミック…もう見飽きた文字の羅列。
ふと、向かいに立つ女性に目が留まった。彼女は、まるで時間が止まったかのように、一点を見つめている。その表情は、不安と諦めが混ざり合った、複雑なものだった。僕も、彼女も、そしてこの電車に乗っている多くの人々も、同じような感情を抱えているのだろうか。漠然とした不安。将来への希望が見えない閉塞感。
カフェに着くと、いつものようにラテを注文した。窓際の席に座り、ぼんやりと外を眺める。行き交う人々は皆、どこか急いているように見える。まるで、何か大切なものに追い立てられているかのようだ。
僕の周りには、いつも人がいた。小学校、中学校、高校、大学…常に誰かと一緒にいた。でも、本当に心を通わせた人は、一体何人いただろうか。SNSではたくさんの人と繋がっているけれど、その繋がりは、まるで薄い膜のようだ。何かあればすぐに壊れてしまう、脆い繋がり。
大学時代の友人、ユウキのことを思い出した。彼は、常に何かを探していた。自分の居場所、生きる意味、そして、誰かに必要とされているという実感。彼は、いつも「俺たちは、何のために生きているんだろうな」と呟いていた。
ユウキは、卒業後すぐに起業した。AIを活用した新しいビジネスモデルを構築し、一時は成功を収めた。しかし、数年後、彼は会社を畳んだ。理由は、簡単には説明できない。ただ、彼は、「俺は、本当にやりたいことを見つけられなかった」と言った。
ユウキとの再会は、居酒屋だった。昔と変わらない笑顔で、彼は僕にビールを勧めた。「久しぶりだな、元気だったか?」彼は、そう言ったけれど、その目は、どこか寂しそうだった。
「あのさ、ケンタ。俺、最近、昔のことをよく思い出すんだ。特に、子供の頃に遊んだゲームのこととか」ユウキは、そう言いながら、グラスを傾けた。「覚えてるか? あの時、俺たちは、もっと自由だった。もっと無邪気だった。何も考えずに、ただ、目の前のことに夢中になっていた」
僕は、頷いた。確かに、子供の頃は、もっと単純だった。喜びも、悲しみも、もっとストレートに感じていた。大人になるにつれて、感情は複雑になり、いつの間にか、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまった。
ユウキは、突然、早稲田大学の入試問題の話を始めた。「ケンタ、知ってるか? 早稲田の小論文で、『グー・チョキ・パーに「キュー」を加える新ゲームを考案せよ』っていう課題が出たらしいんだ。キューは人生で一度だけ使える必勝手段で、全員があいこの場合はキュー使用者が勝利する、っていうルールらしい」
僕は、少し驚いた。そんな面白い問題が出題されるなんて、さすが早稲田大学だと思った。
「ケンタ、もし、お前が『キュー』を持っていたら、いつ使う?」ユウキは、真剣な顔で僕に尋ねた。
僕は、少し考えた。「うーん、難しいな。本当に困った時、どうしても譲れない時…かな」
「そうだよな。でも、本当に困った時って、いつなんだろうな。どうしても譲れない時って、一体何なんだろうな」ユウキは、遠い目をしながら、そう呟いた。
その時、僕は、ふと思った。僕たちは、常に選択を迫られている。進学、就職、結婚…人生は、選択の連続だ。そして、その選択は、常に正しいとは限らない。後悔することもあるし、間違った選択をしてしまうこともある。
でも、だからこそ、僕たちは、常に考え続けなければならない。自分の価値観、自分の信念、そして、自分が本当に大切にしたいものは何かを。
ユウキは、会社を畳んだ後、プログラミングスクールに通い始めたらしい。「今度は、本当に自分がやりたいことをやる」彼は、そう言った。
僕は、ユウキの言葉に、少し勇気づけられた。僕も、何か新しいことを始めてみようと思った。ずっとやりたかった小説を書くことに挑戦してみよう。
オフィスに戻ると、同僚のサキが、深刻な顔でパソコンに向かっていた。彼女は、最近、プロジェクトリーダーに抜擢されたばかりだ。しかし、彼女は、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
「ケンタさん、ちょっと相談に乗ってもらえませんか?」サキは、そう言いながら、僕に近づいてきた。
彼女の話を聞いているうちに、僕は、あることに気づいた。彼女は、自分自身を過小評価している。自分の能力を信じることができていない。
「サキさん、あなたは、もっと自信を持つべきです。あなたは、素晴らしい能力を持っている。それを信じて、前に進んでください」僕は、そう言った。
サキは、少し驚いた顔をした。そして、ゆっくりと頷いた。「ありがとうございます、ケンタさん。少し、気持ちが楽になりました」
その日の帰り道、僕は、空を見上げた。空は、曇っていたけれど、その奥には、きっと、青空が広がっているはずだ。
僕たちは、まだ若い。まだ、たくさんの可能性がある。失敗を恐れずに、前に進むことができる。
「キュー」は、人生で一度しか使えない必勝手段かもしれない。でも、本当に大切なのは、キューを使うことではなく、キューを使わなくても、自分の力で道を切り開いていくことだ。
僕たちは、迷い、悩み、時に立ち止まることもあるだろう。でも、それでも、僕たちは、生きていかなければならない。
2026年1月21日。今日も、特に変わったことはない。でも、僕の心の中には、小さな光が灯っている。それは、希望の光かもしれない。そして、それは、僕だけのものではなく、ユウキ、サキ、そして、この世界に生きる多くの人々の中にも、きっと灯っているはずだ。
僕たちは、キューを握りしめた世代だ。でも、いつか、キューを手放し、自分の足でしっかりと立ち、未来を切り開いていく。それが、僕たちの使命なのだと、僕は信じている。
そして、いつか、僕たちが、子供の頃に夢見ていたような、自由で、無邪気な世界を、創り上げることができると、僕は信じている。その時、僕たちは、きっと、心から笑うことができるだろう。
電車は、終点に近づいていた。僕は、スマホをポケットにしまい、窓の外を眺めた。街の灯りが、優しく僕を照らしていた。僕は、深呼吸をした。そして、未来に向かって、一歩を踏み出した。僕たちの世代は、まだ、始まったばかりなのだから。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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