海色のイヤホンについて

essay_featured_1768841477800

📝 この記事のポイント

  • 都心のカフェは、いつもと変わらず、雑多な音に満ちていた。
  • エスプレッソを挽く音、隣のテーブルの笑い声、かすかに聞こえるBGM。
  • 僕はMacBookを開き、カフェラテを一口飲んだ。

2026年1月20日。都心のカフェは、いつもと変わらず、雑多な音に満ちていた。エスプレッソを挽く音、隣のテーブルの笑い声、かすかに聞こえるBGM。僕はMacBookを開き、カフェラテを一口飲んだ。今日は、珍しく午前中の打ち合わせがキャンセルになったので、溜まっていた雑務を片付けることにした。

SNSを開くと、タイムラインには相変わらず様々な情報が飛び交っている。炎上、ニュース、広告、そして、友達の自撮り写真。その中に、目を引く動画があった。遠くの方で撮影されたらしい、画質の粗い映像。数人の男子中学生が、小学生らしき少年を羽交い締めにして、海に突き落としている。

動画はすぐに削除されたようだが、既に拡散されているらしい。コメント欄には、怒りや悲しみ、そして、無関心を装う言葉が並んでいた。僕は、しばらくその動画を見つめていた。胸の奥に、鉛のような重たいものが沈んでいくのを感じた。

僕の名前は、ユウタ。28歳。都内の小さなIT企業で、Webデザイナーをしている。毎日、パソコンの画面とにらめっこして、デザインを作り、コードを書く。別に不満はない。給料はそこそこだし、人間関係も悪くない。でも、時々、自分が何をしているのか、分からなくなることがある。

カフェを出て、オフィスに向かう電車の中。僕は、海色のイヤホンを取り出し、お気に入りのプレイリストを再生した。イヤホンから流れてくる音楽は、少しだけ僕の心を軽くしてくれる。

向かいに座っている女子高生は、スマホを夢中で見ている。その画面には、僕が見た動画と同じような映像が映っているのかもしれない。でも、彼女は、きっと僕とは違う感情を抱いているのだろう。彼女にとって、それはただのエンターテイメントなのかもしれない。

オフィスに着くと、いつものように、慌ただしい空気が漂っていた。同僚のミサキが、「おはようございます!」と明るい声で挨拶をしてきた。ミサキは、僕より2つ年下で、デザイナーとしては、僕の少し後輩にあたる。

「ユウタさん、なんか今日、元気ないですね?」

ミサキは、僕の顔をじっと見つめて言った。彼女は、人の感情に敏感で、よく僕の気持ちを当ててくる。

「ちょっと、SNSで嫌な動画を見ちゃって…」

僕は、正直に話した。

「ああ、あれですか?私も見ました。ひどいですよね。でも、ああいうのって、日常茶飯事じゃないですか?」

ミサキは、あっけらかんとした口調で言った。

「日常茶飯事…?」

僕は、思わず聞き返した。

「だって、ネットニュースとか、SNSとか、毎日、誰かが誰かを叩いたり、いじめたりしてるじゃないですか。もう、見慣れちゃいました」

ミサキは、そう言って、自分のデスクに向かった。

ミサキの言葉は、僕の心に深く突き刺さった。確かに、彼女の言う通りだ。僕たちは、毎日、暴力的な情報にさらされている。そして、いつの間にか、それに慣れてしまっている。

でも、本当にそれでいいのだろうか?

僕は、自分の席に座り、MacBookを開いた。さっき見た動画のことが、頭から離れない。あの少年は、今、どうしているのだろうか?心に深い傷を負っていないだろうか?

僕は、インターネットで、「いじめ問題」について調べ始めた。様々な記事、データ、体験談。その中で、あるNPO団体の活動を知った。その団体は、いじめ被害者のための相談窓口を運営したり、学校でいじめ防止のワークショップを開催したりしているらしい。

僕は、その団体のウェブサイトをじっくりと読んだ。そして、気づいた。僕にできることは、たくさんある。

その日の夜、僕は、NPO団体のボランティア説明会に参加した。会場には、様々な年齢、職業の人たちが集まっていた。みんな、いじめ問題を解決したいという強い思いを持っているようだった。

説明会の後、僕は、NPO団体の代表に話しかけた。彼は、優しそうな笑顔で、僕の話を聞いてくれた。

「ユウタさん、ありがとうございます。こうやって、関心を持ってくれる人がいることが、本当に嬉しいです」

代表は、そう言って、僕の手を握った。

その瞬間、僕の心に、温かいものが広がっていくのを感じた。僕は、一人じゃない。同じように、苦しんでいる人、立ち上がろうとしている人が、たくさんいる。

それから、僕は、NPO団体のボランティアとして、活動を始めた。相談窓口で、いじめ被害者の話を聞いたり、学校でワークショップを開催したり。最初は、戸惑うことも多かったけれど、少しずつ、自分にできることが増えていった。

ある日、僕は、相談窓口で、一人の男子中学生と出会った。彼は、過去にいじめを受けていた経験があり、その時のトラウマに苦しんでいるという。

僕は、彼に、自分の経験を話した。そして、伝えた。

「君は、一人じゃない。僕たちは、いつも君のそばにいる」

彼は、涙を流しながら、僕の言葉に耳を傾けていた。その時、僕は、自分が、少しだけ、誰かの役に立てていることを実感した。

2026年12月31日。大晦日。僕は、NPO団体の仲間たちと、年越しそばを食べながら、一年を振り返っていた。今年は、本当に色々なことがあった。辛いこと、悲しいこと、そして、嬉しいこと。でも、どんな時も、僕は、仲間たちと支え合って、乗り越えてきた。

新年を迎える瞬間、僕は、心の中で、誓った。

来年も、僕は、自分にできることを精一杯やろう。いじめのない社会を目指して、一歩ずつ、前に進んでいこう。

年が明けて、数日後。僕は、カフェで、いつものように、MacBookを開いていた。SNSを開くと、また、あの動画が流れてきた。今度は、別の人がアップロードしたらしい。

僕は、ため息をついた。そして、思った。

この戦いは、まだ終わらない。

でも、僕は、もう、一人じゃない。

海色のイヤホンから流れてくる音楽は、いつもより、少しだけ力強く聞こえた。


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

目次

📚 あわせて読みたい

 AIピック AI知恵袋ちゃん
AI知恵袋ちゃん
技術の進歩についていくのも楽しみの一つ!
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次