📝 この記事のポイント
- 2026年1月19日、東京は珍しく雪だった。
- 導入部 窓の外は、白い微熱に浮かされたようにぼやけていた。
- カフェラテの湯気が、さらに視界を曖昧にする。
2026年1月19日、東京は珍しく雪だった。
導入部
窓の外は、白い微熱に浮かされたようにぼやけていた。カフェラテの湯気が、さらに視界を曖昧にする。今日は在宅勤務の日だったはずなのに、なぜか都心のカフェにいる。理由は簡単で、家にいると仕事が全く手に付かないからだ。締切が迫っている企画書の文字が、頭の中で雪崩のように崩れていく。
向かいの席では、若い女性が熱心にスマホを操作している。恐らくSNSだろう。指先が忙しなく画面を滑り、時折、小さく笑みをこぼす。その様子をぼんやりと眺めていると、ふと、数日前に体験した出来事が頭をよぎった。
高崎線のグリーン車でのことだ。
展開部 – 電車内での出来事と、SNSの喧騒
週末の夕暮れ時、都心へ向かう電車は混雑していた。指定されたグリーン車の座席に座り、ほっと一息ついたのも束の間、異変に気づいた。デッキに、畳まれていないベビーカーが堂々と鎮座していたのだ。しかも、そのベビーカーの持ち主らしき人物は見当たらない。
その時は、幸いにも乗降客は少なかったが、それでもベビーカーを避けて通らなければならず、わずらわしさを感じた。心の中で「早く畳んでくれればいいのに」と呟いた。しかし、同時に、言い出すことへの躊躇もあった。もしかしたら、何か事情があるのかもしれない。それに、注意することで、逆に自分が悪者になる可能性も否定できない。
結局、私は何も言わずに、やり過ごした。
しかし、その出来事は、SNSで炎上していたある投稿を思い出させた。それは、まさに私が体験した状況と酷似していた。グリーン車のデッキにベビーカーが放置され、乗降の妨げになっているという内容だった。その投稿には、賛否両論、様々な意見が飛び交っていた。
「非常識だ!公共の場なんだから、周りの人に迷惑をかけるな!」
「仕方ないだろ。子育ては大変なんだから、少しは理解してやれよ!」
「ベビーカーを畳むスペースがない場合もあるんだから、一概に責められない。」
それぞれの意見は、もっともらしく、そして、どこか攻撃的だった。SNSのコメント欄は、まるで現代社会の縮図のようだった。正義と正義がぶつかり合い、相手を打ち負かそうとするエネルギーに満ち溢れていた。
私は、その喧騒を、ただ傍観していた。
展開部 – カフェでの思考と、同僚の言葉
カフェラテを一口飲む。苦味と甘みが混ざり合い、少しだけ心が落ち着く。
あの時、私は何をすべきだったのだろうか。ベビーカーの持ち主を探して注意すべきだったのか。それとも、SNSで意見を述べるべきだったのか。
どちらも、正解ではないような気がする。
結局、私は、見て見ぬふりをした。それは、事なかれ主義なのかもしれない。面倒なことに関わりたくないという、自己保身の表れなのかもしれない。しかし、同時に、私は、誰かを傷つけたくなかった。SNSの喧騒に巻き込まれたくなかった。
そんなことを考えていると、ふと、同僚の言葉を思い出した。
「最近、SNS疲れしてるんだよね。なんか、みんな怒ってばかりでさ。正論ばかり振りかざして、相手を叩きのめそうとするじゃん。疲れるよ、本当に。」
彼女は、いつも笑顔を絶やさない明るい女性だった。しかし、その時だけは、少し疲れたような表情をしていた。
彼女の言葉は、私の心に深く突き刺さった。
転換部 – 見えない壁と、コミュニケーションの難しさ
私たちは、いつからこんなにも攻撃的になってしまったのだろうか。
SNSは、コミュニケーションのツールであるはずなのに、いつの間にか、見えない壁を作り、分断を深める道具になってしまった。私たちは、互いの顔を見ずに、匿名という鎧を身にまとい、一方的に自分の意見を主張する。そして、相手の言葉に耳を傾けることを忘れてしまった。
電車での出来事、SNSの炎上、同僚の言葉。それらは、すべて繋がっているような気がした。私たちは、コミュニケーションの方法を忘れてしまったのだ。顔と顔を合わせて、言葉を交わし、互いの気持ちを理解しようとすることを、諦めてしまったのだ。
カフェラテを飲み干す。冷たくなったカップが、少しだけ寂しい。
結末部 – 静寂の中で、できること
雪は、まだ降り続けていた。窓の外は、相変わらず白い微熱に浮かされている。
私は、企画書の文字を再び見つめた。締切は迫っている。やらなければならないことはたくさんある。
しかし、その前に、私は、何かできることがあるような気がした。
それは、大きなことではない。SNSで正論を振りかざすことでもない。ただ、目の前にいる人に、優しく微笑みかけること。相手の言葉に、真剣に耳を傾けること。そして、自分の気持ちを、正直に伝えること。
そんな、ささやかなことから、始めてみようと思った。
カフェを出て、駅へ向かう。雪は、少し弱まってきた。
高崎線のホームに降り立つと、電車がちょうど到着した。乗り込むと、幸いにも座席が空いていた。窓際の席に座り、外を眺める。雪景色が、ゆっくりと流れていく。
ふと、隣の席に座った女性が、小さな声で咳をした。私は、カバンからハンカチを取り出し、「どうぞ」と差し出した。
女性は、少し驚いたような表情で、私を見た。そして、小さく「ありがとうございます」と呟いた。
その言葉は、雪解け水のように、私の心に染み渡った。
静寂の車窓の外は、まだ白く霞んでいる。しかし、その白さは、どこか温かく、優しい色をしているように感じた。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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