📝 この記事のポイント
- 都心のカフェは、いつもと変わらず喧騒の中にあった。
- 窓際の席でMacBookを開き、カタカタとキーボードを叩いているのは、僕、コウタロウだ。
- 実態は、締め切りに追われる毎日を送る、ただのコーヒー中毒者だ。
2026年1月15日。都心のカフェは、いつもと変わらず喧騒の中にあった。窓際の席でMacBookを開き、カタカタとキーボードを叩いているのは、僕、コウタロウだ。28歳。肩書きはフリーランスのWebライター。実態は、締め切りに追われる毎日を送る、ただのコーヒー中毒者だ。
今日の締め切りは、とある自動車雑誌のコラム記事。テーマは「未来の車社会」。自動運転だとか、AI搭載だとか、夢物語みたいな話はもう聞き飽きた。もっとリアルな、泥臭い部分を書きたい。そう思って、街を歩き回っていたら、信号待ちで一台のハイエースが目に飛び込んできた。
黒塗りのボディ。そして、リアウィンドウに大きく描かれた、禍々しい和柄のストライプ。それはまるで、ヤンキー漫画に出てくる悪役の背中のようだった。
「うわ…」
思わず声が出た。あのデザイン、一体誰が考えたんだろう。そして、誰が買うんだろう。そんな疑問が頭を駆け巡った。
カフェに戻り、ネットで調べてみた。案の定、あの和柄ストライプは正規のオプションだった。トヨタ、恐るべし。一体どんな顧客層を想定しているんだ。
「客層を理解し過ぎてる」
そんな言葉が、記事の見出しに踊っていた。
その時、ふと、向かいの席に座る女性が目に入った。30代くらいだろうか。少し疲れた顔で、スマホをじっと見つめている。彼女の服装は、いわゆる「量産型」と呼ばれるものだった。特徴のないベージュのニットに、プリーツスカート。どこにでもいる、普通のOL。
でも、彼女の指先には、丁寧に手入れされたネイルが施されていた。淡いピンク色に、小さなラメが散りばめられている。
そのネイルを見て、僕はハッとした。
ハイエースの和柄ストライプと、彼女のネイル。一見、全く関係のないように見える二つのものが、僕の中で繋がった気がした。
「解像度の高い諦め」
それが、僕の出した結論だった。
ハイエースの和柄ストライプは、ある種の諦めの象徴だ。社会的な成功とか、スタイリッシュなライフスタイルとか、そういうものとは無縁の世界。ただひたすらに、自分の好きなものを貫き通す。周囲の目を気にせず、自分の価値観を大切にする。
一方、彼女のネイルもまた、諦めの裏返しなのかもしれない。毎日同じような服を着て、同じような仕事をこなし、同じような生活を送る。そんな彼女にとって、ネイルは、ほんの少しの抵抗であり、自己主張なのかもしれない。
僕自身も、似たようなものを抱えている。フリーランスという肩書きは、自由でクリエイティブなイメージがあるかもしれない。でも実際は、安定した収入もなく、常に将来への不安を抱えている。
それでも、僕はライターという仕事を選んだ。それは、自分の言葉で何かを表現したいという、ささやかな夢があったからだ。
でも、いつの間にか、その夢は、日々の生活に埋もれてしまった。締め切りに追われ、アクセス数を気にし、クライアントの意向に沿った記事を書く。そんな毎日の中で、僕は、自分の言葉を失ってしまった。
カフェを出て、駅に向かう途中、僕は、スマホを開き、SNSをチェックした。タイムラインには、キラキラしたライフスタイルを送る人々の投稿が溢れている。海外旅行の写真、高級レストランでの食事、ブランド物のバッグ。
それらを見るたびに、僕は、自分の生活とのギャップを感じ、落ち込んでしまう。
「いいね」
僕は、無意識に、いくつかの投稿に「いいね」を押した。それは、羨望の気持ちの裏返しなのかもしれない。
電車に乗り込むと、目の前に座った男性が、スマホでゲームをしていた。その画面には、派手なエフェクトと、甲高い音が響き渡っていた。
「うるさいな…」
そう思ったけれど、何も言えなかった。僕自身も、時間を持て余すと、スマホでゲームをすることがあるからだ。
家に帰り、パソコンを開き、コラム記事の続きを書いた。
「未来の車社会は、多様性の時代になるでしょう。自動運転やAI搭載といった技術革新だけでなく、人々の価値観も多様化していくはずです。ハイエースの和柄ストライプは、その多様性の象徴なのかもしれません」
そんなことを書いてみたけれど、なんだか、薄っぺらい気がした。
本当に書きたいことは、もっと違うことだ。
僕が本当に書きたいのは、ハイエースの背中に見える、解像度の高い諦めのこと。そして、その諦めを抱えながらも、必死に生きている人々のこと。
2026年1月15日。僕は、ハイエースの和柄ストライプを通して、現代社会のリアルな姿を見た。そして、自分自身も、その一部であることを痛感した。
夜空を見上げると、月が綺麗に輝いていた。
「明日も、頑張ろう」
そう呟いて、僕は、ベッドに入った。
でも、眠りにつくまでの間、ハイエースの背中と、彼女のネイルが、頭から離れることはなかった。そして、僕は、いつか、あの和柄ストライプのように、自分の好きなものを貫き通せる人間になりたいと、強く思った。
それは、まだ遠い、道のりのこと。
解像度の高い諦めを抱えながらも、僕たちは、今日も生きている。明日のことなんて、分からない。それでも、生きていくしかないのだ。
そして、その先に、きっと、何かが見つかるはずだ。そう信じて。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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