理想の歪みについて

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📝 この記事のポイント

  • 2026年1月13日、都内を走る満員電車の中。
  • 私は吊り革につかまりながら、目の前の広告をぼんやりと眺めていた。
  • 最新のスマートフォン、おしゃれなカフェの期間限定スイーツ、そして、人気アニメの劇場版告知。

2026年1月13日、都内を走る満員電車の中。私は吊り革につかまりながら、目の前の広告をぼんやりと眺めていた。最新のスマートフォン、おしゃれなカフェの期間限定スイーツ、そして、人気アニメの劇場版告知。どれもが、消費を促す鮮やかなイメージで溢れている。

ふと、そのアニメのキャラクターが目に留まった。主人公の宿敵である、冷酷非道な科学者。天才的な頭脳を持ちながら、倫理観は欠片もない。数々の悪行を重ね、多くの人々を苦しめてきた男だ。

「ああ、このキャラ、めっちゃ好きだわ」

心の中で呟いた瞬間、隣に立っていた若い女性が咳払いをした。反射的に謝罪する。別に声に出したわけじゃない。でも、もしかしたら、私の脳波が漏れ出ていたのかもしれない。それくらい、その科学者への熱い想いは、私の中で煮えたぎっていた。

しかし、同時に、別の感情も湧き上がってくる。もし、この科学者が現実に存在したら…?私は間違いなく、彼とは関わりたくない。同じ電車に乗り合わせるだけでも、心臓が止まるかもしれない。

これが、私の「オタク心」の複雑さだ。

「承」

カフェに場所を移し、私はパソコンを開いた。SNSをチェックすると、タイムラインは様々な情報で溢れている。政治的なニュース、芸能人のスキャンダル、友人たちの楽しそうな日常。その中に、件の科学者のファンアートを見つけた。絵師の卓越した技術と、キャラクターへの愛情が感じられる美しい作品だ。

コメント欄を覗くと、「〇〇様マジ尊い」「この狂気的な笑顔が好き」「結婚してくれ」といった熱烈な言葉が並んでいる。わかる、わかるよ。私も同じ気持ちだ。

でも、やっぱり、現実の私は、絶対に無理だ。

理想と現実のギャップ。それが、私にとっての「推し」という存在の核心にある。好きなキャラクターは、遠くから眺めているからこそ美しい。彼らの破綻した倫理観も、常軌を逸した行動も、物語の中では魅力的に見える。しかし、それが現実世界に持ち込まれたら、それはただの犯罪者だ。

恋愛だってそうだ。理想の恋人像は、完璧な王子様かもしれない。でも、実際に惹かれるのは、少し欠点のある、人間味溢れる人だったりする。完璧すぎる人は、逆に怖い。隙がないから、近づきにくい。

「転」

昔、付き合っていた彼氏に、この話を打ち明けたことがある。「好きなキャラと、実際に付き合いたい人は違うってこと?」と彼は尋ねた。私は頷いた。「だって、漫画のキャラは漫画の中だけで輝いているから。現実にいたら、絶対無理だよ」

彼は少し寂しそうな顔をした。「俺も、君にとっての漫画のキャラみたいな存在なのかな」

その時、私はハッとした。もしかしたら、私は、現実の人間に対して、理想を求めすぎていたのかもしれない。相手の欠点ばかりを見て、良いところを見ようとしていなかったのかもしれない。

完璧な人間なんていない。誰だって、欠点を持っている。それを許容できるかどうか。それが、人間関係を築く上で最も重要なことなのかもしれない。

2026年、SNSは人々の繋がりをより密接にした。しかし、その一方で、人々はより孤独になった。理想の自分、理想の人間関係を追い求めるあまり、現実とのギャップに苦しんでいる。

「結」

私は、パソコンを閉じた。カフェを出て、駅に向かう。夕焼け空が、街をオレンジ色に染めていた。

電車に乗り込む。今日もまた、多くの人々が、スマートフォンを眺めている。私も、思わずスマートフォンを取り出した。SNSを開き、件の科学者のファンアートをもう一度見た。

やっぱり、好きだ。でも、それは、あくまでも理想の世界の話だ。

現実の世界では、私は、目の前にいる人たちを大切にしたい。彼らの欠点も、弱さも、全てを受け入れて、共に生きていきたい。

ふと、隣に立っていた男性が、イヤホンを外した。「すみません、ちょっと聞いてもいいですか?そのアニメ、面白いですか?」

私は笑顔で答えた。「すごく面白いですよ。でも、ちょっと複雑な話です」

電車は、ガタンゴトンと音を立てながら、夜の街を走り続ける。2026年の東京は、今日もまた、多くの人々の夢と希望と、そして、少しの孤独を乗せて、動き続けている。

理想の歪みを受け入れ、現実と向き合いながら、私たちは生きていく。その先に、何があるのだろうか。それは、まだ誰にもわからない。

ただ、言えることは、現実は、決して悪くないということだ。完璧ではないからこそ、面白い。

私は、そう信じたい。


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

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