青い林檎と自虐のブルースについて

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📝 この記事のポイント

  • 今日の東京は珍しく空気が澄んでいて、遠くのビルの輪郭までくっきりと見える。
  • スマートフォンをいじりながら、ぼんやりと外を眺めているのは、私、ミサキ、27歳。
  • 肩書きはWebデザイナー、実態は都心で消耗するただのデジタル難民だ。

2026年1月11日。日曜日。

都心のカフェ、窓際の席。目の前には湯気を立てるカフェラテ。今日の東京は珍しく空気が澄んでいて、遠くのビルの輪郭までくっきりと見える。スマートフォンをいじりながら、ぼんやりと外を眺めているのは、私、ミサキ、27歳。肩書きはWebデザイナー、実態は都心で消耗するただのデジタル難民だ。

(あーあ、また炎上してる…)

タイムラインに流れてくるのは、どこかの企業アカウントの失言だったり、インフルエンサーの過去のやらかしだったり、毎度おなじみの光景。SNSはもはや、他人の不幸を燃料に燃え盛る巨大な焚き火だ。私もその火の粉を浴びながら、ため息をつく。

「ミサキさん?」

声をかけられて顔を上げると、大学時代の友人、ユウキが立っていた。

「ユウキ!偶然だね!」

ユウキはにっこり笑って、向かいの席に腰を下ろした。彼は大学卒業後、青森に戻って家業のリンゴ農家を継いでいる。SNSで彼の投稿を見るたびに、私は都会の喧騒に疲れた心を癒されていた。広大なリンゴ畑、夕焼け空、ユウキの笑顔。どれもが、私の目に眩しく映る。

「東京はどう?相変わらず忙しい?」

「まあね。毎日、満員電車に揺られて、パソコンとにらめっこだよ」

私は自嘲気味に笑った。ユウキは少し困ったような顔をして、「大変だね」と呟いた。

「でも、ミサキは都会で頑張ってるんだから、すごいよ。俺なんて、実家を継いでるだけだし」

ユウキの言葉に、私は少し引っかかった。ユウキのリンゴ農家は、代々続く立派な家業だ。それを「だけ」と言う必要なんてないはずなのに。

「そんなことないよ!ユウキのリンゴ、すごく美味しいし。それに、自然の中で働くって、すごく魅力的だと思う」

私は必死に言葉を紡いだ。しかし、ユウキはどこか納得していない様子だった。

「ありがとう。でも、やっぱり田舎は退屈だよ。都会みたいに刺激的なことは何もないし」

ユウキの言葉に、私は青森で暮らしていた頃の記憶が蘇ってきた。高校時代、私は同じように田舎を嫌っていた。何もない、つまらない場所だと。東京への憧れだけが、私の原動力だった。

(私も、昔はユウキと同じだったんだ…)

その日の夜、ユウキとの会話が頭から離れなかった。SNSを眺めていると、青森出身のインフルエンサーが、地元の魅力を発信する動画をアップしていた。美しい風景、美味しい郷土料理、温かい人々。どれもが、私にとって懐かしいものばかりだった。

しかし、コメント欄には、批判的な意見も少なくなかった。

「どうせ、観光客向けのPRでしょ?」
「青森なんて、冬は雪ばかりで何もできない」
「結局、都会には勝てないんだよ」

私は、これらのコメントに、ユウキの言葉が重なっているように感じた。青森の人々は、なぜこんなにも地元を卑下するのだろうか?

翌日、私は会社で、上司である課長のサトウさんに相談してみることにした。サトウさんは、青森出身で、東京に出てきて20年以上になるベテラン社員だ。

「サトウさん、ちょっと相談があるんですけど…」

私は、ユウキとの会話と、SNSのコメントについて話した。サトウさんは、私の話を静かに聞いていた。

「ああ、わかるよ。青森の人って、結構、地元を卑下する人が多いんだよね」

サトウさんは、少し寂しそうな顔で言った。

「なんでですかね?あんなに素敵なところなのに」

「それはね、たぶん、青森の人が、完璧主義者だからだよ」

サトウさんの言葉に、私は少し驚いた。完璧主義者?

「青森の人って、真面目で努力家が多いんだ。だから、常に自分たちの足りないところばかり見てしまう。もっとこうすれば良くなる、もっと頑張らなければならない、ってね。それは、良いことでもあるんだけど、行き過ぎると、自分たちの良いところが見えなくなってしまうんだ」

サトウさんは、自分の体験談を語ってくれた。東京に出てきたばかりの頃、サトウさんも、青森訛りをからかわれたり、田舎者扱いされたりすることが多かったという。その度に、サトウさんは、自分の出身地を恥ずかしいと思うようになった。

「でもね、時間が経つにつれて、気づいたんだ。自分が青森出身であることを誇りに思わなければ、誰も青森の良さを認めてくれないって。だから、私は、青森の魅力を積極的に発信するようになったんだ。青森の歴史や文化、美味しい食べ物、そして、温かい人々。それを、自分の言葉で伝えていくうちに、周りの人も、青森に興味を持つようになったんだ」

サトウさんの言葉は、私の心に深く響いた。私は、自分がこれまで、どれだけ青森の良さを見ていなかったのかを痛感した。

(私も、もっと青森の良いところを探してみよう)

私は、週末に、青森の食材を使った料理を作ることにした。インターネットでレシピを検索し、スーパーで青森産のリンゴやホタテ、ネギなどを買い込んだ。料理をしていると、青森にいた頃の記憶が蘇ってきた。家族で囲んだ食卓、友達と遊んだ公園、夏祭りの賑わい。どれもが、私にとってかけがえのない宝物だった。

料理を作り終えて、私はSNSに写真をアップした。

「今日の晩御飯は、青森づくし!リンゴのサラダ、ホタテのバター焼き、ネギ味噌汁。どれも最高に美味しい!」

すると、すぐにたくさんのコメントが寄せられた。

「美味しそう!私も青森の食材、大好き!」
「私も青森出身です!なんだか嬉しいな」
「青森、いつか行ってみたい!」

私は、これらのコメントを読んで、胸が熱くなった。自分が発信することで、誰かが青森に興味を持ってくれるかもしれない。それだけで、私は幸せな気持ちになった。

数日後、ユウキから連絡があった。

「ミサキ、あのさ、前に話したこと、ちょっと言い過ぎたかもしれない。ごめん」

ユウキは、少し照れくさそうに言った。

「どうしたの?」

「ミサキのSNSを見て、ちょっと考え直したんだ。俺も、もっと自分の仕事に誇りを持たないといけないなって。それに、青森には、都会にはない魅力がたくさんあるって、改めて気づいたんだ」

ユウキの言葉に、私は嬉しくなった。

「ユウキ、ありがとう。私も、もっと青森のことを好きになりたいと思ってるよ」

電話を切った後、私は、自分の心境の変化に気づいた。かつて、私は、東京にいることが、自分の価値を高めることだと思っていた。しかし、今は違う。どこにいるかではなく、何をするかが大切なんだと気づいた。私は、青森出身であることを誇りに思い、自分の言葉で、青森の魅力を発信していきたい。それが、私にできることだと信じている。

2026年1月11日。あの日、私はカフェでユウキと再会し、青森に対する新たな視点を得た。それは、私にとって、大きな転換点となった。

私は、カフェラテを飲み干し、立ち上がった。澄み切った空の下、私は、新しい一歩を踏み出す決意をした。

(よし、今日も頑張ろう!)

私は、スマートフォンを手に取り、タイムラインを開いた。そして、例の炎上案件について、少し調べてみることにした。もしかしたら、私にできることがあるかもしれない。

東京の喧騒の中に、私は、希望の光を見出した。それは、青森の青い林檎のように、甘酸っぱくて、力強い光だった。

(了)


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

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成功事例から学べることって多いよね〜
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