📝 この記事のポイント
- 満員電車に揺られながら、窓にへばりつく雪をぼんやりと眺めていた。
- 向かいに立つ女性は、スマホの画面に釘付けで、時折小さく笑みをこぼしている。
- きっと、何か面白い動画でも見ているのだろう。
2026年1月10日。東京は珍しく雪が舞っていた。
満員電車に揺られながら、窓にへばりつく雪をぼんやりと眺めていた。向かいに立つ女性は、スマホの画面に釘付けで、時折小さく笑みをこぼしている。きっと、何か面白い動画でも見ているのだろう。僕はといえば、今日のプレゼン資料の最終チェックで頭がいっぱいだった。
「次は、新宿、新宿。」
アナウンスが響き、ドアが開く。冷たい空気が一気に流れ込んできた。僕は、肩をすくめながら、リュックを抱え直した。
僕の名前は、ユウタ。28歳。都内のIT企業で働く、ごく普通のサラリーマンだ。
新宿駅で降り、オフィスに向かう道すがら、雪だるまを見つけた。小さな、子供が作ったような、歪な雪だるま。誰かが折れた木の枝を突き刺して、腕に見立てている。その姿は、どこか滑稽で、そして、少しだけ愛おしかった。
都会の雪は、すぐに汚れてしまう。アスファルトの上で、無残に溶けていく運命にある。この雪だるまも、きっとそうだ。明日には、跡形もなく消え去っているだろう。
そんなことを考えていると、ふと、小学生の頃の記憶が蘇ってきた。
雪が降ると、友達と公園に集まって、雪だるまを作った。最初は、ただ雪を丸めるだけだったけれど、だんだんと、それぞれが個性を出し始めた。鼻にはニンジンを、目には石炭を。マフラーを巻いたり、帽子を被せたり。
出来上がった雪だるまを前に、みんなで得意げに笑い合った。あの時の、無邪気な喜び。あの時の、心の底から湧き上がる幸福感。
いつから、こんな気持ちを忘れてしまったのだろう。
オフィスに着き、プレゼン資料の最終確認に取り掛かる。数字とグラフが羅列された画面を睨みながら、僕は、先ほどの雪だるまのことを考えていた。
なぜ、あんなにも心が惹かれたのだろうか。
それは、きっと、雪だるまが、何かを象徴しているからだ。
雪だるまは、無垢さの象徴だ。純粋な雪が集まって、形作られる。それは、まるで、生まれたばかりの赤ん坊のようだ。
雪だるまは、儚さの象徴だ。太陽の光を浴びれば、あっという間に溶けてしまう。それは、まるで、人生の儚さのようだ。
雪だるまは、希望の象徴だ。寒い冬を乗り越え、春の訪れを告げる。それは、まるで、困難を乗り越えた先にある、明るい未来のようだ。
僕たちは、いつの間にか、そんな大切なことを忘れてしまっている。
毎日、時間に追われ、数字に追われ、競争に明け暮れる。
自分の夢や希望を、いつの間にか、押し殺してしまう。
気がつけば、心は乾ききって、まるで、砂漠のようになってしまっている。
昼休み、僕は、オフィス近くのカフェに行った。窓際の席に座り、熱いコーヒーを飲みながら、外を眺めていた。
雪は、まだ降り続けていた。
カフェの窓から見える景色は、どこかモノクロームに見えた。行き交う人々は、皆、同じような表情で、同じような格好をしている。まるで、ロボットのようだ。
僕は、そんな光景を眺めながら、ふと、SNSのことを考えていた。
僕たちは、SNSで、自分の「理想の姿」を演じている。
キラキラした生活、楽しそうな旅行、美味しそうな食事。
そんな写真や動画をアップして、他人からの「いいね!」を求めている。
でも、それは、本当に自分なのだろうか。
それは、ただの「虚像」ではないのだろうか。
SNSの世界は、まるで、巨大なテーマパークのようだ。
そこでは、誰もが「幸せ」を演じている。
でも、その裏側には、孤独や不安、焦燥感が渦巻いている。
僕たちは、そんな世界に、どっぷりと浸かってしまっている。
夕方、プレゼンは、無事に終わった。
上司からは、「よくやった」と褒められた。
同僚からは、「さすがだね」と称賛された。
でも、僕の心は、なぜか満たされなかった。
まるで、空っぽの器のようだ。
オフィスを出て、帰路につく。
雪は、すっかり止んでいた。
街の明かりが、アスファルトに反射して、キラキラと輝いている。
僕は、ふと、雪だるまのことを思い出した。
明日には、もう、跡形もなく消え去っているだろう。
それでも、あの雪だるまは、確かにそこに存在していた。
短い間だったけれど、誰かの心を温めた。
誰かの心を癒した。
誰かの心を照らした。
僕は、そんな雪だるまに、敬意を表したいと思った。
家に帰り、僕は、パソコンを開いた。
そして、ブログに、今日の出来事を書き始めた。
雪だるまのこと。
SNSのこと。
自分の心の奥底にある、葛藤や不安のこと。
書いているうちに、心が少しずつ軽くなっていくのを感じた。
まるで、心の澱が、洗い流されていくようだ。
書き終えて、僕は、ブログを公開した。
数時間後、ブログには、たくさんのコメントが寄せられていた。
「共感しました」
「私も同じことを考えていました」
「勇気づけられました」
そんなコメントを読んでいると、心が温かくなった。
僕は、一人じゃないんだ。
そう思った。
2026年1月10日。
雪が降った、ただの、一日。
でも、僕にとっては、特別な一日になった。
雪だるまのレゾンデートルについて。
僕は、まだ、答えを見つけられていない。
でも、きっと、いつか、見つけることができるだろう。
それまで、僕は、自分の心に正直に、生きていきたい。
ありのままの自分を、愛せるように。
誰かの心を、温められるように。
誰かの心を、癒せるように。
誰かの心を、照らせるように。
そして、いつか、自分自身のレゾンデートルを見つけられるように。
そう願いながら、僕は、眠りについた。
※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
📚 あわせて読みたい


コメント