トー横の月と決闘罪について

📝 この記事のポイント

  • 押しつぶされそうな空間で、吊り革につかまる僕の耳には、イヤホンから流れる音楽が辛うじて届いている。
  • 隣に立っているのは、明らかに睡眠不足そうな顔をした若い女性。
  • その肩に、僕のリュックが何度もぶつかってしまう。

2026年1月9日。いつものように満員電車に揺られていた。押しつぶされそうな空間で、吊り革につかまる僕の耳には、イヤホンから流れる音楽が辛うじて届いている。隣に立っているのは、明らかに睡眠不足そうな顔をした若い女性。その肩に、僕のリュックが何度もぶつかってしまう。申し訳ないと思いつつも、身動きが取れない。

最近、仕事が立て込んでいて、僕自身も睡眠不足気味だ。毎日同じようなことの繰り返し。エクセルとにらめっこして、意味不明なカタカナ用語が飛び交う会議に出席して、気づけば終電間際。まるでハムスターが回し車を回しているかのような日々だ。

ふと、スマートフォンを開くと、ニュースアプリのトップに「歌舞伎町トー横で決闘し相手を死なせた男が逮捕」という記事が目に入った。正確には、その記事をまとめたまとめサイトへのリンクだったけれど。

「決闘罪」。明治時代から存在する法律で、現代ではほとんど適用されることがない珍しいものらしい。まるで時代劇のような単語が、トー横という現代的な場所と結びついていることに、なんだか妙な違和感を覚えた。

電車を降り、オフィス街を歩く。カフェのテラス席では、若い男女が楽しそうに談笑している。その光景を横目に、僕はコンビニで買ったコーヒーをすすった。

オフィスに着くと、案の定、上司からの無茶振りが待っていた。昨日提出したばかりの資料に、またしても修正指示が入ったのだ。ため息をつきながら、僕はパソコンに向かった。

今日のランチは、会社の近くにある定食屋にした。そこは、昔ながらの雰囲気が漂う、僕にとって数少ない癒やしの場所だ。カウンター席に座り、日替わり定食を注文する。

隣に座ったのは、同じ会社の先輩であるタナカさんだった。彼はいつもニコニコしていて、誰にでも優しく接する、いわゆる「いい人」だ。

「お、今日は日替わりですか? 僕もそれにしようかな」

タナカさんはそう言うと、店員さんに日替わり定食を注文した。

「そういえば、ニュース見ました? トー横で決闘があったみたいですよ」

僕は、電車の中で見たニュースのことをタナカさんに話した。

「ああ、見ましたよ。決闘罪って、すごいですよね。まるで時代錯誤みたい」

タナカさんは笑いながら言った。

「でも、考えようによっては、現代社会の歪みが表れているのかもしれませんね」

僕は、そう呟いた。

「歪み、ですか?」

タナカさんは、少し不思議そうな顔をした。

「ええ。現代社会って、ストレスが溜まりやすいじゃないですか。競争社会で、常に他人と比べられて、結果を出さなければならない。そんな中で、行き場を失った若者たちが、トー横に集まって、そこで何らかの繋がりを求めているのかもしれない。決闘は、その一つの形なのかもしれない」

僕は、自分の考えをタナカさんに伝えた。

「なるほどね。確かに、そういう側面もあるかもしれませんね。現代社会は、生きづらいと感じている人が多いですから」

タナカさんは、納得したように頷いた。

「僕も、正直、毎日が辛いですよ。仕事はつまらないし、将来の展望も見えないし。たまに、全てを投げ出して、どこか遠くへ行きたくなることもあります」

僕は、自分の正直な気持ちをタナカさんに打ち明けた。

「そうですよね。僕も、若い頃はそう思っていましたよ。でも、人生って、案外、悪くないものですよ。辛いことばかりじゃないし、楽しいことだってたくさんある。それに、生きていれば、いつか良いことがあるかもしれません」

タナカさんは、優しい笑顔でそう言った。

タナカさんの言葉を聞いて、僕は少しだけ心が軽くなった気がした。確かに、人生は辛いことばかりじゃない。楽しいことだって、たくさんあるはずだ。

その日の夜、僕は久しぶりに地元の友達と飲みに行くことにした。集まったのは、小学校からの幼馴染であるケンジとユウタだった。

ケンジは、地元の企業でサラリーマンをしている。真面目な性格で、堅実な人生を送っている。ユウタは、フリーランスのカメラマンとして活動している。自由奔放な性格で、常に新しいことに挑戦している。

いつものように、近所の居酒屋で集まり、近況報告をし合った。

「そういえば、お前ら、ニュース見た? トー横で決闘があったらしいぞ」

ケンジが、そう切り出した。

「ああ、見た見た。決闘罪とか、マジありえないよね。時代錯誤も甚だしい」

ユウタは、呆れたように言った。

「でも、俺は、少しだけ同情しちゃうんだよね」

僕は、そう言った。

「え、なんで?」

ケンジとユウタは、同時に聞き返した。

「だって、決闘って、ある意味、最後の手段じゃないですか。どうしても解決できない問題を、暴力で解決しようとする。それは、決して褒められたことではないけれど、追い詰められた人にとっては、それしか選択肢がないのかもしれない」

僕は、自分の考えをケンジとユウタに伝えた。

「まあ、気持ちは分からなくもないけどね。でも、暴力は絶対にダメだよ」

ケンジは、真面目な顔でそう言った。

「そうだね。でも、現代社会って、暴力的な側面もあると思うんだよね。例えば、パワハラとか、モラハラとか。言葉の暴力で、人を傷つけることだってある。それも、ある意味、決闘みたいなものなのかもしれない」

ユウタは、そう言った。

ユウタの言葉を聞いて、僕はハッとした。確かに、現代社会には、様々な形の暴力が存在する。言葉の暴力、経済的な暴力、精神的な暴力。それらは、目に見えないけれど、確実に人を傷つけている。

そして、僕自身も、その暴力に晒されているのかもしれない。仕事でのプレッシャー、将来への不安、人間関係の悩み。それらは、僕の心を少しずつ蝕んでいる。

飲み会が終わると、僕は一人で夜道を歩いた。空には、満月が輝いていた。その光は、トー横の暗闇を照らしているのだろうか。

ふと、僕は、トー横に集まる若者たちのことを考えた。彼らは、一体何を求めているのだろうか。安らぎ、繋がり、希望。それらは、現代社会では手に入りにくいものなのかもしれない。

僕自身も、同じように、何かを求めているのかもしれない。生きる意味、幸せ、充実感。それらは、どこにあるのだろうか。

家に帰り、ベッドに横になった。眠りにつく前に、僕はスマートフォンを開き、トー横のニュースをもう一度読んだ。

決闘罪。それは、時代錯誤な法律かもしれない。しかし、その背景には、現代社会の歪みが隠されている。そして、僕自身も、その歪みの中に生きている。

僕は、そう感じた。

翌日、僕は会社を休むことにした。久しぶりに、ゆっくりと時間を過ごしたかった。

午前中は、近くの公園を散歩した。冬の公園は、ひっそりとしていて、静寂に包まれていた。

午後は、図書館に行った。そこで、偶然、一冊の本を見つけた。「決闘裁判」というタイトルだった。

その本は、中世ヨーロッパにおける決闘裁判の歴史について書かれていた。決闘裁判とは、神判の一種で、当事者同士が決闘を行い、勝利した方を正当とする裁判方法のことだ。

僕は、その本を読み始めた。決闘裁判は、野蛮な制度かもしれない。しかし、そこには、人間の尊厳や名誉を守ろうとする強い意志が込められている。

僕は、そう感じた。

夕方、僕は近所のカフェに行った。窓際の席に座り、コーヒーを飲みながら、今日の出来事を振り返った。

トー横の決闘事件、タナカさんの言葉、友達との飲み会、図書館で見つけた本。それらは、全て、僕の心に何らかの痕跡を残した。

そして、僕は、一つの結論に達した。

現代社会は、確かに歪んでいる。しかし、その中で、僕たちは、自分自身の尊厳や名誉を守りながら、生きていかなければならない。

そのためには、まず、自分自身と向き合い、本当に求めているものを見つける必要がある。そして、そのために、行動を起こさなければならない。

それは、決して簡単なことではない。困難や挫折もあるかもしれない。しかし、それでも、諦めずに、前を向いて歩いていくしかない。

それが、僕たちの生きる道なのだ。

カフェを出て、夜空を見上げた。満月は、昨日よりも少し欠けていた。しかし、その光は、変わらず、力強く輝いていた。

僕は、その光を見つめながら、自分の未来を想像した。それは、決して明るい未来ではないかもしれない。しかし、希望に満ちた未来であることを信じている。

2026年1月9日。この日の出来事は、僕の人生において、小さな転換点となった。そして、僕は、新たな一歩を踏み出す決意をした。

数日後、僕は思い切って上司に退職願を提出した。理由は、自分の本当にやりたいことを見つけたから、と伝えた。上司は驚いていたけれど、最終的には僕の決意を尊重してくれた。

そして、僕は、フリーランスのライターとして活動を始めることにした。自分の言葉で、現代社会の歪みを伝え、人々の心に響く文章を書きたい。それが、今の僕の目標だ。

トー横の月は、今日も変わらず、歌舞伎町の夜空を照らしている。その光は、迷える若者たちを導き、そして、僕自身の未来を照らしてくれるだろう。

この決闘罪を巡る一連の出来事は、僕にとって、ただのニュース記事では終わらなかった。それは、現代社会を生きる僕自身の存在意義を問い直す、静かなる決闘の始まりだったのだ。そして、僕の闘いは、まだ始まったばかりだ。


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

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