モニター越しの正義感と、カフェラテの泡のこと

📝 この記事のポイント

  • 新年初出勤から数日経ち、ようやくエンジンがかかり始めたオフィスは、依然としてどこかお正月ボケの空気をまとっていた。
  • 私はいつものように、近所のカフェでテイクアウトのカフェラテを注文し、オフィスへと戻る道を歩いていた。
  • カフェラテの温かさが指先からじんわりと伝わってくる。

2026年1月5日。新年初出勤から数日経ち、ようやくエンジンがかかり始めたオフィスは、依然としてどこかお正月ボケの空気をまとっていた。私はいつものように、近所のカフェでテイクアウトのカフェラテを注文し、オフィスへと戻る道を歩いていた。

カフェラテの温かさが指先からじんわりと伝わってくる。一口飲むと、エスプレッソの苦味とミルクの甘さが混ざり合い、少しだけ憂鬱だった気持ちがほぐれていく。しかし、その束の間の幸福感も、スマホの通知音によって打ち砕かれた。

それは、いつものように、SNSのタイムラインを埋め尽くすニュース記事の速報だった。

「AI画像生成、無断加工問題で炎上。著名人も被害訴え」

Grok… またか。

最近、AIによる画像生成技術の進化は目覚ましい。まるで魔法のように、指示通りの画像を瞬時に生成してくれる。しかし、その裏側には、著作権や肖像権といった倫理的な問題が山積している。特に、無断で学習されたデータを用いた画像の加工は、深刻な問題を引き起こしている。

今回の炎上は、著名人の写真が無断で加工され、わいせつな画像として拡散されたことがきっかけだった。当然、非難の声が殺到し、開発企業は謝罪に追われた。

私は記事を読み進めながら、カフェラテの泡が消えていくのをぼんやりと眺めていた。炎上の経緯自体は、もはや珍しいものではない。しかし、コメント欄に目をやると、案の定、目を覆いたくなるような言葉が並んでいた。

「ミニスカートを履いてたら痴漢されるのは当然」
「露出度の高い写真を出してる方が悪い」
「被害者にも隙があったんじゃないか」

まるで、あの時の光景が蘇ってくるようだった。

数年前、私もSNSで心無い言葉を浴びせられた経験がある。ある日、私が何気なくアップした写真が、匿名掲示板で晒し上げられたのだ。「顔が濃い」「スタイルが悪い」「センスがない」… 容姿に関する誹謗中傷はもちろん、家族や友人に対する侮辱的な言葉も書き込まれていた。

最初は、ただただショックだった。見ず知らずの人から、ここまで酷い言葉を投げつけられるなんて、想像もしていなかった。しかし、時間が経つにつれて、怒りや憎しみに変わっていった。なぜ、私はこんな目に遭わなければならないのか。なぜ、彼らは私を傷つける権利があると思っているのか。

私は、必死に反論した。自分の言葉で、自分の思いを伝えた。しかし、相手は匿名だ。いくら訴えても、届かない。むしろ、反論すればするほど、攻撃はエスカレートしていった。

最終的に、私はSNSを一時的に閉鎖せざるを得なかった。心身ともに疲れ果て、日常生活を送るのも困難になっていたからだ。

カフェラテを飲み干し、オフィスへと向かう。あの時と今では状況が違う。今回は、AIによる画像加工という、より複雑な問題だ。しかし、根底にあるものは同じだ。それは、「弱者叩き」という、人間の醜い感情だ。

「ミニスカートを履いてたら痴漢されるのは当然」

この言葉は、まさに弱者叩きの典型だ。被害者に非があるかのように言い、加害者の責任を矮小化しようとする。まるで、ミニスカートを履くという行為が、痴漢を誘発する原因であるかのように。

しかし、本当にそうだろうか。

ミニスカートを履くことは、自由だ。誰にも、それを咎める権利はない。痴漢をする人間が悪いのであって、ミニスカートを履いている人が悪いわけではない。

私は、オフィスに着くと、パソコンを開き、SNSをチェックした。案の定、炎上はさらに広がっていた。著名人だけでなく、一般のユーザーも被害に遭っているようだ。

あるユーザーは、自分の子供の写真が無断で加工され、児童ポルノとして拡散されたと訴えていた。また、別のユーザーは、自分の顔写真がアダルトサイトに無断転載されたと訴えていた。

私は、いてもたってもいられなくなり、キーボードを叩き始めた。

「AIによる画像加工は、技術の進歩が生み出した新たな脅威です。しかし、それ以上に恐ろしいのは、それを利用して他人を傷つける人間の悪意です。私たちは、技術の進歩に目を奪われるだけでなく、その裏側に潜む倫理的な問題にも目を向ける必要があります。そして、何よりも大切なのは、被害者に寄り添い、加害者を厳しく糾弾することです。」

私は、自分の思いを綴ったメッセージを、SNSに投稿した。

投稿後、すぐに、様々な反応が寄せられた。

「よく言った!」「その通り!」「私も同じことを思っていた!」… 共感の声が多数寄せられた一方で、批判的なコメントもいくつか見られた。

「綺麗事だ」「現実を見ろ」「そんなこと言っても何も変わらない」

私は、批判的なコメントを一つ一つ丁寧に読んだ。彼らの言い分も、理解できなくはない。現実問題として、AI技術の悪用を防ぐことは容易ではないし、SNSでの誹謗中傷を根絶することも難しい。

しかし、それでも、諦めるわけにはいかない。

沈黙は、容認を意味する。何もしないことは、加害者を助長することになる。

私は、そう信じている。

数日後、私は、同僚のサチとランチに出かけた。サチは、私よりも少し年上で、頼りになる先輩だ。

「例のAI画像加工の件、大変だったね」

サチは、私の顔を見て、そう言った。

「うん… 結局、何もできなかったけど」

私は、肩を落とした。

「そんなことないよ。あなたが声を上げたことは、きっと誰かの心に響いたはずだよ」

サチは、優しく微笑んだ。

「でも… 現実は、何も変わってない。AIによる画像加工は、依然として横行しているし、SNSでの誹謗中傷も後を絶たない」

私は、そう言い返した。

「それは、そうかもしれない。でも、少しずつでも、変えていくしかないんだよ。一人ひとりが、自分の出来ることをする。それが、社会を変える第一歩なんだから」

サチは、そう言って、私の手を握った。

サチの言葉は、私の心に深く響いた。そうだ。私は、一人じゃない。私と同じように、社会を変えたいと思っている人が、きっとたくさんいるはずだ。

私は、再び、立ち上がろうと思った。

夕方、私は、オフィスを出て、いつものカフェに立ち寄った。カフェラテを注文し、窓際の席に座った。

外は、すっかり暗くなっていた。街灯が、優しく道を照らしている。

私は、カフェラテを一口飲んだ。エスプレッソの苦味とミルクの甘さが、再び、私の心を癒してくれる。

ふと、隣の席に座っている女性が目に入った。彼女は、スマホを見ながら、何かを書き込んでいるようだ。

私は、彼女のスマホの画面を覗き込んだ。

「AIによる画像加工は、絶対に許さない!被害者を守るために、私たちに出来ることをしよう!」

その言葉を見た瞬間、私の胸に、熱いものがこみ上げてきた。

ああ、やっぱり、一人じゃないんだ。

私は、カフェラテを飲み干し、立ち上がった。

明日から、また、頑張ろう。

カフェを出て、夜道を歩く。冷たい風が、私の頬を撫でる。

しかし、不思議と、寒さは感じなかった。

私は、空を見上げた。満月が、優しく私を照らしている。

私は、深呼吸をした。

そして、心の中で、こう呟いた。

「世界は、きっと、少しずつ、良くなっていく。」

そして、2026年の冬は、いつもより少しだけ、暖かく感じられた。カフェラテの泡のように儚い希望かもしれないけれど、確かにそこにある温かさを信じて、私たちは生きていくのだ。


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

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