📝 この記事のポイント
- 大晦日の午後、オフィス街の喧騒は嘘のように静まり返っていました。
- 多くの人が家族と過ごしたり、カウントダウンイベントに向かったりする中、私は企画書の最後の仕上げに没頭していました。
- カチカチとキーボードを叩く音だけが、殺風景なオフィスに響き渡るんです。
大晦日の午後、オフィス街の喧騒は嘘のように静まり返っていました。多くの人が家族と過ごしたり、カウントダウンイベントに向かったりする中、私は企画書の最後の仕上げに没頭していました。カチカチとキーボードを叩く音だけが、殺風景なオフィスに響き渡るんです。窓の外はどんよりとした曇り空で、異常気象の影響で12月なのに雨が多い。温暖化対策は進んでいるはずなのに、現実は理想とは程遠いな、なんてことを考えていたら、無性に甘酸っぱいものが欲しくなりました。
そうだ、あの自販機に行ってみよう。オフィスビルの一階には、最近設置されたばかりの「生搾りオレンジジュース」の自動販売機があるんです。新鮮なオレンジをその場で絞ってくれるという触れ込みで、SNSでもちょっとした話題になっていたのを知って、私も何度か利用していました。そのフレッシュな味わいにすっかりハマっていたんです。まさか、いつものルーティンが、あんな展開になるとは、その時の私は知る由もなかったんですけどね。
最初の印象
ロビーに出ると、予想通り人影はまばらでした。自動販売機の前まで歩いていくと、いつもの鮮やかなオレンジ色の筐体が目に飛び込んできます。液晶画面には「搾りたて!ビタミンチャージ!」という文字が躍っていて、私も「よし、ビタミン補給だ!」なんて気分になっていました。
500円玉を投入し、ボタンを押す。ゴトゴトと機械が動き出し、内部でオレンジが転がる音が聞こえてきました。いつもなら、ここからオレンジが半分にカットされ、「ギューッ」と絞られる音が聞こえるはずなんです。でも、今回は何かがおかしい。絞る音がしないんです。代わりに聞こえたのは、「ガシャン!」という、何かが落下するような音でした。「ん?」と不審に思いながら取り出し口を覗き込むと、そこには、オレンジジュースではなく、なんと、丸ごとのオレンジが、コップの中に鎮座しているではありませんか。思わず「え?」って声が出ちゃいましたよ。本当に、マジか、って感じでした。
実際に使ってみて
まさかの丸ごとオレンジを手に取ると、ずっしりとした重みが伝わってきました。表面には少し傷があるものの、見るからに新鮮で瑞々しい。求めていたのは搾りたての冷たいジュースだったんですけど、目の前にあるのは紛れもない、皮付きのオレンジそのもの。唖然として自販機の前で立ち尽くしていると、同僚のミサキが近づいてきました。私の顔を見て心配そうに声をかけてきたので、コップに入ったオレンジを見せながら事情を説明したんです。
するとミサキは、それを見るなり目を丸くして笑い出しました。「えー!ウケる!そんなことあるんだ!ある意味レアケースじゃん!」って。笑いながらスマホを取り出して写真を撮り始めたのには、私も苦笑いするしかありませんでした。「SNSにアップしてもいい?『生搾りオレンジジュース自販機、オレンジ丸ごと事件』ってタイトルで」なんて言われたりして。でも、彼女の屈託のない笑顔と「贅沢じゃない?」「得した気分」という言葉を聞いて、私のモヤモヤした気持ちが少しだけ楽になったんです。確かに、普通なら「ハズレを引いた」としか思えない状況が、彼女の視点では「特別な体験」に変わるんだな、とハッとさせられました。
良かったところ
今回の丸ごとオレンジ事件は、私にとっていくつかの「良かったこと」がありました。
- 予期せぬ出来事の面白さ
いつものルーティンを壊してくれたことで、日常の中にちょっとしたサプライズが生まれたのが面白かったです。SNSのネタにもなりましたし、後日、他の同僚に話しても「そんなことあるんだ!」と盛り上がってくれました。
- 手作業の価値の再発見
ミサキがナイフで手際よくオレンジの皮を剥いてくれたんです。普段から料理好きで手先が器用な彼女のおかげで、甘酸っぱい香りがロビーに広がり、みんなで分け合って食べるという、温かい体験ができました。搾りたてジュースでは味わえない、果物そのものの美味しさを、改めて感じられたのは収穫でしたね。
- 視点の転換のきっかけ
ミサキの「ある意味、特別な体験」という言葉が心に残っています。普通なら機械の故障と捉えがちな事象を、ポジティブなサプライズとして受け止める視点は、私にとって新鮮でした。効率性や便利さばかりを追い求める中で忘れかけていた、不確実性の中にも価値を見出すことの大切さを教えてくれた気がします。
気になったところ
もちろん、この体験にも「気になったところ」はありました。
- 本来の目的は達成されず
やはり、私が求めていたのは、ひんやり冷えた搾りたてのオレンジジュースだったんです。丸ごとオレンジも美味しかったけれど、あの日の私の喉が渇いていたのは、ジュースのゴクゴク感でした。
- 手軽さの喪失
自動販売機の一番の魅力は「手軽さ」ですよね。ボタン一つで目的のものが手に入る。それが、今回は皮を剥くという一手間を要することになりました。急いでいる時だったら、ちょっと困っただろうな、と思います。
どんな人に向いてる?
この自販機(というより、この自販機がもたらすような体験)は、きっとこんな人に向いているんじゃないかな、と私は思います。
- 日常の小さなハプニングを楽しめる人
- 効率性や完璧さだけでなく、不確実性の中に面白さを見出せる人
- SNSでシェアするような、ちょっとした「ネタ」を探している人
- たまには手間をかけて、本来の素材をじっくり味わいたい人
- 忙しい日々に、ふと立ち止まるきっかけを求めている人
使い続けて数週間の今
あの丸ごとオレンジ事件から数週間が経ちました。年が明けてオフィスはいつもの日常を取り戻し、企画書も無事提出。私も、あの自販機を時々利用しています。でも、あの日以来、自販機を見る目が少し変わったんです。
便利さや効率性を追求する中で、私たちは無意識のうちに「完璧な結果」を求めがちです。ボタンを押せば必ずジュースが出てくる、という当たり前の中に身を置いている。でも、あの日の「オレンジの抵抗」は、その完璧さの裏にある「不確実性」を私に教えてくれました。
以来、私は日常生活で予期せぬ出来事が起こっても、以前より少しだけ肩の力を抜いて受け止められるようになりました。完璧でなくても、計画通りに進まなくても、それはそれで面白い展開になるかもしれない。そう思えるようになったのは、あの丸ごとオレンジとミサキの笑顔のおかげです。
「オレンジの抵抗」は、私たちに「立ち止まること」を教えてくれる合図なのかもしれません。便利さに溺れず、たまにはハプニングを楽しんでみる。そんな心の余裕が、現代社会には必要なのかもしれませんね。
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