透明な手数料について

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📝 この記事のポイント

  • クリスマスイブイブの渋谷駅は、案の定、騒然としていた。
  • 赤と緑のイルミネーションが、忙しなく行き交う人々の顔を照らし出す。
  • 僕はその流れに逆らうように、ハチ公前の喫煙所で一服していた。

2025年12月23日。クリスマスイブイブの渋谷駅は、案の定、騒然としていた。赤と緑のイルミネーションが、忙しなく行き交う人々の顔を照らし出す。僕はその流れに逆らうように、ハチ公前の喫煙所で一服していた。吐き出す煙は、冷たい空気に触れると瞬く間に消えていく。まるで、僕の抱える小さな憂鬱のようだった。

新しいスタートアップ企業に転職して、早三ヶ月が過ぎた。アプリ開発の会社で、僕は主にマーケティングを担当している。華やかなオフィス、自由な服装、フレックスタイム制。一見、理想的な職場環境だが、どこか引っかかるものがあった。それは、会社の急成長を支えるビジネスモデルの、あまりにも「透明な手数料」だった。

「ねえ、聞いてよ。またカバン、偽物だったんだって!」

カフェで向かいに座った友人、ミサキが憤慨していた。彼女はフリマアプリ中毒で、毎日のように何かを買ったり売ったりしている。その日の戦利品は、憧れのブランドのショルダーバッグだったらしい。しかし、鑑定に出したところ、見事に偽物だと判明した。

「マジか…。出品者は?」

「もちろん、音信不通。運営に問い合わせても、テンプレみたいな返信しか来ないの。『当事者間で解決してください』って。結局、泣き寝入りだよ」

ミサキは肩を落とした。彼女の怒りは、単に偽物を掴まされたことだけではない。その背景にある、アプリ運営の姿勢に対する不信感だ。

「だってさ、運営は手数料だけちゃっかり取るんだよ? 偽物だって分かってても、売買が成立すれば儲かるんだから、見て見ぬふりしてるんじゃないかって思っちゃうよね」

ミサキの言葉は、僕の胸に深く突き刺さった。なぜなら、僕が働く会社も、同じようなビジネスモデルで成長しているからだ。

僕たちの会社が運営するアプリは、個人間のスキルシェアを仲介するプラットフォームだ。プログラミング、デザイン、翻訳、家事代行など、様々なスキルを持つ人が、自分の得意なことを提供し、それを利用したい人がマッチングする。

当初、僕はその理念に共感して入社を決めた。自分のスキルを活かして誰かの役に立てる、そんな素敵な世界を創りたいと本気で思っていた。しかし、現実は少し違っていた。

ある日、上司との会議で、ユーザーからのクレームに関する報告があった。それは、あるプログラマーが、低品質なコードを納品し、依頼者に多大な迷惑をかけたというものだった。

「このプログラマー、以前から同様のクレームがいくつか上がってるんですよね。アカウント停止とか、何かしらの対応が必要じゃないですか?」

僕がそう提案すると、上司は少し困ったような顔をした。

「まあ、気持ちは分かるけどね。でも、アカウント停止はちょっと…。彼、結構稼いでるんだよね。手数料収入が減るのは痛いし」

上司は、あくまでビジネスライクな口調でそう言った。そして、こう続けた。

「規約違反をしているわけじゃないんだから、運営としては、当事者間で解決してもらうしかないよね」

その瞬間、ミサキの言葉が脳裏をよぎった。「手数料だけちゃっかり取る」。まるで、自分もその一部を担っているような気がして、嫌な汗が背中を伝った。

会社のオフィスは、渋谷の高層ビルにある。窓からは、クリスマスのイルミネーションが輝く街並みが見渡せる。しかし、僕の心は晴れなかった。

休憩時間に、屋上に出てみた。冷たい風が、火照った頬を冷ましてくれる。フェンスにもたれかかり、眼下の街を眺めていると、隣に同僚のユウキがやってきた。

「どうしたの? なんか元気ないね」

ユウキは、僕と同い年で、入社時期もほぼ同じだ。彼は、僕よりもずっと割り切って仕事をしているように見える。

「ちょっと、色々考えてたんだ。うちのビジネスモデルって、本当に正しいのかなって」

僕は、ミサキの話や、上司との会議の内容をユウキに話した。

「まあ、そういう側面もあるよね」

ユウキは、あっさりとそう答えた。

「でもさ、それって、どのサービスにも言えることじゃない? Amazonだって、楽天だって、プラットフォームビジネスって、結局は手数料で儲けてるんだから」

「それはそうだけど…。でも、僕たちは、もっと違うことができるんじゃないかなって思うんだ。ユーザーが安心して利用できる、本当に価値のあるサービスを提供したいんだ」

僕の言葉に、ユウキは少しだけ真剣な表情になった。

「気持ちは分かるよ。でもさ、理想論だけじゃ飯は食えないんだよ。それに、会社は慈善団体じゃないんだから、利益を追求するのは当然のことじゃない?」

ユウキの言葉は、現実的で、ある意味、正論だった。しかし、僕の心には響かなかった。

家に帰ってからも、悶々とした気持ちは晴れなかった。ベッドに寝転がり、天井を見上げながら、色々なことを考えた。

僕たちは、本当に「透明な手数料」で良いのだろうか? ユーザーの不利益を無視して、利益だけを追求するのは、本当に正しいのだろうか?

そんなことを考えているうちに、ふと、昔読んだ小説の一節を思い出した。それは、ある詐欺師が、自分の行為を正当化するために語る言葉だった。

「世の中には、騙される方が悪い人間もいる。そういう人間から金を巻き上げるのは、むしろ社会貢献だ」

僕は、その詐欺師の言葉に、言いようのない嫌悪感を抱いたことを覚えている。そして、今、自分自身も、その詐欺師と似たような状況に置かれているのではないかと感じた。

クリスマスが近づき、街はますます賑やかになっていく。恋人たちはプレゼントを選び、家族連れは楽しそうに食事をする。そんな光景を眺めていると、僕はますます孤独を感じた。

クリスマスイブイブの夜、僕は、ミサキに電話をかけた。

「もしもし、ミサキ? ちょっと相談があるんだけど」

僕は、自分の抱えている葛藤を、ミサキに打ち明けた。

「実はさ、僕、フリマアプリの会社で働いてるんだ。で、君の話を聞いて、色々と考えることがあって…」

ミサキは、僕の言葉を静かに聞いてくれた。そして、最後にこう言った。

「ありがとう。話してくれて、少し楽になったよ。でもね、結局は、私たち消費者が賢くなるしかないんだと思う。安易に飛びつかないで、しっかりと見極める目を養うしかないんだよ」

ミサキの言葉は、僕に一つのヒントを与えてくれた。

2025年12月25日。クリスマス当日。僕は、会社に一つの提案書を提出した。それは、ユーザー保護を強化するための具体的な施策をまとめたものだった。

具体的には、

* 出品者の身元確認の徹底: 運転免許証やマイナンバーカードなどによる本人確認を義務付ける。
* 商品の鑑定サービスの導入: 専門家による鑑定サービスを導入し、偽物や粗悪品を排除する。
* ユーザーレビューシステムの改善: より詳細なレビューを投稿できるようにし、信頼できる出品者を選びやすくする。
* 紛争解決サポートの強化: 運営が積極的に紛争解決をサポートし、ユーザー間のトラブルを未然に防ぐ。

上司は、僕の提案書を軽く目を通し、「まあ、検討するよ」と言った。しかし、その表情は、あまり乗り気ではないようだった。

それでも、僕は諦めなかった。自分の信念を貫き、少しでも良い方向に進むように努力するしかない。

それから、数ヶ月が過ぎた。僕の提案書は、結局、日の目を見ることはなかった。会社は、相変わらず利益至上主義で、ユーザー保護には消極的だった。

僕は、退職を決意した。

退職届を提出した日、ユウキが話しかけてきた。

「辞めるのか? やっぱり、合わなかったんだな」

「うん。自分のやりたいこととは、ちょっと違うかなって」

「まあ、頑張れよ。でも、どこに行っても、似たようなもんだと思うけどな」

ユウキの言葉は、またしても現実的だった。しかし、僕は、彼の言葉を否定したかった。

「そうかもしれないけど、僕は、諦めない。いつか、本当に価値のあるサービスを創りたいんだ」

僕は、ユウキにそう言って、会社を後にした。

渋谷駅のハチ公前は、今日も賑わっていた。僕は、喫煙所で一服しながら、空を見上げた。

空は、どんよりと曇っていた。しかし、僕の心は、不思議と晴れやかだった。

透明な手数料。それは、現代社会に蔓延する、見えにくい搾取の構造を象徴する言葉だ。僕たちは、その構造に気づき、自分自身で判断し、行動していく必要がある。

僕の旅は、まだ始まったばかりだ。

いつか、僕が創るサービスが、誰かの役に立ち、誰かを笑顔にできることを信じて。


※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。

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 AIピック AI知恵袋ちゃん
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