📝 この記事のポイント
- 街はイルミネーションで煌めき、SNSのタイムラインは恋人たちの幸せそうな写真で溢れかえっていた。
- 私は、満員電車の中でスマホを片手に、それらを冷めた目で眺めていた。
- きっかけは、数年前にバズった料理研究家リュウジさんのレシピだった。
2025年12月23日。クリスマスイブイブ。街はイルミネーションで煌めき、SNSのタイムラインは恋人たちの幸せそうな写真で溢れかえっていた。私は、満員電車の中でスマホを片手に、それらを冷めた目で眺めていた。
今日の晩ご飯は、ローストビーフにしよう。
きっかけは、数年前にバズった料理研究家リュウジさんのレシピだった。簡単で美味しくて、パーティー料理にもぴったり。ロゼ色に輝く断面が食欲をそそる。でも、あのレシピ、ちょっと怖いんだよね。
「え?なにが?」
隣に立っていた女性が、不思議そうな顔で私を見た。しまった、独り言が出てしまったか。
「あ、すみません。ローストビーフの話をしてたんです」
「ローストビーフ?美味しそう!私も作ろうかな」
彼女は、明るい笑顔でそう言った。なんだか、無性に話したくなった。
「あの、ローストビーフって、中心が生焼けじゃないですか?あれって、本当に安全なのかなって、いつも思うんです」
彼女は少し戸惑った様子で答えた。「うーん、確かに。でも、ちゃんと焼けてるんじゃないですか?レシピ通りに作れば」
「そうですよね。でも、肉の厚さとか、冷蔵庫から出してからの時間とか、オーブンの性能とか、いろんな要素で変わってくるじゃないですか。完璧にレシピ通りにやっても、絶対に安全とは言い切れないと思うんです」
彼女は少し考え込んで、こう言った。「それって、人生みたいですね」
電車は次の駅に到着し、彼女は降りていった。彼女の言葉が、胸に深く突き刺さった。人生みたい、か。
カフェに到着し、窓際の席を確保した。目の前には、クリスマスツリーが飾られている。周りを見渡すと、楽しそうに会話をするカップルや、友人同士でプレゼント交換をするグループがいた。私は、一人でコーヒーを飲みながら、ローストビーフのことを考えていた。
ローストビーフは、完璧な幸福の象徴なのかもしれない。レシピ通りに作れば、美しいロゼ色の断面が現れ、最高の味が楽しめる。でも、少しでも手順を間違えれば、生焼けで危険な食べ物になってしまう。
人生も同じだ。成功者の言葉を鵜呑みにして、努力すれば必ず報われると信じて疑わない。でも、世の中はそんなに単純じゃない。努力しても報われないこともあるし、運が悪ければ、予期せぬ災難に見舞われることもある。
SNSでキラキラした生活を発信している人たちも、ローストビーフと同じだ。完璧に見える彼らの生活も、もしかしたら、少し生焼けなのかもしれない。見せかけの幸福を装っているだけで、本当は不安や孤独を抱えているのかもしれない。
私は、かつてIT企業で働くバリキャリだった。毎日深夜まで働き、会社の業績を上げることに必死だった。SNSでは、華やかなライフスタイルを発信し、周りからは羨ましがられていた。でも、本当は、心身ともに疲弊しきっていた。
ある日、過労で倒れてしまった。病院で目を覚ますと、会社の上司が冷たい目で私を見ていた。「君の代わりはいくらでもいる」と、彼は言い放った。
その時、私は悟った。私は、会社の駒でしかなかったのだ。私の努力や犠牲は、誰にも評価されなかった。
退院後、私は会社を辞めた。そして、自分の本当にやりたいことを見つけるために、旅に出た。
旅先で出会った人々は、皆、それぞれの生き方を持っていた。貧しくても笑顔で暮らす人々、夢を追いかけるために全てを捨てる人々、過去のトラウマを乗り越えて前向きに生きる人々。彼らの生き方は、私に勇気を与えてくれた。
旅から帰ってきた私は、小さなカフェを開いた。自分の好きなコーヒーを淹れ、お客さんと会話をする。そんな、ささやかな幸せを感じながら、毎日を過ごしている。
でも、時々、不安になることがある。このカフェは、本当に成功するのだろうか。私は、本当に幸せなのだろうか。
そんな時、私はローストビーフを作る。肉の温度を測り、焼き加減を調整する。そして、完璧なロゼ色に仕上がったローストビーフを、ゆっくりと味わう。
ローストビーフは、私に教えてくれる。人生は、完璧でなくてもいい。多少生焼けでも、美味しく食べられればそれでいい。大切なのは、自分にとって本当に大切なものを見つけ、それを大切にすることだ。
クリスマスイブイブの夜。カフェの窓から見えるイルミネーションは、いつもより少しだけ明るく輝いて見えた。私は、コーヒーを飲みながら、これからの人生について考えていた。
完璧な幸福なんて、きっと存在しない。でも、不確かな幸福の中に、本当の幸せが隠されているのかもしれない。
私は、ローストビーフのように、少し生焼けの人生を、ゆっくりと味わっていこうと思う。
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※このエッセイは、Togetterのまとめから着想を得て創作されたフィクションです。
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